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(15) 襲来の波



 東方と南方はコカゲとセルリアが交互に担当し、東にはフウカと俺が固定で詰め、東南の機動部隊はサスケが率いる形で夜の防衛がスタートした。


 シャドウウルフについては、シリウスの副将格だった二頭に新たに名付けを実施した。ログを確認したところ、即時に名付けによるCP消費が発生していたので、これまでの交流によって既に友好度は高まっていたのだろう。「プロキオン」「ベテルギウス」というのが新たな統率役で、プロキオンに東方、ベテルギウスに南方を担当してもらうと決めた。シリウスは、遊軍的な東南に配する形となる。


 軽武装の標準オークだけの集団であれば、アーチャーやメイジが含まれていても、新たに生成した配下達とシャドウウルフとでほぼ撃退可能となる。コカゲとセルリア、サスケ、そしてフウカと俺は、上位個体が出現したときに参戦する形として、それぞれの体力、気力の維持を図る。


 夜の散発的な出没は、その都度撃退に成功し、次の朝を無事に迎えられた。



 朝になると、オークの攻勢の様相が変わった。これまで十数匹程度の群れに留まっていたのが、エリートオーク数匹に引き連れられた三十匹を越える群れが襲来するようになったのである。魔法や礫で攻撃してくる個体の割合も増え、微妙に対処が面倒になってきていた。


 ただ、こちらもコカゲやセルリアの指揮ぶりが的確さを増したようで、上位個体に手練れをぶつける戦法で撃退できている。数がまとまったためか、逆に襲来回数はやや減っており、休息が取れるようになってもいた。


 午前のうちにサトミと、その被保護者的な存在となっている銀髪ダークエルフのソフィリアがやってきて、かねてから用意していた桶からのポーション浴びせ方式の治癒も始められた。二人は東方に詰めてもらって、南方で生じた怪我人はそちらに呼び寄せて治療する形とした。


 襲撃の回数が減ったにしても、上位個体の出現数が増えたからには、状況は悪化しつつあると判断すべきなのだろう。さらに強い個体が出現したなら、総てのオークについて、村への侵入を防ぐのは困難になる。


 再び村に対して避難を考えるようにとの申し入れを実施したが、今回も応じる気配はなかった。交渉役のコカゲに同行してくれたサトミによれば、今がピークですぐにも収まるのではないかとの期待と、最悪の場合を考えるべきとの意見で揺れているらしい。まあ、事態を軽く見たがるという心理自体は、わからなくもない。俺にだって、今後どうなるかの確証はないしな。


 午後になってより激しくなった襲来は、けれど突破されるほどではなかった。特に前線に立つことが多かったフウカとサスケの奮闘が大きく、怪我人こそ多く出たが、今のところ我が陣営に死者は出ていない。


 夜になっても断続的に続いた攻勢は、夜半を過ぎた頃にぱたりと止まった。村の周囲の林に、久しぶりに静かな夜が訪れていた。



「これがサトミの調べた書物にあった、攻勢が止まった状態だろうか。そうであるなら、拠点に殲滅に向かうべきなんだろうが」


 朝の光の中で、俺は主だったメンバーを集めて討議の場を設けていた。


「うーん、でも、その本に記されていたのは、上位個体が出てくるような大規模な事例ではなさそうだったのよね。期間も数日単位というよりは、一日の中でって書きぶりだったし」


「今回のような発生に当てはめてよいかどうかはわからないわけか」


「確証はないわね」


 この地の書物にありがちな抽象的な記述だったようで、参考にしづらいのは確かだった。


「いずれにしても、三分の一くらいずつ交代で拠点に戻って休養させつつ、逆攻勢をかけるかどうかを考えるとしようか。仕掛けるなら、さらに戦力を追加するべきかな」


 コカゲとセルリアに目線を向けると、二人はそれぞれに頷いた。


「主力で逆攻勢を仕掛けるなら、敵の大群と遭遇しても対処できるでしょう。その場合、村の防衛に残す戦力は少なめでよいと思われます」


 頼れるダークエルフの口調は、変わらず冷静なものとなっている。


「どこから来ているのかにもよるがな。根拠地の目星はついたか?」


 その問いに応じたのは、忍者の少女の方だった。


「確証はないのですけど、山中に小規模な集落があったようなので、そこが拠点とされている可能性はありそうです」


「そうか……」


 もしもそうなら、集落の住民は無事ではいられなかったろう。防衛に失敗したら、ユファラ村も同じ運命をたどってしまうわけだ。


 村の東方に広がる林を抜ければ、視野を遮るものは少なくなる。そこまで防衛線を前進させるのもありかもしれない。


「戦力についてはどうだ?」


「サトミや主様が危惧しておられる、さらなる上位個体が現れますと、厳しいのは確かです。一方で、取りこぼしを減らすためには、人数も重要ともなりそうです」


「そうだな。……村から離れるのなら、姿にこだわる必要もないか」


 戦力の選択肢を減らして危機に陥るようでは、本末転倒となる。そこも踏まえて、検討するとしよう。


「では、本日は引き続き迎撃態勢を取りつつ、できるだけ休養を取り、新戦力も整えて明朝に攻勢を仕掛けるとしておく。夕方の段階で最新の情報を集めて、もう一度討議しよう」


 こうして、ひとまずの方針は固められた。


 そうそう、戦闘に気を取られてまったく気が付かなかったが、この辺りの木には栗が多く、頭上に若くまだ柔らかそうなイガイガが見受けられた。無事に防衛を済ませて、秋にはのどかに栗拾いができているとよいのだが。



「ねえ、フウカはだいじょうぶなの? 本人の意志が堅いのはわかるんだけど、最前線に出すのはやりすぎな気がするの」


 元生贄であるサトミの指摘には、相変わらず遠慮がない。その隣には、銀髪のダークエルフ、ソフィリアの姿もあった。


「そうか、ステータス値が見えないもんな。……俺には、配下と名付けをした親しい存在、眷属の能力がわかるって話はしたよな」


「うん、それは聞いている。ソフィリアの賢さは、一緒に行動していてひしひしと実感しているし」


「職業、立場みたいなものも見えるって話はしてなかったかな?」


「聞いてない」


「フウカは、勇者の卵なんだ」


「勇者の卵って……、世界を救う、あの勇者の?」


「だろうな。あの子は、常人にはない能力を持っている可能性がある。そして、成長すれば、魔王をも討ち滅ぼす力を備えた存在になるだろう」


「……それなのに、育てようとしてるの?」


「それだから、だな」


 吐息を漏らしたサトミが、となりの少女に声をかける。


「ねえ、ソフィリア。なんとか言ってやってくれない?」


「わ、わたしでしゅか? そうでしゅねえ……。最善策とは言えないでしょうけど、個人的には好ましく感じましゅ」


 舌足らずな口調が、この知力の高い人物の特徴となる。可愛らしいが、エルフだけに実年齢は不明である。


「自分を滅ぼす剣を鍛えることが?」


「はい。主しゃまは、他にも多くの魔王が出現していると確信を持っておられるようでしゅ。そうであれば、勇者を育成しつつ協力関係を築いておくのは、一面においては有効でしゅので」


「他の見方からすれば、自分の首を絞めてるわよね」


「ええ。本来でしたら、避けるべきだと思いましゅ。……主しゃま。いつかお考えを、お考えの根底にある事柄について、聞かせていただけましぇんか?」


「ああ、かまわない。そのときに判断できるように、今のうちにサトミや他の者からこの世界の常識を吸収しておいてくれ」


「承りました」


 サトミは相手にしていられないとばかりに、被保護者を連れて歩み去っていった。



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