055 私の選択
「わ、私は……。私にもよく分からないんだ。宮野さんって分かったら今まで何かを隠していた靄が晴れて……」
私は……嘘をついた。やっぱり友達よりも自分の方が大事だ。友達が無事になったとしても自分が無事でなければ意味がない。
友達の方が大事と言う人は大体が偽善者だと身を持って知った。つまり……私は偽善者だったのだ。
「そっか。やっぱり何も情報がないのは辛いよね」
「そう……だね」
沈黙が辺りを支配する。そんな時に華が声を発した。
「それじゃあもう教室戻ろうか。そろそろ予鈴も鳴る頃だしね」
私たちは華の意見に従って教室に戻る。宮野さんは暗い顔のまま何かを考えている様だった。
一時限目が終わっても私は宮野さんのことを覚えていた。まぁ、もし覚えてなくてもまた見れば思い出すだろうけど……。
その日は何も解決策を見つけられないまま放課後になった。宮野さんは帰り、私と華は旅行同好会の教室に向かう。
今の宮野さんは母親にも忘れられているらしいので華の家で泊まっているらしい。父親は単身赴任中なので家にいないそうだ。
「はぁ……にしても本当に不思議だよね。存在を忘れ去られてるなんて。ゆづは思い出すまで宮野さんのこと、どういうふうに見えてたの?」
「私はこんな子いたっけ? っていう感じに思ってた。でもなんだか懐かしい感じもしたかな」
「ふぅん。じゃあやっぱり透明人間とかじゃなくて、なんていうか……背景の一部みたいな感じに見えてるのかな?」
「多分そうだと思う」
宮野さんはちゃんと見えていた。その時は不思議と興味すら抱かなかったけど。だから宮野さんからしたら全員から無視されているイジメの様な状態だろう。
そんなことを考えていると旅行同好会の教室の前に着いていた。
「「こんにちはー!」」
「もぉー! 二人とも遅いって。早く準備して」
「準備?」
教室に入ると高橋先生になぜか注意されてしまう。中を見てみると橘先輩以外の全員が集まっていた。
今日は火曜日なのに上杉先輩までいる。なんで橘先輩はいないんだろ?
「橘先輩はどうしたんですか?」
「今日は掃除当番だ。それより早くコレを持て。そしてドアが開いたら打つんだ」
私が聞くと上杉先輩はそう言って私たちに何かを手渡す。それはクラッカーだった。
私と華は翔と神崎くんの近くに歩いて事情を聞く。どうやら旅行同好会が正式に部として認めてもらえたらしい。
「それでなんで橘先輩を祝うの?」
「この部を作ったのが橘先輩だからって言ってた。やっぱり同好会が部になるって嬉しいことだしな」
翔から話を聞いているとドアの窓に一つの人影が現れた。多分橘先輩だろう。
私はドアに向かってクラッカーを構える。そしてドアが完全に開けられた瞬間にクラッカーを鳴らした。
クラッカーの音が部室中に響き、火薬の匂いが充満する。ドアの前では橘先輩が驚いている顔をしていた。
「え? え? え?」
「葵、取り敢えずこのイスに座れ」
「う、うん」
何も状況が分からないまま橘先輩はイスに座る。そんな橘先輩の前に高橋先生が一枚のプリントを置いた。
そこには旅行同好会を旅行部として認めるという内容が書かれており、下には校長先生の名前のハンコが押されてある。
「え……これって……」
「旅行同好会を部として認める書類だよ」
「ん〜〜〜! やったぁーー‼」
橘先輩はイスから勢い良く立ち上がり叫ぶ。立った衝撃でイスは倒れる。が、そんなのお構いなしに橘先輩は上杉先輩に飛び付いた。
「――うわっと」
「やった、やったよ! 悠真くん!」
「分かった、分かったからやめろ。ここ学校。それにもう子供じゃあるまいし」
「あはは、ごめんごめん。つい昔の癖で……」
笑いながら橘先輩は上杉先輩から離れる。上杉先輩は頬を少し赤くしながら服の襟を持って空気を送った。




