72 幻聴
「……さん。……づきさん?」
「ん……うん?」
「望月さん? 起きてください」
私の名前が呼ばれた気がするので目を開ける。私の前に宮野さんがいた。どうして私ってば宮野さんに起こされてるんだろ?
"早くテスト回収しないと。もう1科目終わりましたよ"
「早くテスト回収しないと。もう1科目終わりましたよ」
「え、あ、うん……ごめんね。すぐに集めるよ」
何だか宮野さんの声が重なっているように聞こえた気がしたんだけど……まだ寝ぼけてるのかな?
"昨日は夜遅くに寝たのかな?"
「ん? いや、そうじゃないんだけど急に眠気がね……」
「? 望月さん何の話ですか?」
「え、あ……ごめん。何にもない」
私は立ち上がって宮野さんのテスト用紙を回収する。さっき宮野さんの声が聞こえた気がしたんだけど……気のせいかな?
私はあまり気にせずにテスト用紙を回収していく。そして先頭までくると出席番号順になるように廊下側の列から教卓に置いた。
何だか今日はいつもより騒がしい気がする。初めてのテストだからだろうか。今回もみんなは自信があるようだ。
試験管役の先生がテスト用紙の枚数を数え終わると休憩の号令を出す。私は次の科目のノートを取り出すと一応開いた。
「も〜ゆづは真面目だなぁ。勉強会の時でほぼ完璧だったんだから本番も大丈夫でしょ?」
「まぁ……うん」
「ねぇ、あたしも見せて」
「いいよ」
私は華にノートを手渡す。今日は3科目あるから一応3つ目の科目のノートも取り出した。
"よくこんなに綺麗なノート書けるよねぇ"
「まぁ、暇だったからね」
「ん? 暇って何の話?」
「え? ノートの話じゃないの?」
私は困惑気味に答える。すると華は私の向きを反対にして肩を押してきた。
「ゆづ、ちょっとこっち」
「え? え?」
優しい力で押されたので倒れはしない。どちらかと言うと前に進ませる押し方だ。私は戸惑いながらも華に従って前に進む。そして人通りが少ない廊下で華は止まった。
「華……一体どうしたの?」
「ゆづ……あたしの心の声見た?」
「いや、見てないよ。頭上見てないし……」
「じゃあさ、あたしの口を見ていて」
そう言って華は私の肩を掴んでいた手を離す。なので華の方に向き直った。
"これで大丈夫かな? あたしの声聞こえる?"
「え……何で口が動いていないの?」
なんと華の口が動いていないのだ。まるでというか、現在進行系で華は腹話術をしている。でも、一体これに何の意味が……。
「どうして腹話術なんかしてるの?」
"腹話術? なるほどね。やっぱりあたしの声聞こえてるんだ。ちなみにこれは腹話術じゃないよ"
「じゃあ何なの?」
"――あたしの心の声"
「え?」
思いもよらない言葉に思わず動揺してしまう。心の声が聞こえる? どういうこと? だって私の能力は心の声を読むだけなのに……。
「私の能力じゃ心の声は聞こえないよ」
"でも実際に聞こえてる。でしょ?"
「……でも、どうして聞こえるように……」
"そんなの知らないよ。ねぇ、ゆづ。何か心当たりない?"
「別に……いつも通りだったよ」
"じゃあ何か心の声を聞けなくする方法はないの?"
「そんなこと言われても……」
とりあえず耳を塞いでみる。しかしハッキリと聞こえる。まるで脳に直接語りかけてくるようだ。
「耳を塞いでも駄目。頭の中に直接語りかけてくるみたい……」
"他に何かない? 前は頭上を見ないこと以外に対処方法はなかったの?"
「あ! それなら」
私は左目を閉じて華を見る。すると華の声が急に聞こえなくなった。今も華は何か考えてるのかな?
「聞こえなくなったよ。今も何か考えてる?」
「うん、考えてる。じゃあ左目を閉じれば大丈夫ってことだね」
今度は華の口が動いていた。どうやらこれで成功らしい。一時はどうなるかと思ったけど、意外と何とかなるかも。
「ありがと! 華! これで何とかなりそうだよ!」
「そうだね。でも、ずっと左目を閉じてるって何かおかしくない?」
「確かに……じゃあどうしたら……」
「今から保険室に行ってくるとか? それか、今日は昼で終わりだからそれまで我慢するとか……」
「うーん……それだったら我慢しようかな。はぁ……明日から眼帯生活かぁ」
「ドンマイ。まぁ仕方ないよ。それじゃ、今日室戻ろ。そろそろテスト始まるよ」
「そうだね」
私は左目を閉じながら歩いて教室に向かう。それにしても、本当に面倒くさいなぁ……。
そう思いながら教室に入り、次の科目のノートを少し見直す。残り2分ぐらいになるとノートをカバンに閉まって席に着いた。
それから少し時間が過ぎてチャイムが鳴る。私は先程のようにサラサラと答えを書いていった……のだが……。
(あれ? これって何だっけ?)
1問だけ分からない問題があったのだ。昨日の私なら答えていたはずの問題。所謂ど忘れだ。何度もその問題を読み直すが答えが浮かんでこない。
私は半分答えるのを諦めて前にある時計に目を向ける。……その時に何人かが視界に映ったのがいけなかったのだろう。一気に複数の声が聞こえ始めたのだ。
脳に直接語りかけてくる……そう感じるようになったからか、少し頭が痛くなってきた。しかし、悪いことだけでもなかったようだ。
(あ、それか……)
複数の声と共に答えと思わしき声も混じっていたのだ。私はすぐに机上に視線を戻す。そのおかげで声は収まった。――でも……。
(答えを書こうか……書かないか……どうしよう)
悪気がなかったとはいえ、これは当然カンニング行為だ。私の実力ではない。でも……答えを知ってしまったし……。
「残り10分になったぞ。もう一度クラス出席番号名前を書いてるか確認しろよ」
そこで試験官役の先生の声が聞こえてきた。私は一度そこを見直す。そして悩みに悩んだ結果……唯一あった空欄を埋めた。
まぁ、しょうがないよね。だって出来るだけ良い点数取りたいもん。




