048 呼び名
旅行から家に帰ってきた私はお土産を机の上に置くと少し早めのお風呂に入っていた。
最近まであの大きな浴場に入っていたせいか、家のお風呂が小さく感じる。ちなみにお母さんは夜勤らしいので家にいない。
「はぁ〜……楽しかったなぁ」
ほとんど仕事をしていたけどそれが逆に暇な時間を楽しくしてくれていた気がする。それに椿さんの料理は美味しかったしね。
――だけど特に嬉しかったのは……。
少し気恥ずかしくなって口までお風呂に浸かってしまう。私はあまりこういうことをしたことがなかったので新鮮だった。本当に次会った時に言われるのかなぁ。
数時間前、私たちは帰りの車に乗っていた。三泊四日って長いと思っていたがすぐに終わってしまった気がする。
車の中はとても静かで私と佐々木さん、運転している高橋先生しか起きていなかった。私も疲れているので寝るんじゃないかと思っていたがなぜか眠気を感じない。
するといきなり佐々木さんが話しかけてきた。
「ねぇねぇ、なんやかんやであたしたちって結構一緒にいるよね」
「うん、そうだねぇ」
「でもさ、互いに呼んでるのって苗字だよね」
「うん」
「あたしさ、なんか違う呼び名を言いたくなったんだ」
「へぇ、じゃあ互いに下の名前で呼ぶ?」
「それだと如月くんと呼び名同じになるじゃん。結月って。結月ちゃんは……いつか先輩とか神崎くんとか言いそうだし」
確かに、仲良くなれば呼び名が変わるのはおかしくない。でも、他の人と違う呼び名を考えるのは難しくないだろうか?
「じゃあどうするの?」
佐々木さんは「うーん」……と声に出して考え込む。数十秒の沈黙の末、佐々木さんは捻り出したように答えた。
「……『ゆづ』とか?」
「ゆづ?」
「そう、ゆづ。あたしこれからはゆづって呼ぶよ」
「じゃあ私は……」
なにか佐々木さんのニックネームを考えようとしたが思いつかなかった。そんな私を見て佐々木さんが言う。
「別にそんな難しく考えなくていいよ。ほら、あたしの名前って華だし。別に華で構わないよ」
「うん、じゃあそうする!」
――ということがあったのだ。思い出しただけでも顔が熱くなってきた。これは恥ずかしさのせいか、湯船に浸かっているせいか、はたまたその両方か……。
私はお風呂から上がるとドライヤーで髪を乾かしてから二階にある自分の部屋に向かう。そしてベッドの上に寝転がると体を伸ばした。
だんだん眠気が訪れてくる……そう思っていたがどれだけ経っても訪れない。
「今何時だろ?」
ベッドにあるデジタル時計を見るとまだ二十時になったところだった。いつも寝ている時間より三時間も早い。そのせい……なのかな?
勉強しよ……。
もうほとんど終わっている課題にとりかかる。取り敢えず眠気が来るまで勉強していた。
途中で夜ご飯も食べたりして時間を潰す。すぐに眠気はくると思っていたが結局きたのは午前三時。本当に夜中だ。どうしてなんだろうか?
明日……というより今日もいつも通り七時に起きたいけど……無理だろうな。




