070 変わる日常
宮野さんとの一件が終わり、私は家に帰ってきた。夜ご飯は宮野さんの家で食べてきたので早速お風呂に入る。
「ふわぁ……」
体を洗ってから湯船に浸かると、だらしない声が漏れた。しかしそれほど私も驚き、喜んだのだ。
正直に言って今回のことは予想外すぎた。宮野さんの親に会って話すだけだと思っていたのに、宮野さんが後を付いて来てたし、能力も消えたし。
ちなみに宮野さんの能力が消えたことを分かった理由は、宮野さんのお母さんの様子と私の能力のおかげだ。
宮野さんの心の声が頭上に浮かんでいた。前は何も浮かんでいなかったのに……。これは宮野さんの能力の消滅と言ってもいいのではないだろうか。
宮野さんの能力は消えた。だけど……私の能力はまだ消えていない。時間制限か、はたまた何か条件があるのか。
宮野さんに聞いてみたけど「自分に正直になること」と言われてしまった。
『正直になる』の意味が分からない。確かに私は相手の様子を見て態度や言動を変えたりはしている。しかし、多分これとは違う気がする。
じゃあ他は……何も思いつかない。
「正直になると言われてもねぇ〜」
思わずそう呟いてしまう。いくら考えても答えが出てこなった。早く私も左目の能力を克服しないと!
次の日。私はいつものように翔たちと登校していた。宮野さんの件が終わったので前よりも気が楽になっている。
「ねぇ、翔と神崎くん。今日からまた一緒にお昼食べない?」
「ん? クラスの友達と食わなくていいのか?」
「うん。駄目かな?」
「んーー……」
何故か首を縦に振らずに考える翔。そんな翔に華が言った。
「心配する気持ちも分かるけど、流石に心配し過ぎじゃないかな?」
「佐々木さんの言うとおりだよ。僕も四人で食べるのは大賛成だし」
「お前。俺が今どんな状況か知ってるだろ」
「でもさ、正直今のレッテルは消えないと思うよ」
「…………」
翔は神崎くんの言葉で黙ってしまう。
何これ。どういう状況?
状況を理解出来ない私は華に小声で聞いてみる。
「華、これってどういう状況? それにレッテルって」
「もしかしてゆづは忘れたの? アレだよ。如月くんがクラスで孤立って言うか怖がられてるみたいなやつ」
「あ、そうだったね」
――忘れてたああぁぁぁ‼
宮野さんの件に夢中になっていて忘れてしまっていた。そうだ、東くんにデマを流されてるんだった。
私はまだ迷っている翔の手を取る。一瞬ビクっと動いた翔は気にせず顔を近づけて言った。
「翔! 一緒にお昼食べよ! あと他の休み時間も一緒に‼」
「え、ちょ、結月。いきなりどうした?」
「返事は?」
「……分かったよ」
「やった!」
翔の言葉を聞けた私は手を離す。これで学校内でもいっぱい話せる。それが嬉しすぎて思わず鼻歌を歌った。そんな私に華が肩を叩く。
「ゆづって結構大胆だね」
「大胆って?」
「ほら、手を繋いだり顔を近づけたり。顔なんて凄い近かったよ。もうキスでもしちゃうのか? ってくらい」
「――え?」
先程の自分の行動を思い出してみる。さっきは翔を説得するので考えてなかったけど確かに翔の手は温かくて、顔だって凄く近くて……。
段々と顔が熱くなっていくのが分かる。絶対に今、顔が赤い。恥ずかしさのあまり思わず駆け出した。
「ちょ⁉ ゆづー‼ なんで走ってるのー!」
そう言いながら近づいてくるもう一つの足音。多分華だろう。私は全力速で走ってるつもりだが、数秒で追いつかれてしまった。なので休憩がてら歩いて息を整える。
「はぁ、はぁ……速すぎるよ」
「今回はゆづが遅すぎただけだと思うけどね。煽りとかじゃなく、結構マジで」
「遅いのは、はぁ、自分が一番知ってる」
「それで、どうする? 如月くんたち待つ?」
「それは無理。今は恥ずかし過ぎて会えない」
「ほんっとピュアなんだから」
はぁ、っと華は短いため息をつく。いや、そんなにため息をつくことだろうか?
私たちは一緒に教室に入る。いつもと同じ教室、いつもと同じ空間……のはずだった。
それなのに今日はとてもガヤガヤしていた。主に男子生徒が。女子生徒は何やらヒソヒソと話している。
何事かと思い、辺りを見渡してみるといつも見かけない女子生徒がいた。
肩まで伸びてる黒髪の可愛らしい女子生徒。綺麗に私服も着こなしている。その人は宮野さんの席で本を読んでいた。その姿はまさに芸術のように美しい。
彼女を観察していると目があった。でも、その目は何かを言いたいように見える。
"望月さん! 佐々木さん! 早くこっちに来てよー"
なんで私の名前を知っているのだろうか? でも誰かと似ているような……。
――ってもしかして宮野さん⁉
それに気付いた私は宮野さん? に急いで近づく。そして机に手を置くと念の為に聞いてみた。
「もしかして……宮野さん?」
「そうです。わたしが来てからずっと教室があんな感じで……。この場にいるのも結構辛かったんです」
「にしてもなんでそんなに着こなして……っていうか変わり過ぎ!」
「わたしも今のままじゃいけないと思ったんです。だから、せめて姿形だけでも中学のような自分になろうと決めたんです。ちゃんと髪も整えて、制服をやめて私服に。伊達眼鏡も外して……ぐらいですね」
「アレ伊達眼鏡だったんだ」
少し話をして自分の席に座るとその間に華がやって来た。
「おっは〜奏。にしても随分変わったねぇ。ちなみに彼とはどうなったの?」
「実は……お付き合いさせて頂くことになりました。やっぱりわたしは独りだと駄目になってしまうようなので」
「へぇ〜あの宮野さんがリア充かぁ。うんうん」
「望月さんと佐々木さんには本当にお世話になりました。それで、その……コレ昨日作ったので食べてください」
宮野さんはカバンから透明な袋を出すと私と華に渡す。その中には茶と黒の一松模様で構成されているクッキーが入っていた。
「うわぁ、とても綺麗に作れてる! 宮野さん凄いね」
「なんてったってあたしの奏だしね!」
「わたし、佐々木さんの物になってないんですが……」
そう言いながらも笑う宮野さん。なんだろう。今までと同じ口調だけど、なんだかいつもと違う気がした。少し、距離が近くなっている気がする。
これがきっかけで宮野さんに新しい友達とかも出来たりしないかな。




