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心のヒストリー【現在推敲中】  作者: 西影
第6章 スペル
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68 観察眼

 俺と拓也は自転車を使い、近場のスーパーに向かう。空はオレンジ色に染まっており、今が夕方なのだと改めて思った。


 スーパーに入るとお菓子やジュース、カレーのルーを先に買い物カゴに入れる。次に食パン、ジャム、肉や野菜などを入れると予想通り拓也の手が必要になった。


「ちょ、流石(さすが)に買いすぎじゃないの?」

「いや、ちょうど色々と切れてたところなんだよ。なんの為にお前を呼んだと思ってたんだ?」

「そりゃそうだけど……まぁいいか。これで買い物は終わりだよね?」

「あぁ。それじゃあ会計済ませに行くか」

「今更だけどこんな量買ってお金足りるのか?」

「親父からはこういうの買い物込みで金を渡されてるんだ。だから普通に足りるよ」


 俺はレジで会計を済ますと慣れた手付きでビニール袋に入れていく。その姿を見て拓也は関心しているようだった。


 帰り道。買った量が多いので自転車を押して歩いた。時間的には余裕があるのでこのまま歩いていても間に合いそうだ。


 今の時間なら結月たちは煮始めたところだろうか?


「なぁ、ちょっと聞いてもいいか?」


 そんなことを考えていると拓也が声をかけてきた。俺は前を向きながら答える。


「どうした?」

「お前の右目はいつ話してくれるんだ?」

「……右目? なんの話だ?」


 足を止めそうになるが、なんとか動かして前に進む。しかし、それも無駄だったようだ。


「隠さなくてもいい。原因不明の失明なんだろ?」


 俺は足を止めて振り返る。そこまで知ってると言うことは隠しても無駄だろう。


「どこで知った?」

「如月先生からだよ」

「親父かよ。くそ、ちゃんと内緒にしろって言ってたのに」

「どうして隠してるんだ?」

「……迷惑をかけない為だ。それ以外何もない」

「本当に?」


 拓也の言葉から圧を感じた。少し身体が震える。この原因はおそらく恐怖からだろう。強い相手から出てくる圧。


 拓也は右目に関して本気で聞いているのだろうな。


 ……それでも本当のことを知られたくない。いや、知られるわけにはいかない。


 この原因不明の失明は俺自身初めての経験なので確かなことは言えない。だがおそらく(あずま)たちのリンチから起きたものだ。


 それを拓也に知られればあいつに知られるリスクも高くなる。あいつが知ればきっと自分のことを責めてしまう。


 もっと自分にできることはなかったのか? 何かしてあげれたのでは? ……と。これ以上あいつに迷惑をかけたくない。


 だから俺は平然を装って言葉を出した。


「ほんと……」

「――嘘だよな」


 そんな言葉でさえも途中で拓也に遮られる。そして言葉を続けられた。


「望月さんに知られたくないんだろ?」

「な!?」


(どうしてそこまで分かる⁉ 心の声を読めるのは結月のはずなのに。まさか拓也には2つの能力が?)


「先に言っておくと僕は心を読めないよ。それと前に言ったし見ただろ? 僕の能力(スペル)[弱者](ウィークパーソン)、『魔素を固める程度の能力』さ」

「ふ、2つ能力(スペル)を持っている……という可能性は?」

「A.G.S.A.Tの調査でこれまでに2つ以上の能力(スペル)を持った人はいなかったらしいよ」

「ならどうして……」

「鎌をかけただけさ。ちなみに『心を読める程度の能力』を持てるのは[心](ハート)能力者(ギフテッド)だけ」

「……そうかよ」


 自分の考えが見透かされてるみたいで機嫌が悪くなった俺はボソリと呟く。そんな俺に拓也は言葉を続けた。


「でもさ、こんな僕にでも図星を付かれるぐらいじゃ本人にも簡単に右目のこと気付かれるかもね」

「そんなわけあるかよ。お前はA.G.S.A.Tだから特別だ。一般人と一緒にすんな」

「そうだね。一般人と一緒ではないか。なんてったって相手は……いや、望月 結月さんは[心](ハート)能力者(ギフテッド)なんだし」

「はぁ⁉」


 その言葉に驚いて声を出してしまう。もうそこまで見抜かれたのか? というか、こんな声を出したら相手に教えてるようなもんだ。


「あれ? もしかして翔は気付いていなかったのかい?」


(もしかしてこいつ……俺が知らなかったからこんな声を出したと思ったのか?)


 しかしそれは良い誤算だ。これを利用しない手はない。


「結月が……能力者(ギフテッド)? そんな馬鹿な。だって今まで幼馴染やってきたが、心を読まれるなんて……。ありえん」

「だろうね。だって能力(スペル)が発現したのは香川旅行最終日だろうし」


(こいつ、どこまで分かってるんだよ……)


 そう考えると同時に俺の足は自然と動いていた。これは逃げから生まれた行動だろう。拓也にこれ以上の情報を与えない為に。


「そろそろ急がないと遅れるぞ」

「おっと……もうこんな時間か。じゃあ一旦この話は終わりにしようか」


 俺は自転車を押す力を込めて走り出す。拓也は何も言わずに俺に付いてきた。結構速めに走ったせいか少し息が荒れている。


 俺は家に着くと肩で押すようにドアを開け放った。


「「ただいま」」

「「おかえり〜」」

「それじゃあ最後は俺がやるから結月と佐々木さんは休んでくれ」

「うん。翔、ありがとね」

「あたしもお言葉に甘えさせてもらうよ〜」


 結月、佐々木さんと入れ替わりでキッチンに立つとビニール袋からカレーのルーを取り出す。それを鍋に入れて完全に溶かした。


 鍋からはとてもいい匂いがしてくる。後は弱火をつけて10分ほど煮込めばいいだけだ。


 拓也は少し警戒した方がいいだろうが敵……というわけではない。拓也がいてくれたことで俺も色々と役に立っている。


 それに結月を助けるならいてくれた方がいい存在のはずだ。


(だけど打ち明けてもいいのだろうか……)


「……難しいなぁ」


 思わずそう呟いてしまう。幸いなことに誰も反応しなかったから誰にも聞こえていないだろう。そのことに少しホッとする自分がいた。

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