052 友達には……
《佐々木 華視点》
「わ、忘れ去られてるってどういうこと?」
「……これを確信してしまったのは五月三日です。いつも忙しくて深夜に帰ってくる母親が二〇時頃に帰ってきたんです。最近は顔も合わせることがなかったから嬉しくて、わたしは玄関に行って母親に言いました。『おかえり。今日もお仕事お疲れ様です』と。するとこんな言葉が返ってきたんです。『えっと……貴方誰? どうして家に?』。こんな言葉を家族に言われたのが我慢できなくて……思わずその場から逃げるように外に出てしまいました」
母親にそんなこと言われるなんてことあるのだろうか? 本当は信じられない。
でも宮野さんがわざわざあたしに頼るってことは本当……なのだろう。――でも。
「でもさ、学校とかの出席時は名前言われてるよね」
「はい、しかし学校で名前を言われるのはそれだけです。途中から望月さんや佐々木さんにも話しかけられなくなって……。初めはイジメかと思っていたんですが……」
「――ごめん! ゆづに付いて行ってたら自然と四人組が出来ちゃったんだ。今考えたら朝の挨拶しかしてなかったよね」
「ゆづ?」
「あ、望月さんのことね。名前が『結月』だから『ゆづ』」
「なるほど。でも謝らないでください。わたしはその朝の挨拶だけでも救われましたし、それのおかげで今ここにいるんですから」
「どういうこと?」
「さっき言いましたが誰にも話しかけられなくなりました。いつも望月さんが自分の席に向かう時にわたしに挨拶をしてくれます。しかし、オリエンテーションが終わった次の日からは一切話しかけられなくなりまして……」
そう言われてみれば最近ゆづは宮野さんと話していなかったかも。
たまたまあたしが見ていない時に話していた可能性もあったからあまり気にしていなかったけど……。あれ? でもオリテの次の日って……。
「ねぇ、その日って宮野さんがあたしから逃げた日……だよね」
「わたしが……逃げた?」
「うん。あたしが宮野さんに話を振った時に驚いた顔をして」
「あ! その時はすみません。少しびっくりしちゃって……つい。望月さんがわたしに挨拶してくれなかったので、まさかわたしに話が振られるとは思いませんでしたから」
「なにか心当たりはないの?」
「……ありません」
「そうかぁ。じゃあ何か解決策が出るまでは家に居てもいいよ」
「え、でも迷惑が……」
「気にしない気にしな〜い。それに、友達って言うのは迷惑を掛け合うものなんだよ」
そこでニシシと宮野さんに笑顔を送る。すると宮野さんから一滴の涙が頬を伝った。
その涙はしだいに増えていき、宮野さんは気付いたようだ。自分が泣いたという事実に。
「あ、あれ? なんで……なん……でしょうね」
宮野さんは目元から出てくる涙を指で拭き取るが止まらない。まるで決壊したダムのように拭いても拭いてもどんどん涙が溢れている。
「ごめんなさい、つい佐々木さんの言葉に感動しちゃって」
あたしは思わず宮野さんに抱きついた。そして頭を撫でながら囁きかける。
「ごめんね。あたしはそういう経験がないから理解はできない。その苦しみの重さも理解できない。でもね、助け舟くらいは何度でも出すから。だから今の内にたくさん迷惑掛けて。あたしもその内宮野さんに助けを求めるからさ」
「……はい……。ありがとう……ございます」
とても小さな声でそう言われる。涙声を必死に隠そうとしているのだろうか。そういうところが宮野さんらしいと思うのだった。




