(127) 冬山への道
本日より月曜から金曜の連日で十八回、続きをお届け致します。楽しんでいただけると幸いです。
潜龍河流域は、南を風折山脈、北を天嶺山脈に挟まれる立地となっている。そこから先の地形は完全に把握できていないが、どうやらその影響もあって降雪はさほどでもないようだ。
北側の天嶺山脈は真っ白に染められているのに対して、南の風折山脈はさほどでもない。北側からの湿気が、天嶺山脈を越えられずにその近辺で雪になるためだろうか。
拠点となっている星降ヶ原南部から周辺の情勢を見渡すと、北に友好勢力であるラーシャ侯爵領があり、西の月見里にはこちらも友軍であるブリッツ率いる勢力がいる。柔風里から山を越えたさらに西の龍尾台は、北は天帝騎士団の勢力圏となり、南にはラーシャ侯爵家の出先的なルシミナの手勢がいて、南部諸侯との共同統治を行っている。そこには、俺の勢力も加わっている状態だった。
そして、東側の霧元原では中央から南をフウカが統治する形なので、事実上の身内となっている。その北には、デルムス伯爵領があるものの、当主を失い、令嬢や家臣が維持するのを、ラーシャ侯爵家と俺らとで支えている状態だった。
さらに東の地域は強力そうな魔王勢力が席巻している。また、龍尾台の西は、人類世界の中心である中央域で、強大な勢力が相争っている状態である。油断はできないが、東西に緩衝地帯があるからには小康状態に入ったのも事実だった。
そうなると、目線は自然と南方の高山地域へ向かう。文献からすると、これまで風折山脈を越えた侵攻の記録はなさそうだ。ただ、それは潜龍河流域に大勢力がなく、攻め込む旨味がなかったためかもしれない。
まして、元世界の知識を持った魔王であれば、ハンニバルのアルプス越えのように意表を突いてくる可能性もあるし、ダンジョンを延伸して来る形での侵攻もありうる。
そういった観点から、風折山脈の状況は確認しておきたい。忍群魔王コルデーからの猫人族絡みでの助力要請には、渡りに船的な意味合いも出てくるのだった。
ただ、雪がさほどでもないとは言え、冬が明けきらぬ前の山に入るのは危険があるし、単純に寒い。防寒はきっちり考えていかなくてはならない。
そのあたりの相談を内政メンバーに投げかけたところ、月見里のワスラム勢からは猟師の冬山情報が、ラーシャ侯爵家の家宰として活躍しているシャルフィスからは、雪山にあった魔王軍の砦を攻めた際の年代物の耐寒装備がもたらされた。
そして、火炎魔法の使い手たちが張り切っているからには、実施する方向で固まりそうだった。
留守の間の内政方面としては、南方四村周辺の開墾の話が出ていた。予想される食料不足を考えれば、できるだけ増産しておきたい。その考えを伝えたところ、村からかつてゴブリン対応で設置した砦までを農地にしたいとの話になった。
主力作物である麦はもちろん、じゃがいも、甜菜なども重点栽培対象となる。
また、各村で果樹栽培や牧畜が特徴的な産業になっているのも踏まえて、果樹林、牧場も設置していくのがよいだろう。
地の精霊アーシアがゴーレムや工兵隊を率いて用地の開墾を進め、水の精霊アクアスの手を借りてユファ湖からの用水を整備しつつ、泉も幾つか設置された。
果樹の移植や苗木の植え付け、さらには春になってからの作物や牧草の播種には、木の精霊であるミノリの助力も得られそうだ。
エスフィール卿にも話を通して、今回の開拓対象である土地のうち、川を越えた東と、各村の西の地域は、我がブンターワルト勢が自由に扱えることになった。
各村の東を優先するにしても、そちらも余裕ができたら開発していくとしよう。もっとも、森林ダンジョン内の開墾が完了したわけでもないので、しばらく先の話となるかもしれない。
商売の方では、魔王バーガーに続く屋台店舗として、「魔王クレープ」の展開が計画されている。本来、魔王バーガーは辛口バーガーの商品名だったのだが、そのキャッチーさから店舗全体の名称へと切り替わり、今回の魔王クレープの登場で軽食ブランドとして確立されようとしている。
やや微妙な流れではあるが、異を唱えて「タクトバーガー」とでも命名されると目も当てられない。妥協も時には必要だろう。
本拠での食事処とカフェは魔王ブランドでの展開ではないが、そちらもやがて普及しようとすれば、なんらかの名付けの話が出るかもしれない。穏当な展開を期待しよう。
武具については、ベルーズ伯爵勢の遺棄品、タケルが確保していた物品、奴隷化した青鎧の代わりに天帝騎士団からせしめたものも含めて、クラフトらが仕立て直して、配備を始めている。ちらほらとBランクの刀剣なども出てきているのは心強い。
ただ、白騎士のファイムやシュクリーファ、あるいはルシミナらの使う聖剣や魔剣めいた威力を持つ得物とは比べるべくもない。あれらは、ランクがさらに高いのか、それとも錬成案件なのか。まあ、手の届く範囲でいい武具を揃えていくことには、意味があるはずだ。
鍛冶はクラフトとドワーフが中心になっているが、以前から武具補修に興味を示していた寡黙なダークエルフの娘を合流させている。武具補修を得意としていたスズカゲにちなんだわけでもないのだが、ミスズの名を与えてある。戦闘指揮もわりと得意なので、本拠防衛も含めて期待するとしよう。
習得スキルの方向性も含めた組織の再編は進んでおり、一方で各分野ごとの自発的な研修会的なものも開催されている。俺も、不得手な分野の低位スキルを大量に取得して、勢力全体の底上げを目指していた。
特に苦手な分野としては、魔法や錬成関連、それ以外でも土木や諜報系など馴染みのないスキルを獲得している。俺がそれらのスキルを鍛えなければ、さほどの効果は見込めないかもしれないが、ないよりはましだろう。そうあってほしい。
どういう展開になるかわからないので、風折山脈には精鋭を投入する形となる。
魔王タケルの死後の展開から、配下の魔物はいったんダンジョン付きの形となり、無主の境界結晶を入手した魔王の配下になることが判明している。
つまり、俺が命を落としても、気心の知れたアユムか忍群魔王のシャルロット、あるいはダンピール魔王のツカサが健在なら、勢力は維持されることになる。その話をした上で、アユムに残留を頼んだら、凄い目付きで睨まれて拒絶された。こうなると梃子でも動かないので、同行してもらうしかない。
ツカサは、アンデッドは冷気に強いからと同行を主張したし、シャルロットは依頼主であるからには外せない。そのため、魔王揃い踏みでの登山行となった。
ツカサもわりと強硬だったのは、臣従状態ではないために不在時の乗っ取りを疑われかねないと考えたからかもしれない。俺はともかく、参謀役のトモカあたりは可能性を踏まえて対応を考えそうなので、その手間を省こうとの配慮だろうか。
万一全滅したなら……。無主の境界結晶は人間が確保できるのだろうか。そうであるなら、エスフィール卿に託す手もあるのだが、魔王化しないとも限らないのが悩ましいところとなる。空きダンジョンが確保できたら、希望者を募って試してみるとしようか。
特に喧伝したつもりもないのだが、友好勢力のラーシャ侯爵家からは、従士の立場から一軍を率いる立場となったアクシオムが参加する運びとなった。柔風里勢からは勇者見習いのブリッツと、相変わらず寝癖が目立つ青騎士ツェルムらが。霧元原南部を勢力圏とするフウカ一味からは、こちらも勇者見習いのフウカ本人と、南方諸侯の一人、リオークルとその手勢が参加している。
俺の元々の手勢からは、忍者のコカゲ、モノミに、ダークエルフのセルリア、ルージュ、ソフィリア、生贄勢からはトモカ、白エルフ勢力としてはキュアラ、シューティアらが。同行魔王の眷属としては、狼人族のアキラ、甲鎧人のエリス、マモルに、レッサーヴァンパイアのフォッグス、ミスティアらも一緒である。
行きたがったのを断念したのは、各方面に食い込み力量を発揮しているサスケ、サイゾウ、ジードに、本拠を預けているジェイドらで、そもそも荒事向きでないセイヤや、鍛冶方面で充実しているクラフトなどは、最初からパスしたいとの意向だった。
他では、天鹿であるペリュトン、白黒の妖精であるヒナタとホシカゲも参加する形となる。空を飛べる魔物が多くなれば、今回のような遠方でも、楽に様子を見に行けるのかもしれないが、現状では確保できていない。
いずれ、空中戦も展開されるようになるのだろうか? そこまで視野に入れれば、山越え奇襲も突飛な発想とは思えなくなってくる。油断はできなかった。







