005 入学式②
ピンポーン、と来客の知らせに驚いてビクッと体が震える。この時間ということは翔が来てくれたのだろう。
モニターには予想通り翔の顔が映っていた。
「ごめん、もうちょっと待ってて」
一方的に伝えるとカバンを持ち、鏡を見てどこかおかしな点がないか確認する。
制服は乱れてないし、髪も整ってる、大丈夫、大丈夫。どこもおかしなところはない。
自分に言い聞かせ、深呼吸してから玄関に向かった。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ドアを開けると久々に受ける直射日光の前に視界が白く染まる。手で影を作り、目が慣れてくると心峰高校の制服を着た翔が見えた。
「おはよう」
「おはよう、なんか前よりも肌白くなってないか?」
「2週間と少しだけ外出しなかっただけだし」
「春休み中引きこもりじゃねぇか」
そんな会話をして私は翔の横に立つ。少し胸が躍るのを気にしながら肩を並べて歩き出した。
小学生の頃、一緒に登校してたときを思い出す。あの頃は私の方が高かったのに今ではかなりの差が開いてる。
ブラブラと揺れている翔の腕に視線が向いた。いつか、そういつか、この手を繋いで歩きたいなぁ……なんて思ってしまう。
こんなに意識をしているのは私だけかな。翔は昔からずっと同じように私と関わってるし。
気になった私は翔の横顔を盗み見る。まだ幼さが残っている整った顔立ちに目が釘付けになる。高校生になり背が一段と伸びたので高校でもさぞかしモテるだろう。
そこで私の視線を感じてか、翔はこっちを振り向いてきた。目が合うと私はすぐに目を逸してしまう。
横目で翔の頬を確認するがどこにも変化がない。これはやっぱり私のこと好きじゃない……よね。
というより、私を女として見てくれてるのかすら怪しい。前に聞いた時は『幼馴染っていうより兄妹みたい』って言ってたし。
思わずため息がこぼれてしまう。そんなに私って魅力ないのかな? 昔よりは体も成長したんだけど……。
「ん? ため息をごぼしてどうしたんだ?」
「なんでもない」
「そっか」
多少ぶっきらぼうに返事してみる。
本当に……この鈍感! そういうところは本当に嫌になる。
でも、やっぱり好きなんだよね。
そういうところも翔らしく感じて笑みが浮かぶ。
「ね……」
何気なく話しかけようとしたときだった。
「「アハハハハ」」
「――ッ」
突然後ろから聞こえた笑い声に鳥肌が立つ。急いで振り返ると同じ制服を着た女子生徒二人が話していた。
特にこちらを気にする素振りも見せず、昨日のテレビの話題に夢中らしい。私がおかしくて笑ってるわけじゃないんだ。
安堵の息が漏れる。
「結月……大丈夫か?」
「うん、ごめんね」
「気にすることはない。少しずつ慣れていこう」
理解のある翔が優しく微笑んでくれる。その顔を見て落ち着いた私は静かに首肯した。
私たちは校門を潜り抜けるとクラス発表の紙を見に行く。
心峰高校は一学年二百四十名。それを六クラスに分けている。
つまり私と翔が同じクラスになれる可能性は六分の一。低いけど、決して出ない確率ではない。
神様お願いします!!
一組から順に私の名前を探していく。運良くA組に望月 結月と私の名前があったためすぐに見つけられた。
ただ、問題はここからだ。
少しずつ視線を上げて出席番号が上の名前を見ていく。しかしそこに翔の名前がなかった。
何度も確認するが如月 翔という名前が見つからない。
「結月は自分のクラス見つかったか?」
「あ、うん。翔はどこだったの?」
「俺はB組だったよ。結月は?」
「私はA組」
「そっか。同じクラスにならなくて残念だったな。それじゃ、教室に向かおうぜ」
そうして私たちは教室に向かう。翔は少しも残念がっているように見えなかった。
私も表面上は普通に接しているが内心では凄く残念がっている。
ここで叫ぶことはできないので心中で叫ぶことにしよう。
――どうして一緒のクラスじゃないのよ!!




