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(134) ケットシーとの対話


「グリューゼン様ですかな?」


「いや、俺はタクトだ」


「グリューゼン様の生まれ変わりではなく?」


「転生者だが、別の世界から来たんだ。その前世まではしらんが、おそらく別人だと思う」


「そうでしたか……。お持ちの魔剣についてを度外視しても、気配が似ておられたので、てっきりご本人かと」


「これは魔剣なのか? ラーシャ侯爵家から預かっている状態でな。俺の本来の得物は、こちらなんだ」


 エスフィール卿から託された剣を右手に、現出させた「黒月」を左手に持つ。


「おお、戦列のラーシャは健在でしたか。グリューゼン様が討たれた後、人界では大きな戦さがあったと聞きましたが」


「一応健在だな。昨今の魔王乱立の影響で痛手を負ったが、現当主はおもしろい奴でな。現状は連携している」


「世は動いているのですな……」


「お主は、先代の魔王に仕えていたのか。彼は、なにを考えていたんだ。人類に対して、滅ぼしたがる程度の価値は感じていたんだよな」


「そうですな……。当初は、人間とも亜人とも共存を目指しておられました。けれど……、幾つかの事件を経てからは人間のことを、地に満ちて他種族の住処を奪っていく、世界に害悪を為す存在と認識されたようです。共存を断念されて、攻勢をかけたのですが」


「当初から騙し討ちをするつもりでの融和的な振る舞いではなかったわけだな。亜人については、どう考えていたんだ」


「亜人は攻撃せぬ方針でしたが、配下の総てが従ったわけではありませんでした。それでも、亜人は比較的被害が少なかった。それと、この身の存在が……、ケットシーであるわたくしが魔将として仕えていたことが、現在に至る亜人の、特に猫人族の排斥を招くことになりました。わたくしは猫の魔物であって、猫人族ではなかったのですがな。……お訊きしてもよろしいでしょうか」


「ああ、なんなりと」


「貴方は、魔王として何を為されますか?」


「人間と、亜人とも共存を目指したいと思う。同様に考える他の魔王とも」


「勇者ともですかな」


「ああ、もちろんだ。少なくとも今のところ、このフウカと、そして他の勇者とも連携してやっていけている。できればずっと、同じところを目指していきたい」


「だいじょうぶ、わたしはタクトと共に行く」


 フウカが、聖剣の柄に手を置きながら、誓うように重ねてきた。


「……だが、道はいつでも選んでいいんだぞ。自分の言葉に縛られるべきではない」


「いいえ、わたしが行きたいの。今後もずっと、その道を自分で選び取る」


 病床の猫魔物の口許が緩んだ。


「先代とは別の道を行かれますか」


「おそらくな。……ただ、ゴブリンやオークといった、俺が邪悪と考えている存在は、共存できそうにない。そういう意味では、討ち滅さんとする対象が異なるだけで、同じなのかもしれないな」


「連中は、他者を貪る者達ですからな。先代は、人間の中に美しさも見ておりました。共存を諦めてからも、苦しんでおられたようでした」


 美点を認めながらも、最終的には人間という存在を滅ぼすべき存在だと規定したわけか。俺も、いつか同じ判断に至る時が来るのだろうか。


 まあ、元世界で人間だった俺と、ナチュラルボーンだっただろう先代魔王とでは、感覚も違うかもしれない。


「さて、まもなくこの身の命数が尽きます。我儘を許していただけるのなら、先代魔王様の剣……、<斬神ざんしん>に身を捧げたいのですが」


 説明を求めたところ、魔物は自分の身を捧げて主の剣を強化できるらしい。


「いいのか? 俺は先代の魔王を打ち倒す一翼を担ったラーシャ侯爵と連携しているし、勇者と共に歩こうとしている。先代の仇なんじゃないのか」


「勇者殿は……。こちらの可愛らしい勇者殿は、先代勇者とは現時点では力量に大きな開きがあるようですが、清冽な気配を感じます。ひりひりしますな」


「身体に障るなら席を外させるか?」


「いえ、命が燃え尽きる直前に、再び宿敵たる存在と対峙できて感無量です。そして、どうかこの身を受け容れていただければ。御身の剣にでもかまいませんが、叶うことなら先代の剣に」


「わかった。共に歩もう。……先代魔王と、話してみたかったな」


「楽しい会談となったことでしょう」


 先代も魔物を生成していたのか、それとも既存の魔物を従える存在だったのか。戦況はどんな推移だったのか。


 聞きたい事柄は山ほどあったが、この魔物の命数が尽きようとしているのは俺にもわかった。


 言われるままにエスフィール卿から預かった剣を突き出すと、強烈な存在が入ってくるのが感じられた。


 そして、魔剣<斬神>に鈍い輝きと、強い迫力が加わっていた。


 死に瀕した魔将でこの強力さだったならば、かつての魔王はどんな存在だったのだろうか。世界の半分を得たのだとしたら、俺らのような大量生産型の魔王とは、桁違いなのは当然なのかもしれない。


「俺が持つ剣にでよかったのかな」


「もちろん」


 フウカが保証してくれると、心が少し軽くなった。



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