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(133) 命令の置換


 駐屯話は、コカゲの副官的なダークエルフのシェードが、適任者が現れるまでのつなぎでよければと名乗りを上げてくれた。常識的な人物だけに、正直助かる。


 さらには、ツカサのアンデッド部隊の一部を駐留させる話もまとまった。食事も不要で、雪も苦にしない彼らは、適任となりそうだ。


 その話が決まった後で忍群魔王のコルデーからも、人が出そうとの表明が為された。


「シャルロットの配下が常駐するなら、うちからは必要必要ないんじゃないか?」


「いやいや、事実上のタクトの勢力圏としておくのが重要なのでござる」


「連絡役程度の駐留部隊を置くだけで、大げさな」


「あのエリュシオという魔王に統治する気は見受けられないでござる。となれば、事実上のタクトの領地でござろうよ」


 にたりと笑ったこの猫耳忍者魔王は、俺に何を求めているのだろう。だが、問うたところで本心を明かしてくれそうにはなかった。




 猫人族の集落の客人というのは、尋ね人と言えなくもない人物だった。積極的に探していたわけではないが、出てきてくれれば助かる存在。そう、デルムス伯爵家の嫡子である。


 ちょっと神経質そうながらも、どこか妹のリモネアに似た雰囲気がある。


「あんたは、父親に指示されて、飼い猫を探しに来ていたんじゃなかったのか」


「ああ、だが、見つからなくてなあ。流れ流れて猫人族の村に厄介になってた」


「猫人族のために、フェンリルを倒そうとかは思わなかったのか?」


「バカを言うな、俺は肉体派じゃない。化け物となんて戦えるか。しかも、犬だなんて」


 まあ、爵位持ちの嫡男がみんな剣技に優れているわけではないのだろうが。


「で、父親の命令はどうするんだ。亡くなられたぞ」


 俺は、霧元原での魔王と勇者の出現から、デルムス伯爵が討たれるまでの経緯を話して聞かせた。


「そうか。……だが、それはそれ、これはこれだ」


 当然のようにそう応じる貴種の若者に、融通の利かなかった勇者ルーシャルの面影が重なった。と、飲み物を持ってきた猫耳の娘が不安そうな表情で声をかけてきた。


「ああ、ファム。いつもすまんな」


「いいえ。……ロックルムさま、この地を離れてしまうのですか?」


「雪が溶ければな。フェンリルの脅威もなくなったそうだし」


「そんな……」


 俺はソフィリアに脳内通話を飛ばして、ミューリアに客人とこの娘の関係性を問うてもらった。恋仲未満ながら、互いに憎からずに思っているのは間違いない、との情報がもたらされた。


「ファム、滞在の間とても世話になった。感謝してるぞ」


「あの、ロックルムさまと一緒に過ごせて、わたしはとても……、その、充実していました」


「もちろん、俺もだ。とても助かったぞ」


 話が噛み合っていない。これが朴念仁という奴か。


「ロックルムよ、父親には正確にはなんと言われたんだ」


「お前の猫を探してこい。見つけるまで帰って来るな、だな」


「解釈を間違っているよ」


「え? いや、そんなはずは」


「お前は、父親の言葉を正しく理解できていない。伯爵が言っていた「お前の猫」というのは、かつて一緒に暮らしていたにゃんこではない」


「いや、そんなはずはない。仮にそうだとしたら、どのにゃんこなんだ」


「そこにいる猫人族の娘、ファムのことだ」


「え?」


「え?」


「お前は、その猫人族の娘を大事に思ってるだろう? かつて飼っていたにゃんこと同じか、それ以上に」


「う? うーん、それはまあ」


 ここは押し通してしまうべきだろう。


「なら、連れて戻れ」


 俺は必死で、そのネコ娘に目線で訴えかけた。どこまで通じたのかわからないが、やがて頬を赤らめて声を絞り出した。


「あの、お供します」


「だが……」


「これで、お前に出されていた指示は完遂される。その娘を大事にするんだぞ。亡き伯爵の願いなんだから」


「父上はそうは言っていなかった。……けど、大事にするよ」


 納得したのか、納得したふりをしたのかはわからないが、少なくともいったんは伯爵領に戻ってくれそうだ。やはり基本は男系相続なようなので、霧元原の北方はもう一段安定度を増してくれるだろう。




 今後についての相談が概ね固まったところで、俺はミューリアに呼び出された。猫人族の長老的存在が死に瀕していて、俺を呼んでいるそうだ。


「俺だけか? 他の魔王は?」


「説明したんだけど、タクトを単独で招いているのよ。うちらがすごく世話になった人なんで、頼まれてほしいんだけど。ダメかな?」


「かまわんが」


 と、そこで居合わせたフウカが話に割って入ってきた。


「わたしも行く」


 そう宣言しただけでなく、俺の腕をつかんで離そうとしない。こちらの意向を確認せずにこうして主張するのはめずらしい事態である。


 ミューリアに勇者連れでいいかの確認をしてもらっている間に、俺は紅毛の勇者に問うてみた。


「どうかしたのか」


「聖剣が、行くべきだと言っているような気がするの」


「ほう……、ブリッツはその声を聞いていないのかな」


「わからない」


 そう応じられたところで、猫人族の少女が戻ってきた。


「勇者の同席を歓迎するそうです」



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