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(44) 町の外れで



 街道の見張りは、勢揃いした主力による一気の攻勢で、包囲殲滅に成功した。脳内通話で魔王に気取られたかどうかは定かではないが、いずれにしても次の定時連絡までの猶予しかないと考えるべきだろう。俺達は、急いでタチリアの町へ向かう。


 ゴブリンの死骸に【圏内鑑定】スキルを発動させたところ、所属欄が「未接触魔王の配下」との表記になっていた。そうなると、東方のゴブリンははぐれ状態だと確定したわけだ。どうして黒い刃の武具を持っているのかとの疑問は残るが、組織だった行動をしていない説明はつく。


 殿はサスケ、セルリア、ルージュといった面々に任せて、俺達は避難民の先頭に立って進んでいた。道は小さな丘を避けるように、タチリアのへと続いている。夜が近づく刻限に、前方に人の群れを見つけたのは今回も先行したモノミだった。


 殺気立つフウカを抑えつつ偵察結果を待ったところ、冒険者を主体とした迎撃部隊らしいと判明した。確かに、先触れもなく二百人超規模の集団が接近すれば、この情勢下では緊急事態とみなされるだろう。


 ドワーフ戦士のクオルツとハーフエルフ魔術士、リミアーシャの冒険者組が事情説明に向かう。程なく迎撃側の陣頭で見事な槍を構えていた冒険者ギルドのギルマス、ライオスらがやって来て、緊急会談が始まった。ドワーフと白エルフ、そして犬人族らの代表も参加する形になったが、亜人排斥の機運もあってライオス以外の人間代表からは微妙な空気が醸し出されていた。


 亜人の避難民をタチリアの町で受け入れるのは、代官に諮るまでもなく困難だというのがライオスの見解だった。さらには、個々に逃走してきて合流した人間についても、保護する余力はなさそうだという。生活を自力で立て直せる者ならばとの条件は、ほぼ着の身着のままで逃げてきた彼らにはゼロ回答に近い。


 南方の村及び魔王根拠地、またはその近隣での受け入れについては、黙認に近い形となった。ラーシャ侯爵家の現当主が病に伏している状態で、後継争い中の弟たちが競い合うように亜人排斥をしているからには、公式には認められないらしい。不自由な話である。


 ドワーフ、エルフ、犬人族の避難民は事情を把握すると、それぞれがラーシャ侯爵領南部への移住の意向を固めた。俺が生活の基礎となる資材を提供すると表明したのが大きかったようだ。避難してきた人間たちには、ひとまず南方に連れて行ってから判断してもらうとしよう。


 伯爵領の状況については、人間の避難民や亜人の族長らから伝えてもらった。魔王勢力の一員と認識されている俺よりは、彼らからの方が通りやすいと考えたためである。


 ゴブリン一味と伯爵の手勢らしき者達が連携して、助けを求めたドワーフらを虐殺したとの証言は、タチリアの町の者達に衝撃を与えたようだった。白髪のギルマスは、それらしき情報は得ていたようだが、確定的となったために顔をこわばらせている。


 いずれにしても、タチリアでの受け容れは拒否された形となり、俺達は町の反対側の野原に移動して野営すると決めた。その頃には、残留して商いをしていたナギ、ウィンディ、セイヤが孤児院のシスターらと一緒にキッチンカー的竜車を持ち込む形で駆けつけてくれており、ようやく一息つけた。


 住処を失った避難民たちの未来は、必ずしも明るいものではないだろうが、死地を脱したのは間違いない。そこそこにのどかな食事風景が広がった後は、最小限の歩哨を残して死んだように眠る人々の姿があった。


 もちろん、俺もぐっすりと眠らせてもらったのだが、起きたときには至近距離にフウカの顔があって驚かされてしまった。心細くなったのだろうか。


 


 疲労の極みにはあるはずだが、戦闘能力の高い面々はすぐに東方のゴブリン討伐方面へと転戦していった。フウカも含めて戦意が異常なまでに昂進しており、休養させるのは逆に危険だとの判断からとなる。


 避難民らについては、竜車だけでなくマルムス商会の馬車も動員してのピストン輸送も交えながら、ゆるゆると移動が行われた。


 それぞれの種族の落ち着き先は、先行した各種族の族長らによって決められていった。


 白エルフは、俺の拠点の第一層である森林ダンジョンと、その近隣の森とに分ける形で仮設の村を築く方針だそうだ。


 ドワーフ達は、拠点内第二層の鉱山エリアの鍛冶場近くと、外部の平地に村を作ると張り切っている。


 犬人族は、ひとまず森林ダンジョン内に居着く形になりそうだ。


 そして、人間の避難民達は、まずは居館の宿屋で疲れを取ってもらいつつ、希望者には畑仕事や他の職を斡旋する形になるだろう。


 人数自体は三十人ほどに留まるが、人間の脱出組も居着いてくれそうなのは重い意味を持ってくる。魔王が亜人を連れてきて勢力を蓄えているとの評判が立つと、正直なところ具合が悪い。人間も含めた避難民を収容したんだという構図が描けるのは、とても助かる状態だった。


 別口でゴブリンの討伐を実施していると知り、戦闘に参加したいと表明する者は、種族を問わず出てきた。手練れであれば即時投入するが、そうでもない場合には、新兵扱いで訓練を施す必要がある。そのあたりは、コカゲとも相談してみよう。


 一方で、エルフの族長が長い寿命を通じて蓄積してきた知識に触れられるのは、とても貴重な時間となった。自分なんてまだまだ若輩者だと言いつつ、数百年の歳月を越えてきているらしい。くわしく確認しようとしたら、女性に歳を聞くもんじゃないとやんわりと拒絶された。長命族であっても、女心とはそういうものなのか。


 ドワーフの族長は若いとの話だったが、それでも百歳超だという。興味本意で交流できる立場の俺とは違って、一般の人間族の身近に彼らがいたら、排斥しようとの動きが出てしまうのはわからないでもなかった。


 エルフの族長であるティーミアとは、ソフィリアやサトミら生贄組とお茶会を重ねて交流を図っていた。ドワーフ族は奴隷として加入した二人も含めて、サイクロプスのクラフト、ノームのアーシアと共に鍛冶や関連する分野にのめり込んでいるし、犬人族は狩猟に駆け回っているそうだ。エルフはその点、比較的伸びやかな暮らしをしているようで、ドリアードのミノリと交流を深めているらしい。


 族長のティーミアが頻繁にお茶会にやってくるのは、こちらの状況を探ろうとの思惑もあるのだろうか。いつでも離脱していいと告げているのは本心なのだが、先方からすれば不安なのかもしれない。


 この日の話題は、魔物と精霊、それに人を含めた動物の成り立ちについてだった。奴隷として購入したエルフの姉の方からも情報は得ていたが、さすがに族長ともなればより詳しい知識を持っていた。もっとも、彼女に言わせれば、エルフの女王からすれば小娘のようなものだそうだが。


 魔王と勇者はやはり創世の頃には存在せず、ある時に突如現れたようだ。そのため、魔王と関わりのない古来からの魔物も多く存在しているわけだ。地竜とはまた別の生き物であるらしいドラゴンも、範疇としては魔物であるものの、魔王の勢力の外に位置しているそうだ。


「そうなると魔王は、本来的に人間を蹂躙する存在で、勇者の対になるものなのか? 人間は魔王への供物で、魔王は勇者によって倒されるために存在していると」


「極端ですが、確かにそうも言えるでしょう」


「ふむ。……エルフの最長老は、代替わりしているのか? それとも、この世の始まりから見ているのか」


「わたくしたちエルフも、無限の生命を持っているわけではありません。最も長命でも、千年といったところでしょう。現女王は七代目だと伝えられています」


 重なりがあるとしても、有史以来数千年が経過していそうだ。


「ドラゴンは、始まりからずっと同じ個体なのか?」


「高位の竜は、記憶を持ったまま再生するとされています」


「なら、最初の魔王と勇者も知っているのかもな。……追加概念は、神によって行われているのか」


 元世界でオンラインゲームに接していた俺には、アップデートという言葉の方がしっくり来そうだった。


「で、これまでの魔王は、どんな存在だったんだ?」


「わたくしの知る限り、例外なく人間を蹂躙してきました」


「魔王たちがそうした理由は何だ? 何の得がある?」


「それは……、まさにそういう存在だったとしか。直近の魔王は、当初は人間に融和的であるかのように擬装したのち、一気に蹂躙したと聞きます。それはもう徹底的に。……でも、あなたはそうではなさそうですね」


「ああ。俺は、新たなアップデートによって現れた、これまでとは異なるタイプの魔王なのかもしれない」


「あっぷでーと?」


「俺の故郷で、世界への概念の追加を表現する言葉だ。今回の魔王の大量発生というのは、これまでにない事態なのだろう?」


「ええ、複数の魔王の同時出現については、わたくしたちも憂慮しています。それに……、これはその追加概念ではなく、時代の変遷によるものですが、神聖教会の動向もあって、人間が必ずしも味方とは言えなくなりました」


「神聖教会……、天帝教は、人間至上主義を唱えて亜人を排斥している、との理解でいいのか?」


「ええ。帝王国の国教となったために、急速に広まった状態です」


 帝王国と、もう一つの大国らしい神皇国とやらについても情報を得たいところである。柔風里で情勢に翻弄されたらしいエルフ族からは詳しい話が聞けそうだが、話が飛びすぎては散漫になる。また改めて問うてみるとしよう。


「まあ、俺という魔王に利用価値がある間は、好きに使ってくれ。こちらもあんたたちの存在を利用させてもらうから、お互い様だ」


「承知しました。……それにしても、よい香りですね」


 新たに持ち込まれた薬草茶に、彼女の意識は向けられたようだ。



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