元総長だけど、異世界に喚ばれたからには気合いれて聖女やってくんで、そこんとこヨロシク。
仲間と単車。それに気合と根性。
チームで総長やってたあたしには、それだけあれば十分だった。
ライバルチームとスピード勝負してたある時、強い光に包まれたかと思うと次の瞬間には大勢のバケモンの集団に取り囲まれていた。
正直、怯んだ。ノストラダムスの大預言ってこれかと思った。
けれど幸いあたしは単車に跨ったままだった。どんなヤバい状況だっていつもこの愛車が心を支えてくれていた。後は気合と根性で乗りきればいい。
肚が座ればこっちのもんだ。くぐってきた修羅場の数には自信がある。アクセル全開でバケモンの囲みをぶち抜いた。
そこは魔王軍と反魔王軍がぶつかり合う異世界の戦場真っ只中だった。
白き衣を纏いし金髪の聖なる乙女、鉄の馬を駆りて戦場に降りたてり。その聖なる力もて悪鬼魔王ことごとくをうち滅ぼさん。
この異世界にそんな伝説があるってことは後から知った。あたしの白い特攻服と金色に染めた髪を見た兵士達が涙流して喜んでいたのは、あたしを聖女だと思い込んでたかららしい。断る間もなく、あたしは反魔王軍の導き手に据えられてしまった。
決戦の日、あたしは兵士達の前に立った。
肩に担いだ旗を地面に立てると、きな臭い風に重たげに靡いた。反魔王軍の軍団名が刺繍されている。あたしのいた単車チームと同じ――その名も羅緋幽星流だ。シブい。
胸一杯に息を吸い込み、叫んだ。
「あたしは霧葉ヒヨコー! 聖女とか伝説とかよくわかんねーけどー、この羅緋幽星流の頭引き受けたからには気合入れてやらしてもらうんでー、ヨロシクー!」
ヨロシクー! と兵士達から声が返る。こいつらヨロシクを祈りの言葉か何かだと思ってる節がある。
「魔王軍、兵隊の数だけは揃えたみてーだけどー、あたしらの足元にも及ばねーっつーか雑魚だからー! お前らビビってねーよなー、ヨロシクー!」
ヨロシクー! 力強い声が返ってきた。
「っしゃあ、行くぞお前らァ!」
単車のアクセルを思いっきり吹かした。マフラーの爆音と鬨の声が重なる。
この異世界にガソリンは無かったけど、魔法で単車は動いた。失ったのは仲間だけ。そう思ってた。
でもこいつらだって結構根性あるし、気合入ってんよ。
昔の仲間に再開できた時に笑われねーように、今はこいつらと死ぬ気で異世界全国制覇目指すんで。
そこんとこ、ヨロシク。
なろうラジオ大賞2 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:聖女