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【ヴァンプ】


   †〜レッドムーンセレナーデ〜†



 どことなく紺碧こんぺきかかった闇の夜

  

 神秘を感じさせる夜空に浮かぶ月が

 不気味なぐらいに紅い


 まるで真紅の血潮を思わせる

 



 今宵の満月は

 ――古き呪われし血を呼び起こす





 Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ Ψ 




    ‡〜真紅の悲恋〜‡





 彼女の首筋から

 静かに脈打つ鼓動が聴こえる


 自分の呪われた古い血が頭を(もた)げる


 彼女は静かに寝息をたてていた


 頭を横に垂らし

 その白くほっそりとした首筋を(あらわ)にしている


 僕は静かに歩み寄り

 そっとその首筋に指先を伸ばした




 今からやろうとすることは

 彼女の優しい心を奪うことなのだ


 もしここで

 彼女の血を吸ってしまったら

 彼女の優しい心は失われ

 ただの僕の言う事しか聞かない

 哀れな死人形(どれい)になってしまう



 やめた方がいい

 それは充分過ぎるほど分かっている




 しかしもう一人の僕が

 咽喉を鳴らし

 闇に映える金色の眼を鋭く光らせ

 荒い息遣いで彼女の血を求めている



 この呪われた自分を誘き寄せるのは

 彼女の静かに流れる動脈のせいだ


 この流れさえ止めれば

 僕の中のこいつは大人しくなる




 血を吸えば

 流れは止まる


 血を吸えば……


 いや

 やめた方が……


 でも……




 そっと口を開く


 彼女が僕の気配に気付いて目を覚ます

 

 彼女がそっと僕の名を呼ぶ

 不思議そうに

 僕を見る


 そのまま僕は

 彼女の口唇に自分の口唇を押し付けた


 何度か甘ったるい口づけを交わすと

 そのまま

 僕の口唇は彼女の輪郭を伝って

 そしてやがて

 己の白い牙を彼女の首筋に突きたてた



 小さく

 それでいていやらしい声で彼女は呻いた




 外は雪



 ただ静かに舞い降りて

 周りに降り積もり

 夜の大地を

 白銀に染め上げていく


 キラキラと

 美しく舞う

 ダイヤモンドダスト



 耳が痛くなるような静けさに響くのは

 暖炉の中ではじける火の音と


 渇いた咽喉を潤す

 彼女の流れゆく甘美の血



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