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(2) 初期設定



 ふと気づくと、白いのだが先がまったく見えない、白闇とでも表現すべきところにいた。


 座っているようでもあるが、浮かんでいるとも感じられる。体の感覚がないからには、視覚もないのだろうけれど、それでも正面にいる何かの強烈な迫力が感じられた。周囲にも、結構な数の気配がある。


<一方通行の魔王召喚のお誘いを承諾していただき、心より感謝します>


 意識の中に響いた音声は、「魔王オンライン」のシステムボイスそのままだった。感情が読み取れないのはいつも通りだが、心に直接伝わってくるアナウンスは誤解しようもない内容となっている。


 周囲がざわついたような感覚があるが、意思疎通はできないようだ。


<あなた方は、これより魔王として拠点を築き、人間を含めた多種族が暮らす世界に割って入る形になります。虐殺して総てを破壊するもよし、蹂躙して財貨を奪うもよし、力で押さえつけて支配するもよし。とにかく金銭を失わせれば、さまざまな用途に使えるポイントが得られます。要するに、「魔王オンライン」と同じことを新たな世界でやってもらうわけです>


 異世界転生というやつなのか。魔王としての転生……。バカらしい話ではあるが、歩の緊迫した声音を思い出すと、一概に否定もできない。


<魔王同士での戦闘も可能です。倒すか屈服させれば、それでもポイントが得られます。制圧すれば、相手の拠点も利用可能となります>


 ここは、「魔王オンライン」とは大きく異なる点となりそうだ。そうなると、だいぶ話は変わってくるだろう。


<ご自身が戦場に出るかどうかは、好きに選んでもらってかまいません。元世界の能力がある程度は反映されていますが、固有武器も用意されており、能力値の振り直しも可能ですので、影響は軽微となっています>


 さらに続いた説明によれば、拠点の整備や配下の軍勢を作っていくには、いろいろと選択していけばいいらしい。勢力構築方面は、確かに「魔王オンライン」とさほど変わらなさそうだ。


<なお、あちらの世界での死は、魂の消失となります。では、健闘を祈ります>


 そうして、また俺の意識はすっ飛んだ。



 次に意識が戻ったときには、上空視点から暗い大地を見つめている状態だった。肉体は感知できず、落下する気配もない。そして、意識の中にウィンドウめいたものが開いているのがわかった。


 なんとゆーか、ここまで突飛な展開だと、かつての日常とはっきり断絶しているのが実感できる。狙いだとしたら、うまい状態だが。


<これより初期設定に入ります。種属と、拠点タイプ、初期階層数、そして勢力値と個体値を設定してください>


 ウィンドウの選択肢に意識を向けると簡単な説明が浮かんでくる、なかなかの親切設計だった。しかも、一度選んだら終わりというわけでもなく、確定させるまで自由に選んでもいいようだ。


 上方に意識を向けると夜空いっぱいに星々が散らばっていて、その荘厳さに圧倒される。雲は見当たらないが月も見えず、地上は闇に包まれている。


 DP、魔王ポイントとCP、創造ポイントの二種類が、初期設定時点で関わってくるらしい。「魔王オンライン」では行動ポイント一本のみだったので、複雑化している形となる。


 各項目で何を選択するかによって、DP、魔王ポイントが上下していく。そして、勢力値の振り直しでも同様にDPが増減するらしい。個体値の方はCP、創造ポイントが関わっていて、その両者にまたがる項目もある。


 つまり、初期種属、拠点、勢力値、個体値のどれを重視するかを決める必要があるわけだ。死んでもOK、アカウントの再生成も可能なゲームなら、どれかに特化して試すのもありだろう。けれど、一回きりとなるとさすがに危険すぎる。


 一方で、平均値にするのもどっちつかずになりそうだ。いずれなにかで補完できそうな要素以外は切り捨てつつ、これはと思うところに重点配分していくのを基本方針と定めた。


 魔王になったら、人間世界に攻め込まないといけないのだろうか。そうしなければ、滅ぼされるだけなのかもしれない。


 攻略期間ごとに人類社会を蹂躙してきた魔王達にとっては、血湧き肉躍る展開なのかもしれんが……。


 まさか、「魔王オンライン」は召喚ありきで、魔王を育成するために作られたゲームだったのだろうか。そう考えると、不審な点はあった。基本料無料でガチャもなく、トップランカーにはすごい額ではないにしても賞金まで出ていたそうだから、何を収益源にしているのか訝しむ声は聞こえていた。まあ、そのあたりがどうであれ、この世界での死は確定的な魂の消滅だとの白闇での告知に、今のところ疑いを抱く余地はなかった。


 死ぬのは怖いから避けたいというのは、正直な想いだ。それに加えて、もしも歩が同様な状況に置かれているのなら、どうにかして助けたい。お人好しな面があるだけに、俺が承諾ボタンを押したと判断して、危険を察知しながら同じ選択をした可能性がゼロではない。いや、ぜひ思いとどまっていてほしいのだけれど。


 種族選択は、魔王としての外見だけでなく特性にも影響してくるそうだ。初期選択肢では、妖精<ゴブリン、オーク>の必要DPが格段に少なく設定されていた。他では、必要DPの低い順に人間、妖精<フェアリー>、ダンピール、獣人<犬、猫>、鬼人、獣人<狼、虎>、竜人となっていた。ゴブリンやオークになるのはぞっとしないし、DPは別のところで使いたいので、ここは人間の一択だろう。


 拠点は、城砦かダンジョンの二択となっていた。魔王城も捨てがたいが、目立たなさを期待してダンジョンを選択する。ダンジョンのタイプ・階層数は、廃坑やら水路やらさまざまだったが、森林<通常>の一階層のみとした。ちなみに通常じゃない森林としては、常時夜と常時昼が用意されていて、どちらもお高めとなっていた。


 勢力値と個体値は、それぞれ次のような初期値が設定されていた。


 勢力値:魔王肉体D、魔王魔法D、施設構築C、配下生成D、錬成D、情報B


 個体値:攻撃C、防御E、知性B、魔法D、敏捷D、器用D


 そして、保有するスキルの一つに「刀術」があった。現実世界の能力がある程度反映されているという話だったが、心当たりとしては幼い頃に近所の剣術道場に通ったことくらいとなる。ただ、達人の域ではまったくなかったけれども。


 その「刀術」は「近接戦闘」の下位スキルとなっていた。剣術や槍術、棒術などもあるのかもしれない。


 他では、「言語<人間>」、「言語<古代>」との記載もあった。


 能力値のうち、知性が高めなようなのは……、少なくとも学校の成績はトップというわけではなかったのだが。


 検討した末、方針としては魔法をまるっとあきらめ、元々高めな情報と肉体を上昇させ、個体値としては攻撃関連を重視すると決めた。魔物を従えるにしても、自分が前線に立つ方がなにかとやりやすいだろうとの考えからである。錬成については、他の手段で代替手段があると期待して、優先度を下げてみよう。


 配分は、次のような形とした。


 勢力値:魔王肉体D→C、魔王魔法D→F、施設構築C、配下生成D→C、錬成D→F、情報B


 個体値:攻撃C→A、防御E→C、知性B、魔法D→F、敏捷D→B、器用D→C


 他をもっと盛大にあきらめても、情報をAまで上げるのは無理だった。また、知性はなぜか下げられず、そのままとするしかなかった。


 その状態で確定させると、幾つかの知識が流れ込みつつ、俺はついに実体化した。そして、いつの間にか夜の森に佇んでいた。創造した森林ダンジョンの中というわけか。


 空を振り仰ぐと先ほどまで見当たらなかった月が、その姿を現していた。見ていると、細い月が徐々に真円に近づき、桃色に染まっていった。月食だったのだろうか。なんだか優しげな光が、地上へと降り注いでいた。


 先ほどよりも周囲が見通せるようになると、やや心細い心持ちになった。そう感じながら脳内の知識を探っていくと、あっさりと固有武器の出し方に意識が合った。


 右手に武器を思い浮かべると、黒い刀が出現した。握って振ってみると、手にしっくりと馴染んでいる。


 そのまま軽く動いてみると、かつての自分とはかけ離れた動きの素軽さ、振り下ろしの重さが実感できた。さらには刀身の動きを追うようにうっすらと残像が生じているようで、これはもう化け物じみて感じられた師範代のようである。恐ろしい。


 名前をつけるべきとの思考が生じたのだけれど、中二病的なよさげな名前が脳裏に浮かぶ展開にはならなかった。なんの気なしに得物を夜空にかざしてみると、黒い刀身が月明かりで鈍く光った。そうだな……、黒月こくげつとしてみようか。


 今後の勢力運営としては、魔王ポイントのDPの他に、創造ポイントとなるCP、個体の経験値であるXPが存在していて、それを増やして使っていく流れになりそうだ。


 DP、魔王ポイントは勢力の伸張度合いや魔王の行動次第で獲得できるのだという。勢力値の上昇やダンジョンの増築、勢力全体に関わるスキル取得などに使っていくものになる。


 CP、創造ポイントは、白闇の世界でのアナウンスでもあった通り、人間や他の種族の金銭的被害に応じて獲得できるそうだ。用途としては、施設構築、罠設置、配下生成、武具錬成となる。


 XP、個体経験値は、魔王のみならず配下や眷属のレベルアップにつながる値で、それぞれに設定されるらしい。個体としての俺の経験値及びレベルは、魔王ポイント・勢力値とは別物なわけだ。


 魔王個体と勢力全体、どちらにもレベルが存在していて、それぞれレベルが上がれば、DP、CPのポイントボーナスがあるという。そうなると、魔王自身の戦闘も必須となってきそうだ。


 脳内の情報検索は一段落させて、俺は森林ダンジョンの中心地へと向かった。そこには境界結晶と呼ばれる、サンドバッグくらいの大きさをしたクリスタル状のものが浮かんでいた。現状では俺色に染まっていて、他の魔王によって染め変えられればその拠点は占領されてしまうそうだ。一方で、打ち砕けばダンジョン、城砦は消滅する。


 いろいろと検討している間に、空にうっすらと青みが差していた。徹夜をした形なのだが、あまり疲れはなかった。


 まずは雨露を凌げる場所と、モンスターとを生成してみるべきだろう。そう考えた俺は、脳内ウィンドウの施設構築メニューから「居館」を選択して確定させた。設定値の500CPが減算される。


 すると、目の前に風情のある洋館が、建築する過程を早回し再生するかのように出現した。なんとゆーか、だいぶ異常な情景なのだが、既にそのあたりに麻痺してしまっているのか、あまり不思議に感じられない。移動可能な境界結晶は、謁見の間の奥にある小部屋に仮置きした。


 生成できるモンスターは、初期段階だとゴブリン、オーク、コボルト、ワイルドドッグ、影狼<シャドウウルフ>、キラービー、ポイズンアント、スライムだった。


 必要なCP、創造ポイントは、ゴブリンとオークは2CP、ワイルドドッグ3CP、ポイズンアント4CP、コボルト5CP、キラービー6CP、影狼7CP、スライム8CPとなっている。ここでのスライムは、必要CPの高さからすると、どうやら可愛らしいタイプではなさそうだ。


 CPは、初期設定時に魔王自身の個体値調整で増減させた結果、先ほどの居館設置の分を除いて800程度の残高となっている。とりあえずコボルトを生成してみると、境界結晶の近くに犬に近い二足歩行の生物が出現した。革製らしい簡素な服を身に着け、手には棍棒が握られている。


 ただ……、生成しておいてなんなのだが、目つきや口から覗く牙がだいぶ怖い。


 正直なところ、モンスターと過ごす心の準備ができていなかった俺は、コボルトに向けて自由に過ごすようにと念じると、ダンジョンの出口へと向かった。



種族選択について、当初の記述を加筆修整しました。


旧)

 種属の初期選択肢では、妖精~

新)

 種族選択は、魔王としての外見だけでなく特性にも影響してくるそうだ。初期選択肢では、妖精~


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【描いていただいたイラストです(ニ)イラスト:はる先生(@Haru_choucho)】

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白そうなんだけど、なんとゆーかとか辞めて欲しい 小説で「いう」のことをゆうとかゆーって書いてあったら作者さんは読む意欲上がるのだろうか
[気になる点] 種属選択で他の種属が提示されている中で、敢えて人間を選ぶところが非常につまらないです。一話で他の作品とは違った感じがし、面白そうだと期待していた分、余計に残念です。「人間の敵勢力の親玉…
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