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(117) 紅と白の合戦、からのお雑煮もどき

引き続き季節外れ進行ですみません……。


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◆◆◇龍尾台・天帝騎士団駐屯地東方◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 霧元原での対魔王・勇者戦の際、本隊と離れて戦場に残留したのは、隊長であるはずのファイムとごく少数の側近、そしてシュクリーファという通常なら想定しづらい組み合わせだった。隊の大半からは、気まぐれな女性騎士が残留したのは、妹分騎士の仇討ちのためだと考えられていた。


 偵察任務にかこつけてシュクリーファが接触したのは、最近になってファイムの指揮下に入った、騎士家出身の青年だった。一般入隊から隊長にまで上がったファイムだけに、これまでは出身家の家格が高い者からは距離を置かれるケースが多かった。けれど、ジオニルの霧元原での指揮ぶりには非難する声も出ており、その若い騎士もそんな流れの中での離脱となっていた。


 本拠に帰還してからは、また状況が変わりつつあるが、それでもシュクリーファにはどうしても確かめたいことがあった。並ぶ二騎の間で、対話が進められる。


「……では、レミュールは副長殿を守ろうとしていたとの理解でよいのかしら」


「ええ、霧の中でしたので、相手もわからなかった状態だったのですが。まさか、勇者と敵対する羽目になろうとは」


「そして、聖剣の力で絡め取られた?」


「金縛りにあっていたようです。……ジオニル副長に、救おうとの動きは見られませんでした」


「勇者と取り巻きのやりとりから、女性騎士にどんな運命が待ち受けるかは、わかっていたはずね。……厄介払いをしようとしていた?」


「そこまではわかりかねます。勇者が放つ圧迫感は強いものでした。ただ……」


「ただ?」


「その……。シュクリーファ様の腹心であるとは皆が理解していましたので、よかったのかと問うた者がおったのです。答えは……」


 無言で、女性騎士が続きを促す。長めの躊躇の後で、若い騎士がまた口を開いた。


「死ぬ前に男を知れてよかっただろう、と」


 告白した人物は、女性騎士によって剣が抜き放たれるのを覚悟し、飛び退く準備を整えていた。激情型の人格だとみなされていたので、無理からぬところであろう。けれど、シュクリーファは微笑を浮かべていた。


 ……そして、遠く離れた樹木の陰に、二騎の様子を見やる者の姿があった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◇◆◇◆◇◆



 大晦日には、紅組と白組のバトルがよく似合う。今回は、歌合戦と武闘会の二部構成としてみた。城の攻防演習を行う案も出たのだが、さすがに激しくなり過ぎそうだったので、回避している。


 歌合戦の参加者は、紅組側がセイレーンのミハル、サキュバスのサキュリナ、サキュミアのデュオとハーフエルフのキュアラが。白組側がダークエルフのセイヤとサイクロプスのクラフト、それにシャドウウルフのシリウスで、魔王城の正面入口での歌唱となった。


 魔王城と森林ダンジョンを連結させたために、両エリアは階段での往来ができるようになっている。そして、魔王城周辺の地面は、従来どおりに森林ダンジョン側からは透過しているのだが、城とその付随施設は存在するように見えていた。


 結果として、魔王城の正面入口は居館付近の空に浮かぶステージとなっており、歌声も響き渡る状態だった。もっとも、総ての物音が筒抜けとはなっていないので、なんらかの選別がかかっているのかもしれない。


 いずれにしても夕方に開催された歌合戦は盛り上がり、宿屋や広間で観客が楽しむ姿が見られた。


 夜になって催された武闘会の方は、城内の広間で行われた。紅組と白組に分かれての個人戦で、治癒術があるにしても、血は見せないようにとの制限をかけた。見せたら失格と定めて、歯止めとしている。


 もしかすると、公開したらこちらの方が盛り上がったかもしれない。けれど、我が手勢及び連携勢力の主力陣の実力を世間に晒すのは危険だった。結果として、仲間内だけで堪能させてもらう形になった。


 多くの試合が行われたが、名勝負が幾つも生まれた。


 共に勇者見習いとなった二人、フウカとブリッツによる聖剣同士の攻防。


 忍びの技を駆使した猫耳忍者シャルロットとサスケの一戦。


 因縁ある赤備えと青鎧の対決として、ルシミナとツェルムも互いに白熱した剣技を披露した。


 冒険者として傭兵的に活動中の元ギルマス、ライオスの胸を借りたのはコカゲで、善戦を見せていた。


 華奢な女性青鎧シオリアは、文官としての冴えだけでなく剣技にも秀でており、頬の三本傷が特徴的なドワーフ冒険者、クオルツの戦斧と互角に渡り合った。


 そして、俺の相手となったのは、覆面魔王のコルデーだった。忍群の指揮者としての共闘はしてきたが、個人戦で魔剣を閃かせる姿を見るのは初めてで、ひどく苦戦させられた。


 その他の取り組みもさまざまな個性が出て、興味深いものとなった。特にトモカとアーマニュートのエリスは興奮していた。


 一方で、魔法勢は模擬戦には向かず、やや不満そうだった。弓矢と共に、何らかの競技会的な仕組みを考えた方がよいかもしれなかった。




 武闘会後の宴会も夜半過ぎにはごく一部を残して切り上げ、新年は穏やかに迎える形となった。


 おせち料理の再現は、とても無理だと断念したが、要するに休暇の間だけ食べられる日持ちのする食事を整えればいいわけだ。各方面に号令が発せられ、整えた献立が準備されていった。


 最低限の警戒や、訪客対応こそあるものの、ほとんどの配下がのんびり過ごせるだろう。まあ、暇を持て余して武闘会の延長戦と洒落込む連中もいるだろうが、それは好きにすればいい。


 というわけで、俺は魔王城の居室に設置したこたつもどきに入って、のんびりと過ごしていた。一緒にいるのは、フウカ、アユム、アキラと、なぜか武闘会からそのまま居残った、忍群魔王コルデー……、いや、覆面を外しているから、猫耳忍者のシャルロットだった。


 もうひとり、サトミもいるのだが、昨晩深酒をしたようで毛布をかぶって熟睡中だった。自分の部屋で寝ればいいと思うのだが、にぎやかなところが好きなのかもしれない。


「なー、タクトどの。みかんはないのでござるか?」


 こたつもどきの天板に首から上を預けた猫耳忍者が、ふやけた声を発する。


「いやー、生食できるみかんは見つけられてなくってなあ。オレンジっぽい柑橘のドライフルーツで勘弁してくれ」


 ほれ、と木の器をシャルロットの方に滑らせる。体勢は変えずに手を伸ばした彼女は、一房を口に放り込んだ。


「これは、なかなかいけるでござるな。……では、お返しに、天帝教の神官と治癒術士の関係の調査結果を報告するでござるよ」


「あ、すまん。その件は別ルートで判明した。教会が治癒術士を神官だと言い張ってるんだろ?」


「ひどいでござるよー。結構、調べるの苦労したでござるのに」


「悪かったって。でも、調べるにあたって、色々と人脈は開けたろ?」


「それはそうでござるがー。埋め合わせをするでござるー。おぞうにー、おしるこー」


「雑煮はなあ、餅がないんだ」


「それは残念でござる」


 席を立った俺は、鍋を持ってきた。


「だから、もどきにしかならないが。餅よりも、どちらかと言えばうどんに近い感じなんだが、せめて丸めてみた」


「おお、夢に見たお雑煮っ」


 ややへなへなと伏せ気味だったシャルロットの耳がぴんと立った。


「紛い物で悪いな」


「気持ちがうれしいのでござるよ」


 やや苦笑気味のアユムが、紅の髪の少女に笑いかける。


「仲いいよねー」


「ねー」


 と、少し離れたところで仮眠していたはずのサトミからも声がかかった。


「ほんと、妬けちゃうわ」


 皆によそう準備をしながらの俺の答えにも、苦笑が混ざった。


「勘弁してくれ。これでも、独立勢力同士、色々とせめぎ合ってるんだぜ」


「それは間違いないでござる。張り詰めた緊張関係の中にあるでござるよ」


 起き出してきたサトミは、フウカの隣に割り込んだ。二人して疑わしげな表情である。


「まあ、積極的に陥れるとは思わないが、道が分かれることは充分にあり得るな」


 やや大げさな動きで、シャルロットが頷く。


「そうでござる。魔王の道は厳しいのでござるよ」


「ま、いざ始末するとなったら、苦しまないようにしてくれよな」


「承知したでござる」


 本音をまぶしたやりとりに、強めに反応したのはフウカだった。


「冗談でも、そういうこと言わないで。タクトは、私が守る」


「アユムはあたしが守る」


 呼応するように、アキラも応じる。犬耳がぴんと立ったのは、宣言によってか、俺が目の前に置いて雑煮もどきの影響か。


「おお、怖いでござるな。なるべくそうならないように努力するでござるよ。……いつかは、本物の雑煮も食べたいものでござるしな」


 わんこそばではないのだが、出したすぐにあっさり食べ終え、お代わりを要請され、全員に行き渡る前に三杯が完食された。熱々ではないにしても、猫人族に猫舌は適用されていないのだろうか。


「まあ、敵対せずに済むならその方がいいさ。……餅が紛い物でよければ、汁粉もあるんだが」


「そういうことは、先に言うでござるよ。雑煮でお腹いっぱいでござる」


 笑みがこぼれて、汁粉については皆のお腹がこなれたら出そうとの話でまとまった。


 




 お雑煮タイムの後には、たわいのない話をいくつか経由して、中央域の状況話へと話題が転がった。


 当初は乱立していた魔王勢が淘汰や合従連衡を経て、主力どころは両手に収まるくらいの数になっているらしい。


「人類勢力は、軒並み健在なのか?」


「いや、二つあった公爵家のうち、先々代の王の末子が興した家は、幾人かの魔王に食い荒らされて崩壊が近い状態でござるよ。もう一方の譜代の家臣からの家は、抵抗を続けているとか。帝都は近衛軍が維持していて、他に中央軍が健在だそうでござる。あとは、侯爵以下が健闘していたり滅んだり、様々でござるな」


「龍尾台近くの戦況はどうだ?」


「潜龍河流域への出口を扼しているのが、崩壊が近づいている方の公爵家で、北隣の魔王に押されているでござるよ。そのまま入り口を抑えられると、こちら……、潜龍河流域方面に進出する可能性もあるでござろうな」


「その魔王は、どんな奴かわかるか?」


「強圧的な支配が特徴的でござるな。速攻で支配下に置いた土地の住民を、強制的に戦闘か労働かに駆り出しているようでござる。タクト殿とは、ある意味で対照的かもしれないでござるな」


「どういう考え方なんだろうな。一応は支配系か。殺戮した方が簡単そうだが」


「その領域は自分が手に入れたのだから、その地の住民、総ての産物、土地建物も自分のもので、そこで生きていくのなら役に立て、という考え方のようでござるよ」


「魔王的ね」


「本来の魔王なら、蹂躙するんじゃないのか。むしろ、悪徳領主的ってとこか。……待てよ。この世界だと、領主なら領民をどう扱ってもいいのか?」


「そこはまあ、人柄によるでしょうね。穏やかだった所領が、代替わりの結果地獄になるなんて話はよくある展開みたいだし」


「なるほどな。……潜龍河流域がその魔王に制圧されたら、きつい展開となるな。戦力的には、俺らより上なんだろうし」


「段違いでござるな」


 くわしく話してくれる気はないようだ。まあ、甘え過ぎはよくないかもしれん。


「霧元原の東はどうなんだ?」


「夕暮浦から、海へつながる立地でござるな。港町周辺は、鬼娘率いるオーガの軍勢に席巻されているでござる」


「霧元原に侵攻してくる可能性は低いって話だったよな」


「こちらは、攻めてくる勢力のみ叩き潰して、あとは緩やかな支配状態を維持して、民には関知しない方針のようでござる。支配系でも様々でござるな」


「話が遠方に向かっているけど、まずは龍尾台の方が重要なんじゃ?」


 満腹らしい猫耳忍者が頷いた。


「北には天帝騎士団と伯爵領が、中央には魔王勢が、南では小諸侯勢がいるでござるな」


「霧元原と似たような状況ね」


 そう応じるサトミは、こたつの天板に顎を乗せている。


「潜竜河に近い肥沃な土地は天帝国系の諸侯が得て、土着の神皇国系諸侯は痩せた土地の南方で搾取されていた、という構図なんだろうな。魔王にとっても、南方は旨味が少ないってとこか」


「ここ星降ヶ原は、ちょっと特殊だったわけね」


「そのようだな。……で、魔王は強いのか」


「三人の魔王が、じっくりと力を蓄え、肥沃な北側への侵攻を開始した状態のようでござるな。ただ、その魔王が全員、オークなのでござるよ」


「オークかあ」


「オークなんだねえ」


 俺たち魔王の反応に、サトミが不審なものを感じたようだ。


「なあに、どうしたのよ」


「うん、元世界でちょっとな。シュクリーファは女騎士だよなあ」


「態度からすると、姫騎士に近いかもしれないでござるよ」


「ボクも、ちょっと嫌な予感がするよ」


「だなあ」


「ただ、それを事前に注意喚起はしづらいでござるしなあ」


 こたつを囲む三人の魔王が、西隣のオーク三魔王に思いを馳せる。


「使い古されたネタかもしれんが、それを踏まえてオークを選んでいるわけだからな。そっち方面の輩である可能性はある。一応、注意はしておくか」


 フウカやアキラは、きょとんとした状態だが口を挟もうとはしなかった。不穏な気配を感じたのかもしれない。


「ところで、ものは相談でござるが……」


「なんだ? 必ず受けるとは言い切れないが」


「南の山で、猫人族がややピンチらしいのでござる。手が空いた段階でかまわないので、同行してもらえないでござろうか」


「風折山脈でか。わかった。本拠の後背だから、状況を把握しておきたかったしな。冬のうちに行った方がいいか? だいぶ雪は深そうだが」


「北の天嶺山脈と違って、そこまで雪深くはないようでござるが、それでももう少し先、春になってからござろうな」


「寒そうだしなあ。まあ、状況が切迫したら教えてくれ」


「冬の間は進展なしかもしれないでござる」


 この猫耳魔王の手は、山深くまで伸びているわけか。ピンチとなると、相手は魔王なのか他のモンスターなのか。


 まあ、本気の危機ならすぐにでもという話になるだろうから、後回しでよいのだろう。そして、めずらしく周囲の状況を教えてくれたのは、報酬の前払いだったのかもしれない。


 いずれにしても、少ししたら汁粉もどきを振る舞うとしよう。



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