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心のヒストリー【現在推敲中】  作者: 西影
第6章 スペル
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071 距離感

「うーー……終わったぁ」


 私は座りながら疲れた体を伸ばす。今は二時限目終わりの休み時間。先程、私たち一組は昨年度の英語の中間テストを解いていた。高橋先生曰く、「心峰高校(ここ)のレベルを見て欲しい」とのこと。


 授業終わりに配られた答えを見て点数を確認する。結果を言えばとても良かった。深夜にノートを綺麗に書いていたおかげか、八四点だ。


 こんなにも良い点数なら周りの点数も気軽に聞けるし自慢だってできる。


「宮野さんはどうだった?」

「わたしは九二点です」

「え! 宮野さんって超頭いいじゃん。私なんて八四点だったよ」


 私より八点も高い点数に驚いてしまう。今思えばここは成績優秀な一組。高い点数を取れたけどここではあまり凄くないのかもしれない。もっと頑張らないと!


「いやはや、二人とも凄いねぇ」


 いつの間にか華が私の席の近くに来ていた。華はどれくらいの点数を取ったのだろう。よく寝ているのを見るけど高い点数を取ってるだろう。


「華は何点だったの?」

「本当にヤバイ点数だけど驚いたりしない?」

「驚かないよ。ここって一組だしね」

「――三四点」

「……ごめん、上手く聞き取れなかった」

「わ、わたしもです」


 なんだろう。三四点と聞こえた気がしたけど気のせいのはずだ。だって華は頭いいし。


「だから、三四点だって」

「「ええーー‼」」


 私と宮野さんは思わず叫んでしまう。その声は教室中に響くのだった。




「……ってことがあったんだよ」


 昼休み。私は屋上にて翔と神崎くんにさっきの出来事を説明していた。華は少し恥ずかしそうに頬をかき、神崎くんは驚いて手に持ってたパンを落としそうになる。


「佐々木さん、それはヤバくない?」

「拓也も人のこと言えねぇだろ」

「いや、コレは言えるよ。僕だって一応は平均点以上だし」

「ちなみに翔は何点だったの?」

「満点」

「ほんと⁉」

「あぁ、こう見えて毎日勉強してるから」


 翔の頭の良さに思わず驚いてしまう。いくら得意科目だからといっても満点って……。私も一応毎日勉強してるんだけど……。苦手科目にしてはよく頑張ってるよね。英語では初めてこんな高点数取ったし。


 華は休み時間中に買っていたおにぎりを終わると、伸びをしながら言う。


「まぁまぁ、テストなんて多分なんとかなるっしょ」

「その点数で言わないで……」

「じゃあ勉強会でもするか?」


 そこで翔からの提案が来た。勉強会……高校生っぽいっていうか青春って感じがする!


「いいじゃん! 私は賛成だよ」

「ちなみにいつまでするの?」

「んー……取り敢えず中間テスト終わるまでじゃねぇか?」

「長い……」

「まぁ華はその点数だし」

「僕も賛成だけど……無理な日とかもあるかな。ちょっと忙しいんだよね。ちなみに今日も」

「あ、あたしも! 今日は用事があるから無理かな!」


 神崎くんに便乗するように華は明るい声で言う。正直……怪しい……。


「神崎くんはたまに急いで帰る時や旅行部休む時あるから分かるけど、華は本当に用事あるの?」

「あ、あるよ! えぇと……ほら! 今日は奏が荷物を持って帰る日だから早く帰らないとなんだよ。スペアキーも昨日返されたから、奏一人じゃ入れないし」

”今日はあまり勉強もしたくないしね”


 多少華の心の声が気になるけど、一応は本当のようだ。確かに昨日、宮野さんの能力が消えたから華の家にいる意味もないし、自分の家に戻るのが普通だろう。


 って……じゃあ今日は翔と二人きりで勉強会⁉ そんなの幸せ過ぎて顔がにやけそう。


「じゃあ今日はやめとくか。俺と結月しかいねぇし」

「――え?」


 翔の衝撃的な発言に声を出してしまう。そんな私を疑問に思ったのか、翔は聞き返した。


「どうした、結月」

「別に二人でも良くない?」

「いや、だってあまり意味ないだろ? 今回の勉強会は拓也と佐々木さんの点数を上げる為のやつなんだし」

「で、でも私はまだ不安だから教えてくれない……かな?」

「うーーん……まぁいいか」

「やった!」


 そこで予鈴が鳴った。ちょうどキリが良かったので屋上を後にする。しかしそれは私と華だけ。翔と神崎くんとは時間を空けて屋上を出る予定だ。


 これが私たちが学校で過ごすために翔が定めたルールの一つ。『あまり廊下などをあまり一緒に歩かないこと』。翔が私と華に迷惑をかけないために定めたものだ。まぁ、簡単に言えば『人の目がある場所で仲良さげに見せないこと』らしい。


 私はあまりの乗り気じゃないけど、約束なんだから仕方ない。それにイジメは伝播するもの。対象と仲良くしている者にもその被害が発生する可能性が十分にある。


 それを私も、翔も身をもって知っている。だから私も渋々納得したんだ。


 それにしても……翔と二人で勉強会かぁ。


 そう考えるだけで笑みが浮かんでくる。最近は翔と二人きりになることがなかったから嬉しいな。


 華と階段を降りていると、手を繋いで歩いてる男女を見かけた。正直に言って羨ましい。でも、その後ろ姿に見覚えがあるような……。


 ――あ、宮野さんと荒川くんだ! 二人は一、二組と三、四組で分かれている廊下で手を離すと互いに手を振りながら自分の教室に向かう。


 私は少しニヤつきながら駆け足で宮野さんに近づくと宮野さんの肩をガシっと掴んだ。


「みーやっのさん!」

「わわ、ど、どうしたんですか?」

「いやはや、面白いものを見せてもらったよ」

「い、いつから見てたんですか?」

「えぇー? いつからだと思う?」


 そこで宮野さんの頭上に視線を向ける。こうやって私利私欲の為に能力を使うのは初めてな気がした。


"い、いつから……もしかしてわたしがあ~んってやったりしてるのも? それとも普段のわたしも見られた? "


 普段のっていうのはなんだろ? っていうか凄く恋人っぽいことしてるじゃん。羨ましい。少し意地悪してみようかな。


「ついさっきだよ。それとも昼休みに何かあった?」

「な、何もなかったですよ」

「へぇ~。あ~んとかしてないんだ?」

「やっぱり知ってるじゃないですか!」

「ん? なんのこと? ちょっと(かま)をかけただけだよ」

「――んん〜〜」

「それとも本当にしちゃった?」

「何もないです‼」


 宮野さんは席に着くと本を取り出す。これは完全に恥ずかしがってるなぁ。心の声を見ても恥ずかしさと後悔が多いし。


「ゆづってそんなにからかう人だったっけ?」

「華がどんな気持ちで私をからかってるか分かった気がするよ」


 今日はいつもと違う昼休みだった。




 放課後、私は華と宮野さんと一緒に帰っていた。宮野さんは彼氏と帰るものだと思ってたけど、今日は華の家に行くから別々で帰るらしい。


「またね」「さようなら」

「うん、またね」


 私は家に帰るとまずカラコンを外す。そして眼帯を着けると部屋の整理をし始めた。


 まずは机の上に置いてあるカラコンの箱と額縁を机の中に隠す。額縁には小学生の頃、お泊り会で私と翔が一緒に寝た時の写真を入れてある。こんな写真見られたくないからね。


 これぐらいしか片付ける物はないので綺麗だが部屋の掃除を始める。掃除を始めて数分経つとインターホンが鳴った。私はすぐに玄関のドアを開ける。


「どうぞー」

「失礼します。ってコレ懐かしいな」


 翔が見ていたのは玄関に飾っている私と翔のツーショットだった。玄関には小学校と中学校の卒業式の日の写真が並べられている。


「そうだね。翔もちゃんと飾ってるかな?」

「当たり前だろ。自分の机の上に置いてあるよ」

「そ、そう……」


 少し嬉しくなりほんのりと頬が赤くなる。私は翔を連れて自分の部屋に向かった。


 先程の空気とは一変し、集中して勉強に取り組む。取り敢えず今日やったテストの解説と最近習ったところを翔に解説してもらった。私はそれを聞きながら問題を解いていく。


「取り敢えずはこんなところだな。お疲れさん。良くできてるよ」

「ありがとう。翔の教え方が上手いからだよ」


 気付けば夕方になっており、オレンジ色の光が私の部屋を照らしていた。


 私たちは少し雑談をしながら休憩する。


「結月ってさ……何か困ってることとか、嫌なことってない?」

「私? ないない。毎日楽しい日々を送ってるよ」

「そうか、なら良かった」

「どうしてそんなこと聞くの?」

「なんとなく」

「なんとなく? 変な翔だね」

「そうかぁ? ……と、もうこんな時間か。それじゃあ俺は帰るよ」


 そう言って背中を向ける翔。少しでも長くいたい私は話しかける。


「送ろうか?」

「隣だろ? 別にいいよ」

「えぇ……」


 少しでも長く翔といたかったんだけど……それは無理そうだ。少し悲しいなぁ。


「……やっぱり送ってもらおうかな」

「――え?」

「最近全然一緒にいられなかったからな。俺ももう少し話したいし……」

「翔……ありがと!」


 私は自然と笑顔になり翔に後ろから抱き付く。翔は照れ臭そうな表情をするが私を離そうとしなかった。


 これが今の私と翔の距離感。まるで兄妹か姉弟みたいな距離。それでも私はもっと先に行きたいと、再度思うのだった。

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