057 視線
次の日の朝。私、翔、華、神崎くんで登校していると複数の視線を感じた。思わず周りを見渡してみる。
すると周りにいる人たちの頭上に心の声が出てきた。
"あれってあの暴力の一年生かな〜"
"うわー……如月を朝から見るとかツイテないわ"
"早く学校辞めてくれねぇかな"
"アレが東くんを……"
"周りのやつらも怖いのかな"
ほとんどが翔へ向けられている言葉だった。たまに翔以外に向けられている言葉もある。段々と怒りが沸いてきて思わず握り拳を作ってしまう。
「ゆづ? どうしたの?」
「――えっ、あ、何でもないよ」
華の言葉を聞くと熱くなっていた頭が冷えていくのを感じた。ゆっくりと拳を開く。そしてあまり多くの人を見ないように注意した。
……少し落ち着いたかも。
靴箱に着いた私はまた多くの視線を感じた。それに少し嫌な予感がする。
さっきまでの通学路とは圧倒的に視線の数が違った。靴箱だから当然かもしれないけど、それでも嫌な予感は消えない。
"早く上靴の中の画鋲刺さってくれねぇかな"
そんな時にある一人の男子生徒の心の声が見えてしまった。その人はジッと翔に視線を向けている。
すぐに翔の方に視線を向けると翔は上靴を履こうとしていた。
「翔! ちょっと待って‼」
「ん? いきなり大声出してどうした?」
私は翔に近づくと手にしている上靴を奪う。そして中を確かめてみると……画鋲が入っていた。
「画鋲じゃん⁉ 結月、よく気付いたな」
「なんか光っている気がしてね。それにちょっと嫌な予感がしたから止めたんだ」
そう言いながら私はあの男子生徒の方向に振り向く。男子生徒は何事もなかったかのように教室に向かう階段に向かっていた。
私は地団駄を踏むのをなんとか堪えながら翔たちと階段を上る。そして華と一緒に一組に入った。
翔と一緒に行動している今でも、私にはあまり変化は訪れなかった。誰も私や華を怖がったりしない。
強いて言うなら、私のことを嫌っていそうな女子生徒を見つけたけど、前からという可能性もある。
私は自分の席にカバンを置くと前に座っている宮野さんに話しかけた。
「宮野さんおはよ〜」
「おはようございます」
「何か変わったことあった?」
「いえ、特に……」
「そうかぁ。親からの連絡とかはないの? 『今どこにいるの⁉』とか『早く帰ってきなさい‼』とか」
「ありません。おそらくわたしの存在を忘れているからだと思います。普段はわたしにとても優しい母親なので」
「そっかぁ。そこまでいったら能力って言ってもいいぐらいだよね」
「能力……」
「どうしたの?」
「いえ、何でもありません」
そんな感じで話していると華がいつものようにやってきた。
「おっは〜、奏」
「おはようございます」
「かなで?」
「あ、うん。宮野さんのことだよ。同じ部屋に住むんだし、少しでも距離を近づけようと思ってね」
「へぇ。華は宮野さんに起きてる現象について何か思いついた?」
「んー……能力とかそういう非現実なことじゃないかな。にわかに信じられないけどね。でもそれ以外の考えが思いつかないよ」
「のう……りょく」
「やっぱりそうだよね。私もさっきそういう話をしてたんだ」
「でも、もしそうだとして、あたしたちに出来ることって……」
そこで会話が途切れてしまう。確かに能力が原因だった場合、私たちには何もできないと思う。それでもやれることはやらないと……。
「じゃあさ、次の休み時間に翔や神崎くんに能力について聞きにいかない? 男の子とかってそういうの詳しそうじゃん」
「うーん……。でもそれって空想の世界の能力でしょ。役に立つかなぁ」
「何もないよりはマシじゃない? ということで次の休み時間に二組に向かうよ!」
「はーい」
次に何をするか決めたところで宮野さんが手を上げた。
「……それってわたしも行かないといけませんか?」
「流石に行かないとでしょ。これは奏の問題なんだから」
「そう……ですよね。分かりました」
そこでチャイムが鳴る。私たちは一旦自分たちの席に戻るのだった。




