004 入学式①
第一章が始まりました。
これからは基本的には望月 結月視点で書きます
――ピピピピピピピピピ。
騒がしいスマホのアラーム音で私は目を覚ました。ベッドの上で時刻を確認する。
4月8日(月)7時20分。
やってきてしまった。この時間にアラームを設置してから一週間、今日は高校の入学式だ。
新しい環境、新しい出会い。みんな楽しみにしていることだろう。
しかし私にはそんな明るい思考をすることができなかった。気分は落ち込み、体が怠くなる。何か理由をつけて休んでしまいたい。
日に日に白くなった細い腕を眺める。いっそのこと二度寝しようかな。
「結月……起きてる?」
そんな私の考えを無視してお母さんが部屋のドアをノックした。その声は私のことを気にしているのか弱弱しい。
「うん、ついさっき起きたところ。下に行くから待ってて」
「そう、朝食の準備しておくからね」
ベッドから降りると部屋に掛けている制服に着替える。そして昨日準備したカバンを持って一階のリビングに向かった。
机上にはトースト、目玉焼き、牛乳、と朝食という言葉が似合う食事が並べられている。先程私を呼んだお母さんは私を見て安心したような顔をした。
「うん、よく似合ってる」
「ありがとう」
席につき、「いただきます」と手を合わせてからトーストにバターを塗る。
「結月も大きくなったわよね。今日から高校生かぁ」
私がトーストを噛るのを見て、お母さんが話しかけてきた。私はちゃんと飲み込んでから答える。
「お母さん、それ中学の入学式のときも言ってたよ」
「そうだっけ? まぁいいじゃない。それよりも、今日は翔くんと登校するのよね」
その言葉に私の心臓が跳ねる。平静を装うために牛乳を一口飲んだ。
「そりゃあまぁ、幼馴染だし? 一緒に登校するよ」
「もう、照れ隠ししちゃって。わざわざ幼馴染なんて言い訳しなくてもいいのよ」
「……別に、言い訳じゃないし」
「そう? だって結月は翔くんのこと好きじゃない」
「…………」
何を返せばいいのか分からず、またトーストを噛りに始めてしまう。最後に牛乳を飲み干すと、逃げるように手を合わせた。
「ごちそうさま」
「食器は洗わなくていいわよ。今日はお母さんが洗うから」
「お仕事は?」
「今日は少し遅めなのよ。だから入学式には行けないのよね。ごめんなさい」
「別に、いつものことだし」
私は食器を流しに置いてから洗面所に向かう。そこで歯を磨き、続けて髪を梳こうとすると……。
「今日入学式なんだからお父さんに報告してきたら?」
リビングから母さんの声が聞こえてきた。
「……うん、分かった」
小さく返事をして私はお母さんの部屋に向かった。
一人だと少し広いお母さんの部屋。ベッドのすぐ横にあるミニテーブル。そこには男性の笑顔の写真が飾られている。
――写っているのは私のお父さんだ。
お母さんの話によると私が一歳の時に放火事件の被害者として死んだらしい。
その事件は外にいたお父さんが、燃えている家の中にいた二歳ぐらいの女の子を助けたというものだ。
しかしお父さんだけが取り残されて……死んでしまった。
寂しくなかったと言えば嘘にある。小学校は鍵っ子で友達と遊び終えたらいつも一人だったし、お母さんは仕事や家事で忙しく、私に構う暇など全くなかったから。
お父さんがいたらこんな寂しい思いをしなかった。お母さんだってこんなにも忙しくならなかった──と勝手に恨んだこともあるが、今ではそんな気持ちはどこにもない。
そういうものだと、いつからか受け入れていた。
私はお父さんの遺影の前に立ち、瞳を閉じて手を合わせる。
「お父さん、今日は心峰高校の入学式です。正直、あまり行きたくないけど頑張ってきます。今日も私たちを見守っていて下さい」
そっと目を開けて部屋を後にする。
リビングの時計に目を移すとそろそろ8時になろうとしていた。
そろそろ翔が迎えにくる。
学校へ……行かなければならない。
その両方の気持ちに押しつぶされながら私は残りの用意を済ませていった。




