094 相談
……本当にここは一人暮らしのお風呂なんだろうか。
湯船に浸かっていた私はそんなことを考えていた。華の家のお風呂はちゃんと足を伸ばせて全身を湯船に浸かれる。家のお風呂は少し足を曲げないと全身浸かれないので華が羨ましい。
私は湯船から上がるとバスタオルで水分を拭きとる。そして寝間着を着て、眼帯を着けるのだが……。
「あれ? ドライヤーない?」
脱衣所にある棚を開けてみるがドライヤーが見当たらなかった。私は探すのを諦めると、場所を聴くためにリビングに向かう。
そこでは華と宮野さんが机に置いてあるパソコンをソファーに座りながら見ていた。音で気付いたのか、華が私の方へ振り返る。
「ゆづおかえり。冷凍庫にアイス入ってるから食べていいよ。あと喉乾いてたらスポドリもあるし」
「ありがと、それよりもドライヤーは?」
「ドライヤー……かぁ」
華はそう言いつつ私から視線を逸らす……何だか嫌な予感がした。そして思い出すのはオリエンテーションの華。
確かあの時の華は私が渡したドライヤーを受け取らなかった。じゃあもしかして……。
「ごめん、ない」
「えぇ……」
華の家にドライヤーがないだなんて、泊まる前は思いもしなかった。というか、普通はあるものだよね?
「そっかぁ……ゆづは髪の毛長いし、ドライヤーいるよねぇ」
「華みたいなショートでも普通はいるんだけどね」
私はため息を吐くと手にしたバスタオルで改めて髪の水分を取っていく。その様子を見ていた宮野さんが口を開いた。
「わたしのドライヤーでよければ貸しましょうか?」
「え! 持ってるの⁉」
「はい、前に泊まった時に無いのは分かっていたので」
「ありがとう宮野さん‼」
カバンから取り出されたドライヤーを私は受け取ると早速髪の毛を乾かす。
本当に、宮野さんがいてよかった。
「それじゃあ、今度は奏が入ってきてよ。あたしってお風呂出るの遅いからさ」
「分かりました」
宮野さんは寝間着を持ってお風呂場に向かっていく。空いたソファーに私が身を預けると華が少し言いづらそうに話しかけてきた。
「ねぇ、ゆづ……」
「ん、なに?」
「えっとさ、一つ……提案があるんだけど」
「提案?」
「うん、能力について……なんだけど」
その言葉に私は思わず華の顔を見る。改めて、いきなり何なのだろうか。
「何人か話せる人たちに話してみるのもアリなんじゃないかって」
「話せる人? 宮野さん以外に?」
「うん。例えば神崎くんとか……如月くんとか」
「…………」
その二人の名前が出ることは予想通りだった。だけど実際に聞かされると何て言おうか非常に困る。
「あ、無理なら無理でもいいんだよ。確かに周りに打ち明けるのは怖いだろうし、勇気もいるし、関係性も……変わるかもしれないし……」
華と宮野さんは受け入れてくれた。でも、それは既に能力の存在を知っていたから。
じゃあ能力を知らない人……翔と神崎くんが知ってしまったら……。二人はこんな私を受け入れてくれるだろうか? 受け入れてくれる――そう信じたい……けど。
ふと脳裏に夢の光景が生じる。バケモノと呼ばれたあの夢。人から拒絶されて、自分の存在価値を否定された夢。一人の孤独を感じた……あの夢。
「ゆづ? なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「え? いや、何でもない」
私はさっきまでの考えを頭から消す。不安材料があるなら答えなんて決まってる。
「まだ、話さないでおくよ」
「そっか。怖いもんね。分かった。じゃあ能力は三人だけの秘密だね」
華は笑顔で返答する。でもその顔は何かを隠しているような気がした。




