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心のヒストリー【現在推敲中】  作者: 西影
第5章 寂しがり屋な小石
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064 覚えてる?

 時間は過ぎ、三時限目終了のチャイムが鳴った。今日は土曜日なのでこれから放課後だ。


 私はカバンを持つと華と一緒に教室を後にする。私たちは特別棟一階にある保健室に向かった。その理由は言わずもがな、荒川くんの様子を見る為だ。


 ちなみに宮野さんは連れてきていない。また荒川くんが頭痛を起こす可能性があるというのも理由の一つだが、一番の理由は本人が会いに行くのを拒否したからだ。


 宮野さん曰く「会いたくない」らしい。


 私は宮野さんの心の声を見れない。だけど、嘘をついていることだけは分かった。荒川くんのことを言った時のあの表情。とても悲しそうな目をしていた。


 本当は行きたかったのだろう。幼馴染である荒川くんの顔も見たかっただろう。それでも宮野さんは我慢した。


 どうせ忘れられるから? またあの頭痛が起きるかもしれないから? 分からない……でも、宮野さんは荒川くんのことを大事に思っているはずだ。




「「失礼します」」


 私と華は保健室に入る。すると養護教諭が私たちのところに来た。


「二人はどうしたの? 体調不良?」


 養護教諭は私たちの体を見ながら聞いてくる。様子から見て怪我はないと思ったのだろう。なので私は少し前に出て用件を伝えた。


「いえ、荒川くんの様子を見に来ました」

「あぁ、あの子ね。ついさっき起きたところよ」


 養護教諭は私たちに荒川くんがいるベッドの場所を教えてくれる。なので私たちのは礼を言うとそのベッドに向かった。


「失礼します……」


 声を出しながらできるだけ音をたてずにカーテンを開けて中に入る。そこには体を起こしている荒川くんの姿があった。


「お前らは朝の……。どうしてここに?」

「少し様子を見に来たんだ。もう体は平気かな?」

「あぁ……ところで質問いいかな?」

「どうしたの?」

「えっとさ……屋上で俺とどんな会話してたっけ? それだけが思い出せなくて」

「…………」


 予想していた通り、荒川くんは宮野さんのことをまた忘れてしまっていた。


 忘れる……というより宮野さんが絡んでいる記憶に靄がかかっている感じだろう。前の私と同じように……。


 でも、荒川くんは自力で思い出したはずだ。私も左目の能力のおかげで思い出すことができた。これも私が自力で思い出したと言ってもいいだろう。


 なら、何が違うのか。考えられる可能性は一つ。


 能力だ。私の場合は能力で思い出したから宮野さんのことをまだ覚えている。それぐらいしか考えられなかった。


 私は返事に困って押し黙ってしまう。すると今まで黙っていた華が荒川くんに聞いた。


「宮野 奏についてよ。覚えてるよね」

「――ちょ‼ 華⁉」


 いきなり宮野さんの名前を口にした華に驚いてしまう。そんな中、荒川くんは目を見開いていた。


「宮野……奏⁉ そうだ。奏は? 奏はどこに⁉」

「落ち着いて。あたしもその件で話があるのよ。そこで君が知っている情報を教えてくれない?」

「何で教えないと……」

「あたしたちが知っている奏の情報を全て言うわ。だからお願い」

「……分かった。なら今から俺の家に来てくれないか? そこで話したいこともある」

「確か電車通学よね。どれくらいお金かかるの?」

「そこは心配しないでくれ。俺が払う。でも片道一時間ぐらいかかるがいいのか?」

「そこら辺は問題ないわ。ゆづもいいよね?」

「えっ、あっ……うん」


 なんだか物凄いスピードで話を進めていた華に関心しながら答える。それにしても今回は頭痛起きなかったな。


 それから私たちは学校を出て最寄り駅に向かった。荒川くんは……というより、電車通学の人たちは自転車で通学してはいけないらしい。


 自転車通学は心峰高校からある程度の距離が必要なんだとか。


 しかし心峰高校から最寄り駅までは結構遠かった。大体二〇分ぐらいかけて最寄り駅に着く。電車通学の人の苦労を少し知った今日この頃だった。




 それからひたすら電車に揺られ、乗り換え、やっと荒川くんの最寄り駅に着いた。その所要時間は約一時間。久々にこんなにも電車に乗ったことから少し眠くなっていた。


「それにしても……今更だけど本当にいいの? あたしたちに二〇〇〇円も使っちゃって」

「別に。それと往復だから四〇〇〇円な。……なぁ、ところで何の話をするんだっけ?」

「……あとで説明するから家に案内して」

「あ、あぁ……」


 少し困惑気味になりながらも荒川くんは返事をする。私たちは前を行く荒川くんに付いていった。でも……。


「ね、ねぇ……まだ家に着かないの?」

「ん? あと三分くらいかな」


 駅を出て十五分くらい経っただろうか。住宅街に入ってきたのだが、いくらなんでも遠い気がする。


「ねぇ、いつも荒川くんはこんなに歩いてるの? 自転車は?」

「駅の近くにある駐輪場にあるよ」

「じゃあ置いてきちゃったの⁉」

「そりゃあな。だってお前らを駅まで送るんだし」

「え……送ってくれるの?」

「それが普通だろ?」


 キョトンとした顔をして荒川くんが言ってくる。思わず私と華は顔を合わせていた。


 素で優しいのかな?


"普通……じゃないよね?"


 やっぱり華も同じようなことを考えているようだ。思わずクスッと笑ってしまう。その優しさはまるで翔みたいだ。


 私は少し笑っている顔のまま荒川くんの方を見て言った。


「ありがと。じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」

「おう……っと着いた。ここが俺の家だ」


 突然荒川くんは立ち止まり、右側にある建物を見た。それにつられて私もその建物を見る。


 それは一〇階建てぐらいのマンションだった。荒川くんはカバンから鍵を取り出して自動ドアを開ける。そしてエレベーターに乗ると六を選択した。


 六階に着き、荒川くんは一つのドアを開ける。


「ただいまー」

「「失礼します」」

「おかえり〜……って待って! 女の子連れてきたの?」


 荒川くんと中に入ると私服姿の女性が出てきた。


「そうだけど……悪いかよ」

「あらあら、涼晴ったらやるわね。どっちが彼女さん?」

「そんなんじゃねぇから。珍しく息子が女子を連れて来たからって変にテンション上げるな。……っと二人はそこの部屋入っといて」

「分かった。荒川くんのお母さん、失礼します」

「失礼します」

「いいのよ〜。可愛らしい子はいつでも大歓迎」

「ちょっと話あるから母さんは部屋に入るなよ」

「しょうがないわね〜。女の子たちに手を出したら駄目よ」

「うるせぇな。そんなことするかよ」

「ところで二人の女の子とはどこで仲良くなったの?」

「…………」


 私たちが部屋に入ろうとすると荒川くんはお母さんとの会話を無言で強制的に終了させる。私は部屋に入るとまず中を見渡した。


 まるで準備してきたみたいに綺麗な部屋だ。ベッドの上の布団も綺麗だし、机の上もちゃんと整頓されている。


 毎日片付けてるのかな? それともこれが普通の男子の部屋なのかな。翔もいつも綺麗にしてるし。


「すまんな、母が。適当にそこら辺座って」

「「分かった」」


 私と華は同時に返事して部屋の真ん中辺りの床に座る。荒川くんも私たちの前に座ると本題に入った。


「それで……どんな会話をしてたんだっけ?」

「宮野 奏についてだよ。これで思い出したでしょ」

「奏⁉ そうだ、何で今まで忘れてたんだ……」

「あたしたちは奏についての情報を知りたいから来たんだ。何か知らないかな? 例えば……あまり周りの人たちと接さない理由とか」

「人と接さない理由。……高校に行っても変われなかったのか。…………やっぱりアレしかねぇよな」

「アレ?」

「あぁ、話すよ。奏の過去を。その代わり……」

「分かってるよ。何でも質問に答える」

「分かった。実は――」


 荒川くんは真剣な眼差しで私たちを見る。その何かありそうな雰囲気に冷や汗が流れた。

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