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(32) 習得すべきスキル


 襲撃が行われたからには、事情を把握しないわけにはいかない。ただ、威圧しながらだとまともな話にならない危惧があるので、今回もソフィリアを通す形になった。彼女だけでは危険なので、コカゲとセルリアにも同席してもらう。


 実情を確認するために一人ずつ聞き取ったため、少し時間を要した。話を総合すると、死んだ剣士の独断で襲撃が行われたのは確かなようだ。


 冒険者ギルドが出どころの今回の依頼は、魔王の勢力圏周辺での情報収集であって、拠点侵入までは含まれていなかったらしい。意外と平穏な情勢で、商人も出入りしていたため、訪れてみようと意見が一致したそうだ。毒まで用意していたからには、亡き男性冒険者には別の目的があったのだろう。


 途中で離脱した案内役について訊いたところ、この辺りの出身の低ランク冒険者で、元々途中まで同行の予定だったそうだ。剣士が個人的に雇ったような形だったという。


 女性陣の二人……、会見時に主に質問をしていたオレンジ髪の槍使いアミシュと、治癒術使いである紺色の髪のモーリアからは、それぞれ魔王である俺との直接対話の要望があったそうだ。それならばと、二人は夕食に招待してみた。男性二人は軟禁状態を維持しつつ、食事は同じものを供すとしよう。 


 夕食会は、魔王の威圧がありつつも比較的和やかに始められた。こちらからの出席者は俺だけだが、コカゲとセルリアらが配膳役兼護衛として侍する形となっていた。


 献立のうち、鴨肉のソテーと川エビと山菜のかき揚げが特に好評だった。また、アミシュが昼食のグラタンを気に入っていたようなので、ポテトスープを出したところ、そちらも堪能していた。


 客人二人は、偵察のみと指示されていたのに殺害を試みた道連れの行動を、本気で訝しんでいるようだった。


 戦闘経験目当てか、魔王の討伐者との名声を得たかったのかくらいしか考えつかないものの、自分の命を捨ててまでというのは、亡き剣士の行動原理として考えづらいという。


「そう考えると、あの案内役からなにかを吹き込まれていたのかも」


「それはあるかもしれません。金髪の人物で、なんだかこの近くの出身らしい話でしたけど」


「あんたらもそいつと話はしたのか?」


「ええ。何でも、村を襲った魔物は魔王の手下で、救ったように見えるのは自作自演だとか、通商を断ったバーサル村への襲撃を見過ごしたのは見せしめだったとか」


「そんな悪評が広まった時期もあったな。その情報をどう受け止めたんだ?」


「自作自演と、襲撃を見過ごすのとではやや話の辻褄が合わないように感じたので、そう指摘したら逆上してましたね」


「ほう……。どうも自作自演説がさすがに無理があるとなってから出てきたのが、見せしめ説だったようなんだ。ただ、三つの村を防衛するのがどれほど大変かが理解されると、立ち消えになっていったようだ」


「同じ出どころなのでしょうか」


「さあなあ。そいつの名はわかるか? 偽名かもしれんが」


「クルートと名乗っていました。冒険者登録をしているのなら、本名の可能性が高そうです」


「ほう」


 とはいえ、特に聞き覚えはなかった。後で誰かに訊いてみるとしようか。


「で、その案内役はどこに行ったんだ?」


「さあ……」


 二人は、さほどの興味はなさそうだった。


「それでね。死者が出たのはこちらのせいなんだけど、それでもあなたたちの誰かにギルドに同行してもらって、直に話をしてもらった方がいいんじゃないかと思うの」


「……そんなに、冒険者ギルドは切羽詰まってるのか」


「そうなのです。侯爵家の跡目争いが激しくなっているところに、伯爵領方面は不穏だし、ゴブリンは発生するし……」


「さらに、俺という魔王が現れたと」


「はい。しかも、この星降ヶ原だけでなく、よそでも魔王が出現しているらしいとの話もありまして」


「そうなの?」


 女性治癒士の言葉に、この場でもっとも驚いたのはアミシュであるようだった。コカゲとセルリアは、やっぱりそうなのかとでも言いたげな表情である。


「町に行くとすると、この威圧状態をどうにかしないとなあ」


 これまで触れた相手の怖がり具合を考えると、魔王と接触するとわかっているかどうかと、精神力の強弱、好感度などで差が出るものと推測される。フウカが名付け前から怖がる様子がなかったのは、勇者としての特質か、精神力との兼ね合いか。


「主さまが自ら行かれるのですか?」


「行くとしたら、その方がいいだろう。【欺瞞】ってスキルでどうにかなりそうな気はしているんだが」


 スキルのうちで、魔王個人が対象となるものの一つがこの【欺瞞】で、勢力レベル4になった段階で取得可能となっている。魔王としての認知を妨げる効果ありと説明されているからには、おそらく威圧解除なのだろう。


 スキルは、なんらかの条件を満たして自動取得されていくのが基本のようだが、選択しての取得も可能だった。勢力レベルの上昇ごとに追加されてきたスキルの中には、役立ちそうなものも幾つかあった。


 これまでポイント消費でゲットしたスキルは、レベル1スキルで5ポイントの【言語<魔物汎用語>】のほか、一桁台で獲得できた刀術系スキル【薙ぎ】【受け流し】に、100ポイントの【圏内鑑定】くらいだった。刀術スキルは、実戦を重ねると習得できていったのもあって、その後は獲得していない。


 勢力レベル2、レベル3、レベル4になって追加されたものはいろいろあったが、レベル2対応の勢力スキルは二桁、レベル3では三桁の前半程度まで、レベル4では三桁後半から四桁まで幅広かった。


 そう考えると、【圏内鑑定】はレベル1スキルではなく、やはり知力ステータスに依存して出ていたものだったのかもしれない。


 ダンジョンをどこまで増築したくなるかが不明だったので、DP、魔王ポイントの消費はなるべく抑えてきた。けれど、ここは使いどきなのだろう。


 脳内のウィンドウを操作して、【欺瞞】を取得、発動させる。消費された千五百ポイントは、先日ダンジョンの二層目増設に費やしたポイントの四分の三となる。これで、残高は三千少々となった。有効だといいのだが。


「感じは変わったか?」


「はい、押さえつけられていたような感覚が無くなりました」


 モーリアが晴れやかな声で言明したのに対して、オレンジ髪の槍使いの方は、さほどうれしげではなかった。


「あの緊張感、慣れれば癖になる感じだったのに」


 意外と大物なのかもしれない。まあ、商人たち相手にも試してみるとしよう。




 遠隔組とも脳内通話で調整し、タチリアの町訪問の手筈を整えていく。


 探索任務の指示内容からして、冒険者ギルド側からの仕掛けはすぐにはなさそうだが、魔王本人が訪れたとなれば、一気に首を獲って禍根を断とうとする可能性もある。そう考えると、主力を派遣する必要があるのだった。


 一方で冒険者達からは、現状ではタチリアの町を含む侯爵領内で人間以外のいわゆる亜人、すなわちエルフや獣人らが迫害されつつあるので、メンバーは人間のみとした方が無難との助言もあった。


 そうなると、だいぶ選択肢は限られてしまう。


 調整の結果、タチリアの町には俺とフウカと、情報収集と戦闘の能力を踏まえてのコカゲ、ジード、セイヤ、それに商人組としてのナギ、マルムス商会の娘ミファリアとが。


 ゴブリン対応には、セルリア、サスケ、ルージュ、モノミと、ヘルハウンドのシュヴァルツ、シリウスら狼達が当たる配置とした。


 タチリアの町への移動手段は、村からの糧食と要員の輸送用にしていた、ウスズミが引く竜車にしてみた。それらの輸送は、一部は村からの荷車などで行われるようになりつつあり、また、蔵や厨房も各砦で整えられてきたため、さほどの影響はなさそうだった。


 そうそう、冒険者の案内役となっていたクルートという名の金髪の青年について周囲に問うてみたところ、あっさりとユファラ村に住んでいた人物だと判明した。


 かつてファスリームと名乗っていた頃のフウカが剣の仕合いで勝ってしまって、稽古してくれる相手がいなくなる原因となった因縁の相手だという。


 さらには、オークの襲撃の際には自警団として南方の守備に参加しながら、剣を捨てて逃げ帰ったのも、そのクルートだそうだ。フウカの兄的存在は、その際に捨てられた剣がオークに拾われたために、命を落としたとも言えるだろう。


 ユファラ村を離れたのは、オークの襲撃の際に活躍できなかったために、婚約者と不仲になったためらしい。その騒動で村と連携するようになった俺たちについて、恨みに思ったのだろうか? 筋違いのような気もするが。


 毒剣を使った剣士が命を落としたため、その人物がそそのかしたのかどうかは不明だが、まあ、気にする必要はないだろう。その時の俺は、そう判断していた。



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[一言] 主人公が勢力を拡大して上手く生き延びたら、金髪君は後世に悪名や諺的なものが残りそうですね
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