029 仮入部
六時限目が終わると大きく伸びをする。久々に長時間座ったせいか、腰が少し疲れていた。
クラスの何人かも私のように伸びをしている。私みたいに疲れている人は少なくないんだろう。
そんなことを考えていると高橋先生が教室に入ってきた。席を立っていた生徒が直ぐに座り、終礼が始まる。
「みなさんお疲れ様です。オリエンテーション後の授業で疲れているでしょうが、今日から仮入部期間が始まります。せっかく心峰高校に入ったんだから自分に合った部活動、同好会に入ってくださいね。それでは、木曜班は掃除ですので残ってください」
高橋先生の話が終わると井上さんが号令をかける。私は佐々木さんと一緒に廊下に出た。
いつもなら翔と神崎くんがいるのだが、今日は神崎くんしかいなかった。
「翔はどうしたの?」
「『用事があるから先に行ってくれ』だってよ。内容は僕も知らない。なんかはぐらかされた」
「じゃあ告白っていう説もあるよね」
「確かにアイツバスケで結構活躍してたからなぁ」
「二人ともカッコよかったよ。まぁ如月くんは東くんも止めて、攻めて、女子にキャーキャー言われてたもんねぇ」
佐々木さんがニヤけながら言ってくる。その程度の挑発では私は何も反応しない。うん、大丈夫……。
「望月さん……手に力入れてどうしたんだ?」
あれ? いつの間にか握り拳を作っていたようだ。
神崎くんに注意されて私は手の力を抜く。一度全身の力を抜いて深呼吸……よし、落ち着いた。
「とりあえず旅行同好会の活動場所に行こうか」
「如月くんのところに行かなくていいの?」
「場所が分からないからしょうがないよ」
少し早足になりながら三階にある旅行同好会の教室に向かった。
「「「失礼します」」」
少し緊張しながら部室に入る。中は教室のように机とイスが置かれている訳ではなかった。
中央に折りたたみ式の長机を二個繋げるように設置してあり、その周りにはパイプ椅子が六個置かれている。
その椅子の一つに本を読んでいる生徒が座っていた。綺麗な茶髪でポニーテールの女子生徒。上靴には赤色の線が入ってあるので二年生の先輩だろう。
でもその先輩には見覚えがあった。
先輩は本を閉じ、私たちの方に向いてくる。
「もしかして仮入部の……って名前も知らない後輩ちゃん⁉」
「あっ! 屋上で寝ていた先輩ですか⁉」
「そうだよ〜。ちなみにここに来たのは?」
「旅行同好会の仮入部です」
「本当に⁉ これは何かの縁かなぁ。それじゃあ席に座って座って」
私の言葉を聞いた先輩は目を輝かせて席に誘導してくる。私たちは大人しく座ると前にノートパソコンを置かれた。
「ワタシは部長の橘 葵。旅行同好会にはもう一人、副部長の上杉 悠真くんがいるよ」
「二人だけですか?」
「うん。二人だけ。だから同好会止まりなんだ……」
そう言ってしょんぼりと下を向く橘先輩。ここは会話を止めるべきじゃなかったかも。
「あの、橘先輩。続きは?」
神崎くんが先輩に対して普通に話しかける。そこでハッと橘先輩は顔を上げる。
「あ、そうだった。まだ途中だったね。一応部活の説明をすると、名前通り旅行をします。しかしただ旅行をするわけではありません。旅行をする前にワタシたちが作ったサイトに投稿された依頼を受けます」
「ボランティアみたいな感じですか?」
「そんな感じ」
佐々木さんの質問に答えながら橘先輩はノートパソコンを開く。そこには数は少ないがちゃんと依頼が見えた。
「これを全部するんですか?」
「正直に言って無理かな。でも、出来るだけ多くするつもりだよ。ほら、ここに『書かれた依頼を全て実行することは出来ません。注意してください』って書いてあるでしょ?」
「見た感じ他県の依頼とかもありますね」
「まぁね。だからある程度の実績はあるつもりだよ。そう言えばみんなの名前は?」
「神崎 拓也です」
「私は望月 結月です」
「佐々木 華です」
「神崎くんに望月ちゃんに佐々木ちゃんね。うん、覚えた。それじゃあ続きを――」
先輩が画面の操作をしようとしたその時、ガラリとドアが開いた。そこから二人の男子生徒が入ってくる。
「戻ってきたぞー」
「失礼します」
それは翔と男子生徒だった。その男子生徒の靴には赤色の線が入っている。おそらく橘先輩が言っていた上杉先輩だろう。
「悠真くんおかえり〜。そこの男子生徒は?」
「ドアの前でたまたま会っただけだよ」
「初めまして。俺は如月と言います」
「初めまして。それじゃもう一度自己紹介しますか。ワタシは部長の橘 葵。そして彼が副部長の上杉 悠真くん。この二人しか所属していないから先輩の名前覚えるの楽だよ」
「「「初めまして」」」
「うん、初めまして」
先に来ていた私たちは上杉先輩に挨拶をする。上杉先輩は私たちに挨拶すると橘先輩に話しかけた。
「それで、そこの三人は入ってくれるか?」
「まだ分かんないんだよね〜」
「オレが連れてきた如月は入ってくれるらしいけどな」
「マジで⁉」
「あ、はい。そのつもりです」
翔が入ることに橘先輩は驚く。そして嬉しそうな顔になるが、ブンブンと首を横に振って翔に声をかけた。
「入部するって言ってくれるのは嬉しいよ。でも仮入部期間は始まったばかりだし、ちゃんと考えた方がいいと思う」
「ここ以外入りたい部活、同好会がないんですよね。それにその……先輩たちは話しやすいので」
「うーん……それなら仕方ないか……な? それより先輩が良いということだよね! やったね悠真くん!」
「そうだな。それで、そっちの三人は?」
翔が入るのなら私が入らない理由はない。私自身入りたい部活もないし、今回も翔と同じところに入る予定だったから上杉先輩に答えた。
「私も入ろうと思います」
「僕も入ります」
神崎くんも入ると言うが佐々木さんだけ答えなかった。
「佐々木さん? どうしたの?」
「……少し考えさせてください。仮入部期間までに答えを出します」
「うん、佐々木ちゃんのも良い判断だと思うよ。まだ仮入部期間は始まったばかりだしね。それじゃあ続きの説明するよ。如月くんには悪いけど、序盤の話は後で三人から聞いてね」
「分かりました」
そして一度中断した説明の続きを橘先輩が言う。
「活動は自由参加型。ただし、週に二回と召集がかかったら来ること。確か一年に高橋先生がいるはずだから、招集の時に声をかけられるはずだよ」
「でも……先生って」
橘先輩の言葉に反応してしまう。まだ記憶に新しい復習テスト。高橋先生はそのことを伝え忘れてしまった。
もしかしたらまた伝え忘れが発生するかもしれない。
「あ〜、もしかして先生の物忘れのこと?」
「えと……」
「あはは、大丈夫。その点は心配いらないよ。先生は旅行に関してのことは忘れないから」
「そうなんですか?」
「先生は旅行好きだしね。ほら、好きなことは毎日一回は考えるでしょ?」
「確かに」
私も翔のことを考えない日はない。……流石にこれは気持ち悪いかな。
それからは特に話す内容がないらしく、部室内にあるボードゲームで遊んでいた。するとどんどん時間は過ぎていき、チャイムが鳴り響く。
「ほら、四人はそろそろ帰りな。もう一年生の最終下校時刻だ」
上杉先輩の声に反応して教室の中にある掛け時計を見ると、本当にそうなっていた。今日は時間が過ぎるのが早かった気がする。
私たちは荷物を掴むと教室を後にした。
「「「「失礼します」」」」
「また来てねぇー!」
先輩たちは手を振ってくれた。本当にいい先輩だ。話しやすいし、話してて楽しいし。
この同好会なら高校生活を楽しく過ごせそうだ。




