090 因果応報
――ガチャッ!!
扉が開く音がして私は正気に戻った。
いけない。早くいつものようにならないと。こんなことを考えて友達と過ごすなんて、ただ面倒くさい女だ。そう、いつものように……。
「ただいまー!」「失礼します」
「おかえり!」
華は食器棚からコップを取り出すと、机に置いて言う。
「奏が何か飲みたい時はこのコップ使ってね」
「あ、ありがとうございます」
宮野さんは早速お茶を注ぐと一気に飲み干した。その光景が珍しく感じ、私はからかう様に言う。
「おぉ! 良い飲みっぷりだねえ」
「あはは……駅からずっと走ってきましたから」
「あの距離を!? 別にそんなに急がなくても良かったのに」
確か駅からは歩いて二〇分以上かかったはずだ。その距離をずっと走って……。私には一生出来そうになさそう。
私もお茶を注ぐと少しずつ飲んでいく。そこで宮野さんが口を開いた。
「そういえば、わたしはどうして呼ばれたんですか?」
その言葉に私は固まってしまう。そんな私に気付く様子もなく華が首を縦に振った。
「そうだね。でもまぁ、それはゆずが話すことだよ」
ついにきてしまった……。
思わず壁に掛かっている時計に目が行ってしまう。土曜日だからか、放課後なのにまだ三時三〇分を少し過ぎたあたりだった。このお泊り会中に話そうと思ってたけど、こんな早くに話すだなんて……。
何だか緊張で心臓の鼓動が速くなってきたかも。
「ゆず?」
「あ、ごめん。少しぼぉっとしてた」
すぅ……はぁ……。
静かに深呼吸を行う。何を、どのように話すのか……。宮野さんが知りたいこと、私が話す内容を思い返す。
それらを整理し終えると、私は謝るように頭を下げて言葉を紡いだ。
「まずはごめんなさい! 私、ずっと宮野さんのことを騙してたの」
「騙してたって……え? どういうことですか?」
言っている意味が分からないと言わんばかりの表情を浮かべる宮野さん。私は丁寧に着けていた眼帯を外した。
露わになる私の左目。開放的な視界になったのを確認して私は宮野さんのほうを改めて見つめ直しす。
”え? 何で目が……。カラコン? でも流れ的に大事な話のはずだよね? もしかして能力……とか? でも今までは……"
宮野さんはやっぱり戸惑った。当然だ。今まで普通の目だった人が、桃と紫のオッドアイになってたんだから。
故に私は気になるのだ。翔がこの左目を見て戸惑わなかった理由が……。
宮野さんはしばらく考えてから、さっきまで整理していた内容を口に出した。
「その目はカラーコンタクト……ではないんですよね?」
「もちろん」
あまりこの目を晒したくない私はすぐに眼帯を着け直す。狭まる視界と同時に消える宮野さんの声。それに安心感を覚えた。
「でも今まで両方とも桃色の目でしたよね?」
「……まぁね」
「じゃあどうして今になって紫の目になったんですか?」
あれ? 何だか会話が合っていない気が……。宮野さんには紫の目がカラコンじゃないってさっき言ったのに……。
「カラコンじゃないなら、望月さんって桃色の目と紫の目を自由に入れ替えられるんですか?」
……どうしてこんな話を振ってくるんだろ? だってカラコンは桃色の目を使ってて……。
――あ、もしかして。
「宮野さん、もしかして勘違いしてない?」
「どういうことですか?」
「今の私はずっとオッドアイだったんだよ。だから普段の私はカラコンを着けてたってこと」
「え?」
素っ頓狂な声を出す宮野さん。つまるところ、普段見せていた私はカラコンを着けていないと勘違いしていたのだろう。
「そ、それじゃあどうして今更眼帯を? カラーコンタクトでその目が隠せるのなら、する理由がないですよね?」
「確かに今まではそれで解決だったんだ」
「今までなら?」
気になる単語だったのか、宮野さんが聞き返してくる。だから私は意を決し言葉を紡いだ。
「薄々勘付いているかもしれないけど、私も能力を持ってたんだよ。そのせいで目が紫になっちゃって……」
「能力ってどんな能力なんですか?」
「相手の考えを知れる能力だよ。だから相手の考えを知れなくするように眼帯を着けてるの」
「やっぱり望月さんも……。じゃあその眼帯は俗にいうマジックアイテム的なものでしょうか?」
「そんな大層な物じゃないよ。どこでも買えるような眼帯」
「じゃあどうやって……。その紫の目を隠すためにしてるんじゃないんですよね」
「うん。私が眼帯を付ける理由はね、私の能力の発動条件が左目で相手を視認することだからなの」
私の発言にふむふむと首を振る宮野さん。しかし、それだけでは納得できないようで口を開く。
「でしたら、眼帯を着けていなかった時は能力をまだ貰っていなかったんですよね?」
「いや、それも違う。私に能力が発生したのはゴールデンウィーク中なんだ」
「ゴールデンウィーク中……」
宮野さんが静かに復唱して考え込む。いったい何を考えているのだろうか?
「……望月さん、わたしが能力で悩んでいた時に自分が言った言葉……覚えていますか?」
「…………」
覚えてる。だから思わず黙り込んでしまった。
そんな私に追撃を仕掛けるように、宮野さんは言葉を続ける。
「『私にもよくわからない』。確かこんなことを言いましたよね?」
「…………」
「どうして、嘘をついたんですか?」




