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(29) 次なる階層


「うーん、いまいちね」


 風になびく髪を押さえながら、サトミがバッサリと斬り捨てた通り、計画されていた砦からすれば、現状の施設はだいぶしょぼいものとなっている。土塁と柵に、簡単な建物と小規模な櫓というのが、現時点の精一杯だった。


 ダンジョン内であれば、建造物の設置は容易なのだが、外界では実際に建てる必要がある。割ける人員も限られている上に、突貫工事で仕上げるしかないため、ある程度の防御力を備えて雨露を凌げるだけでもよしとすべきだった。


「満足の行く状態にするまでには、だいぶ時間がかかるぞ」


「初手から万全にすべきなんて言うつもりはないんだけどさあ、駐屯する人たちの安全のためには、もうちょっと……ね」


 彼女の言葉に応じたのは、セルリアだった。


「その点は、承知してる。巡回中にも、手を入れていくつもりよ」


「頼むわね」


 尖り耳の女性が頷くさまは頼もしい。今後は忍者とダークエルフから、幾人かずつが三つの砦に詰める形になる。常にゴブリンが襲来するわけではないので、その合間に増築を進めていくのが彼女の計画だった。次の手は土塁の外に塹壕を掘りつつ、建物に手を加えていく流れとなるだろう。


 村からの人員は、同じメンバーがずっと張り付くわけではなく、交代していく形となる。本来なら農夫なのだから、無理もない話である。今の時期は、開墾や収穫後の麦畑整備があり、雑穀の収穫もそろそろ始まるようだ。


 村から砦までの移動向けには、糧食の供給を兼ねて竜車を一両用意した。砦から最寄りの村までの所要時間は、車を引く地竜の足で三、四時間といったところで、一日ずつ三村を巡る形となりそうだった。


 これで竜車は、コカゲが率いる戦闘向けと、ジードやナギが中心となる商売向けとの三両体制になる。そして、砦要員と糧食を輸送する三両目は、福利厚生的な要素を持たせるために荷台に厨房施設を設置して、手の込んだ料理にもある程度まで対応できるようにしてみた。長丁場になる可能性があるので、食の充実も図っておきたいのだった。


 村の東に設置した砦は三つで、ユファラ村東方の監視拠点と併せて防衛線を築く形となる。北側に抜けられる可能性はあるが、そちらには領都と周辺の町や村、荘園がある。その防備までは、さすがに知ったこっちゃなかった。そもそも、領内の警護は領主の責任のはずなのだから。




 クラフトが仕立て直した武具防具については、砦に向かう自警団向けに格安で供給していく。いずれ、俺達に向けられる刃になるかもしれないが、まあ、それはそれと割り切るしかないだろう。


 ゴブリン討伐向けの戦闘集団を担当する最初の地竜にはスルスミと名付けていたが、商い向けの竜車の子には額に三日月状の紋があったのでイケヅキと、人員と糧食輸送向けの子は体が灰色だったものでウスズミと命名してみた。ウスズミについては名付けのCPは未消費だが、いずれ御者役らとの交流が進めば効果が発生するだろう。


 人員配置としては、まず外周を担当する討伐組には、勇者の卵であるフウカと、忍者勢からコカゲとサスケに、ヘルハウンドのシュヴァルツ、シャドウウルフ達という構成とした。


 内周で通商しつつ討ち漏らし対応をする組には、ダークエルフのセルリアとセイヤ、忍者のジード、ナギと商人の娘にシャドウウルフらが。人員と糧食輸送向けは、忍者のモノミに指揮を取らせつつ、ダークエルフのルージュも配して砦を巡回させる形にする。


 また、砦と竜車それぞれに名付けが済んでいない面々を配備して、適性を見ていくとも決める。場合によっては、新規生成による増員も考えるべきだろうか。


 シャドウウルフについては、シリウス、プロキオン、ベテルギウスが三隊に順繰りに入るようにしつつ、砦にも配置している。


 砦の防備は、魔王勢三名、村人二、三名というのがミニマムの構成で、外周組か補給組をできるだけ滞在させて戦力強化を図る形としていた。


 交易の方は、引き続き食料系での岩塩、氷菓、ハチミツ、ジャム、干し肉に、山羊の乳で作ったチーズを加え、仕立て直した農具と武具、防具も扱う形としている。買い入れ方面では、果物、狩猟による肉、じゃがいもなどが多くなってきていた。


 この地では、じゃがいもは収穫からしばらく時間が経過すると毒が回ると考えられていて、種芋以外で食べきれないものは処分してしまうらしい。屋内に保管し、芽の周りや緑に変色した部分を取り除けば問題ない、との話はしてみたが信じてはもらえず、安く買い集める状態になった。まあ、保管しつつできるだけ栽培していくとしよう。


 また、マルムス商会の仲介で家畜の飼料向けの作物としてシロツメクサとビーツを提供してもらった。


 シロツメクサとはたまに四つ葉のものが現れるあのクローバーで、元世界では飼料として日本に入ってきた外来植物だった。窒素を溜め込む性質があるとかで、これをエサにした家畜のフンを堆肥にすればいい肥料になってくれそうだ。


 ビーツについては、ボルシチに使うやつだっけ、くらいの認識しかなかったのだが、森林ダンジョンに持ち込んで【圏内鑑定】してみると甜菜との表示がされた。これはつまり、いわゆる砂糖大根なのだろう。


 確か煮詰めるだけでなかなかの純度の砂糖ができたはずである。どちらも、さっそく栽培を進めていこう。ユファラ村からの農作業援軍が整備してくれた畑を利用するのがよさそうだ。


 同時に、各村にシロツメクサとビーツを買い取る用意がある旨を知らせて、増産を促すとも決めた。


 そのようにゴブリン討伐と通商が続いている中で、まさかの展開として新たな生贄が送られてきた。


 


 サトミは初回以降も、気が向けば隊商に参加していたのだが、その際に魔王の生贄になれば、知識を好きなだけ求められると吹聴したらしい。


 その結果、二人の押しかけ生贄がやってきたというのが今回の顛末だった。サトミは、同時に魔王の気まぐれで喰われるかもとも告げていたそうなのだが。


 二人とも女性なのはサトミの影響もあるにせよ、男性であれば村から出る選択肢を取りやすい、との事情もあるようだ。


 いずれにしても、書物の読み込みや、各分野の検討を手伝ってくれるのなら大歓迎ではある。


 当然のように名付けを求められたので、あきらめの心境の俺は知力、智恵あたりにちなんだ名前をひねり出すしかない。


 魔法に強い興味を抱きつつ、料理が得意だというちょっとむっちりとした未亡人には真智、マチと。


 幼い頃に軍勢同士の戦闘を間近で見たために、個人の殴り合いから会戦に至るまで戦いに魅入られているらしい短い黒髪の少女には智佳、トモカと。


 彼女らが魔法と戦術とに興味を持ってくれるのなら頼りになりそうなのだが、果たしてどうだろうか。




 東方から進出してくるゴブリンの捕捉撃滅と通商とを並行しつつ、鍛冶仕事や農作業を拡大させていく中で、外部からの要望が届いた。


 現状では、この地域の要所であるタチリアの町やその先への物資の供給は、マルムス商会が一手に扱う形となっている。買い叩かれている気配はなく、不都合は感じていないのだが、他の商人から直接取引の要望が出ているらしい。


 バーサル村からも聞こえてきたし、ナギも同様の内容を聞き込んできたので、確かな話なのだと思われる。まあ、殺伐とした状況なので、物資が不足傾向になるのはある意味当然で、できるだけ多くの仕入れ先を求めているのかもしれない。


 どこかの村を中継するよりも、直接商談に来たいとの話のようなのだが、この地の魔王概念がいまいち判然としない。より深刻な脅威があるって話なのだろうか。


 訪客を入れるとなると、ゴブリン対応で主力が不在なため、第一階層の居館を本拠地としている現状はやや不用心と言えそうだ。


 その話がなくても、予期せぬ急襲に備えて防備は固めておいた方がよいのかもしれない。うちの戦力増強ぶりは、蹂躙派に象徴される速攻を目指す他の魔王勢力の現状想定に比べれば、緩やかなものに留まっていると思われる。周囲はわりと急峻な山地ではあるが、山向こうで勢力を蓄えた魔王が大挙軍勢を送り込んでくる可能性もある。


 できるだけ偵察はしているが、いざ山越え侵攻をされたら、本拠での防衛戦を強いられるだろう。


 まあ、最悪の場合は、この拠点を放棄して再起を図る手もある。そのためにも、防備は固めつつも見切りどころを考えておく必要があった。




 第二層を作るとしたら、どのようなものにすべきか。拠点は当初の選択で城砦かダンジョンかを決める形だったが、ダンジョンを選んだ後での城の追加はできないようだ。


 俺が選んだ森林ダンジョンは、あたかも地上のような空間なのだが、実際には地下に陽光がこぼれてくる常識の枠外の状態となっている。


 森林以外では、特筆事項のない洞窟に、廃鉱、火山、風穴、水路、鉱山、氷洞などが候補となる。それぞれ、魔法属性あたりと対応しているのだろうか。


 主力組と、クラフト、サトミ、ソフィリア、ポチルトあたりに意見を求めたところ、防衛のしやすさと実用面で鉱山を推す声が強かった。戦闘面からも、人工構造物があるだろうからには、隠れて迎え撃つのに都合がよさそうなのだった。


 クラフトの武具、農具を始めとする道具作りは、魔王の大量出現で戦乱期に突入しかねない情勢下では基幹産業となりうる。鍛冶系の拠点としつつ、その奥部に防衛陣地を作れば、確かに都合はよさそうだ。


 かくして、貯め込んでいたDPをごそっと使って、ダンジョン第二層として鉱山区域が設置された。DPは日次追加分や勢力レベルアップボーナスなどをほとんど使わずに溜めてきたので、現時点で六千超保持していて、そのうちの二千ポイントが消費された。同時に、大地や鉱脈に詳しいとされる精霊のノームを召喚する。


 見た目は幼女ながら自称がワシというその精霊は、わりと気さくな人柄なようだ。


 今回も、ソフィリアに供物やらなにやらの対応を任せ、聞き出した好みの食事を用意して歓迎の宴を開いた。その席でクラフトと意気投合した様子の彼女には「アーシア」と名付け、二人の要望も踏まえて鍛冶場を第二層に移設した。鉱脈探査を楽しげにしているので、【圏内鑑定】で手は貸しつつも、そちらは任せてよさそうだった。


 各種鉱石に加えて、石炭や石脳油も多少は見つかっているようだ。ただ、どちらも量は大したことはないらしい。石油王への道は遠そうだ。


 あ、それと、氷室作りもリクエストしておいた。最初にセルリアの氷雪魔法で氷を確保すれば、地下の冷気とで長期的に冷凍庫状態を維持できるだろう。


 第一層である森林ダンジョンの居館は、増築して宿屋に改装した上で商店を併設する形としてみた。実際に交易商人がやってくるようになれば、食事を提供して温泉も開放するとしようか。なんだか、温泉宿みたいになってしまうが。


 交易商人だけでなく、近場の村からも気軽に取引や買い物に来てもらえる状態にするのがよいかもしれない。そう考えた俺は、商人と村の有力者を招待しようと決めた。完成披露の宴といったところである。


 調理は、俺がプロデュースしつつ、生贄という名目でやってきた中から主婦経験のあるマチと、忍者、ダークエルフからの調理班が担当する。


 今回の主な献立は、豚のカツレツを含めたカツ類に、小魚と川エビを野菜とかき揚げにしたもの、鳥肉を使ったポテトグラタンに、さまざまな味付けのグリルや串焼きあたりとなる。もちろん、氷菓も新作を投入するとしよう。



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