79 クラブ対抗リレー
……と威勢よく言ってみたけど、それで運動音痴が克服できる訳ではない。体操服に着替えた私たちはグラウンドを走っていた。
「ほら! 足を回す! それと腕もよく振って!」
「は、はいぃぃ……」
クラブ対抗リレーは4人がトラック半周を走り、アンカーだけが1周走るというもの。ちなみにアンカーは部長がするという決まりがあるらしい。
なので私は200メートル走ることになった。しかし私は50メートルすら全力で走ることができない。
なので途中から体力が切れて失速してしまい、最後はジョギングのような速さになる。
なんとかゴールした私は地面で四つん這いになった。息が苦しくて大きく胸が上下する。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「うーん……想像以上だよ。まさかここまで遅いとは……」
「はぁ、はぁ、そんなの、私が……よく知ってます」
横目で翔たちを見てみると3人でバトンを渡す練習をしていた。
「でもまぁ安心して。ワタシが望月ちゃんをせめて平均には持っていくから!」
「よ、よろしくお願い……します」
それからは体力が戻れば走り、また休憩しを繰り返していた。何度も橘先輩の説明を意識したり、初めはある程度の速さで走ったりと工夫する。
「よし、それじゃあ最後のタイムを計るよ! 用意はいい?」
「はい!」
「よーい……」
いつ合図が来てもいいよう集中する。
「――ドン‼」
瞬間、私は走り出した。8割ぐらいを意識して走り、残り4分の3ぐらいを切ると足により力を入れる。
力を込めて地を蹴り、腕を振る。残り少しでゴールになるが気を緩めない。ゴールよりも少し後をゴールと思い走り抜けた。
ストップウォッチの音が聞こえると同時に勢いを弱め、辛いが歩いて橘先輩に近寄る。
「おぉ! 今日一番の記録だよ!」
「そ、そうです……か」
良かった……ちゃんと早くなってる。
そこで緊張が抜けて足の力が消えた。練習の初めのように四つん這いになる。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
とにかく呼吸することを意識する。地面にポタポタと汗が落ちていく。吸う息が喉を冷やすようで、呼吸が辛い。
「おぉ! 頑張ってるねぇ‼」
「ひゃん⁉」
急に声が聞こえたかと思うと、首筋に何か冷たいものを当てられた。驚きのあまり変な声を出してしまう。
「あはは、望月さんってば可愛い声を出すね」
「高橋先生⁉」
「ごめんねぇ。今日は採点が忙しくてこんな時間に来ちゃったよ。頑張ったご褒美に、みんなにはこれを差し上げよう」
高橋先生は手に持っていたスポーツドリンクを私に渡す。そしてカバンから次々にスポーツドリンクが出していく。
「旅行部集合! 高橋先生が差し入れを持ってきてくれたよぉぉー‼」
橘先輩の声に反応する翔たち。互いに顔を合わせると一斉に走り出してきた。神崎くん、翔、華の順番で私たちの前に辿り着く。
「まぁ、僕が一位だよね〜」
「くそう……毎日走ってるのに」
「あぁぁぁー‼ 悔しい‼」
「相手が男子なんだし、華は負けて当然じゃないの?」
「違うよ!」
ビシっと私に人差し指を向けて華は続ける。
「そういう『相手が男子だから〜』とか、『運動部だから〜』って言葉で片付ける問題じゃないんだよ。あたしはそういう概念に縛られたくないの!」
「おぉ、佐々木さんってばいいこと言うじゃん。先輩は嬉しいよ」
そう言って橘先輩は華にスポーツドリンクを手渡す。華は軽く頭を下げると一気に半分近くまで飲んだ。
「それじゃあ今から着替えに行くわよ。男子二人は更衣室に行ってきて。ワタシたちは旅行部で着替えるわよ」
それから着替え終わった私たちは旅行部の部室で翔たちを待っていた。汗で体が濡れていて気持ち悪い。次回からタオルを持ってこないと。
翔たちが部室に入ってきたところで橘先輩が口を開いた。
「何か聞きたいこと、気になったことは何でも言って ね。今日やってて思ったことある?」
「そういえば私はバトンを受け取る練習しないんですか?」
走ることしかしていないのを思い出し、早速聞いてみるが、それを橘先輩はサラッと答える。
「もちろんしてもらうよ。望月ちゃんは三番目の予定だし」
「三番? てっきり『バトンを受け取れなさそう』とか言われてスターターになるのかと」
「リレーって途中にある線に早く着いた順でバトンを渡す時のレーンが内側に寄るんだ。だからあまり差が開かないように真ん中に望月ちゃんを置くの」
「なるほど」
そんなルールがあったんだ。私自身、リレーを走る経験がなかったので知らなかった。
「他に質問は?」
しかし誰も答えない。それを確認した橘先輩は解散と告げる。私はいつもより重い体を立たせ、みんなと帰路を辿った。
カラコンを外し、早めのお風呂に入るとベッドに体を沈める。本当に疲れた。明日は筋肉痛になってるかもしれない。
今は何もする気が起きず、ベッドの上で寝転がりながら休むのだった。




