003 そして歴史は動く
《如月 翔視点》
目を開けると雲一つない綺麗な青空が見えた。……青空が見えるってどういうことだ?
俺が高校で倒れたことは覚えてる。そのまま夜の寒さにも目を覚まさずに今まで寝てた……ってそんな馬鹿な話があるわけないよな。
にしてなんで俺は倒れ……。
「――っ結月は!?」
俺は結月を探すために急いで体を起こす。しかし目の前の光景に言葉を失った。
立ち上がって周囲を見渡す。しかしどこを見ても水色の地平線が広がっていた。下を見れば所々に白い物体が確認できる。
服装は気絶した時と同じ。今立ってるこの床は透明だが、ガラスのような光の反射が見当たらない。
まるでアニメなどで見る精神世界……空の上に立っている感覚を覚えた。
なんなんだこれ、夢……だよな?
「その通り。ここは夢の世界さ」
まるで俺の心を読んだような声が背後から聞こえてきた。それが懐かしくてすぐに後ろを振り返る。
そこには一人の少年が立っていた。右目が青、左目が紫のオッドアイに白い髪。見た目は童顔で身長も結構低い。
誰だ? この子どもは。
「はぁ、本当に君は失礼だな。この創造神であるボクを子ども呼ばわりするなんてさ」
また俺の心を読んだかのような言葉を俺に投げかけてくる。しかしそれよりも気になることがあった。
「創造神? まさか自分のことを神とでも言うつもりか?」
「もちろん! だって本当のことだしね」
自信満々に言い放つ自称創造神。あれか。これが中二病というやつか。実に痛々しい。
「子どもの次は中二病呼ばわりか。罰当たりもいいところだ」
「悪いかよ。神様なんて非現実的なこと……」
「――ないとでも言うつもり?」
言葉を先読みされて思わず口が止まる。そこで自称創造神はニヤリと口角を上げた。
「だったら望月 結月の存在は非現実的になるよ」
「……どうして結月の名前が出てくるんだよ」
少々怒気を孕んだ声を出すが自称創造神は怯える様子がない。
「あ、ごめんごめん。言葉が足りなかったかな。でも本当は分かってる癖に~」
逆に煽ってくる創造神に腹が立ってくる。
「だから何がだよっ!」
「彼女の《能力》だって非現実の部類に入ってるはずだよ」
「――なっ」
絶句してしまう。それを知っているのは俺と結月の親友、あとは噂程度で心峰高校の関係者だけのはずだ。
……いや、よく考えればここは俺の夢の世界。つまりこいつが知っていても不思議じゃない。
「本当に君は言い訳をするのが得意だね。だけど残念。君がボクを作ったわけじゃないから、君が記憶していることをボクは知らないよ」
またしても俺の心を読んだように言葉を並べてくる。まるで怒った結月を相手にしてるみたいだ。
「それと望月 結月の力を知っている理由だっけ? そんなの単純明快。そう……」
少しの間を置いて自称創造神は両手を広げる。そして高らかに声を張り上げた。
「ボクが与えたからだよ」
「――は?」
突然の言葉に間抜けた声を出してしまう。しかしワンテンポ遅れて沸々と沸き上がってくるものを感じた。
確証はない。だが別の可能性を考える余裕もなく俺の身体は動いていた。左手で自称創造神の胸倉を掴むとグイッと顔を近づける。
「お前のせいで結月がどうなったのか知らないのか!!」
結月は《能力》のせいで周りから忌み嫌われ、居場所をどんどん失くした。そして挙げ句の果てには……自殺した。
高校生でやっと幸せそうになってくれた結月の人生は《能力》のせいで滅茶苦茶にされたんだ。
それでも自称創造神は怯まない。俺の言葉を面倒臭そうな顔をして聞いていた。
「そんなの君の心の声を聞かなくても分かるよ。少しは監視してたからね。望月 結月は《能力》の存在が周囲に知られると、初めは好奇心故に人気者になる。しかし人々はその《能力》を妬み、恐怖し、彼女の居場所をどんどん奪っていった。騙されてはいたが、結果的に母親に売られかける。そして売られるはずだった8月27日に自殺した」
「え?」
信じられない。今、コイツは何て言った? 母親が……なんだって?
「母親に……売られかけた……?」
「もしかして知らないのかい? 彼氏の癖に。そんな無知な君の為に優しいボクが教えてあげるよ。彼女の《能力》を欲した人がいてね。母親を騙して多額の金で売られかけたんだ」
そういえば俺が心峰高校に向かう時、結月の家の前に高そうな車が停まっていた。もしかして……それが結月を買いに来た人だったのか?
「それにしてもどうして君は怒っているんだい? 生物として生まれたなら必ず終わりは来る。それが早いか遅いかの違いじゃないか」
「てめぇ!! 俺にとって結月は誰よりも大切な存在だったんだぞ!」
「だから? 本当の事を言って何が悪い? 本当に……人間の考えることはいまいち分かんないや」
最後にため息を吐く自称創造神。
「『自分の《能力》を上手く扱いきれず自殺』したような弱い人間のことでよくそんなに怒れるよ。大変だね、君。少しは同情してあげる」
その言動で俺の怒りは頂点に達していた。俺を罵倒するのは構わないが、これ以上結月を傷つける発言は許さない。
俺は余っている右手で思い切り自称創造神に殴りかかる。しかし俺のパンチを自称創造神は左手で容易く受け止めた。
小さなその体のどこにそんな力があるのか……。自称創造神の左手を振り払おうとするが、まったく動かせない。
得体の知れない力を目の前にして俺は冷や汗をかく。
「――ねぇ、いくら優しいボクでも怒るときはあるんだよ……」
自称創造神が発した一言。それだけで俺の怒りは一瞬で鎮まった。だが、代わりに俺の身体は恐怖で支配された。
全身の力が一気に抜け、足は産まれたての子鹿のようにプルプルと震え始める。
自称創造神のあの声が今は不気味で仕方なかった。
遂に立てなくなった俺は尻もちをついてしまう。いつの間にか自称創造神の胸ぐらを放していたらしく、俺の右手も解放されていた。
「あはは、そんなに怖がらないでよ。殺されるわけじゃないのにさ」
ニコニコと笑顔を向けられる。だがそれを返す余裕などなかった。
空いている両手で両足を擦る。だが足の震えは止まらない。俺は新たに生まれた怒りをぶつけるように右足を殴った。
――くそ! ここに結月を傷つけた元凶がいるのにどうして震えが止まらないんだ!!
「あのさぁ、一応言っておくけど彼女は《能力》を貰ったとき嬉しがってたよ」
「ゆ、結月が?」
「うん、彼女はいつも不安がっていたんだ。表面上は仲良くされてるけど本当はそんなことないんじゃないかってね」
そうだったのか……。なんで俺はそんな結月の気持ちにさえ気付かなかったんだ。
自分が今までしてきた言動を思い返して後悔する。
だけどそれも後の祭りだ。今更後悔したところで意味はない。後悔しても決して過去には戻れないし結月にも会えない。
――もう救うことはできない。
「……もしそれが可能だったらどうする?」
思わずバッと顔を上げて創造神の顔を見る。
「お、教えてくれ! どうすればいいんだ!?」
「まぁまぁ、少し落ち着いて。……実は最近新しい《能力》を創ったんだ。それを上手く使えば死ぬはずだった命を救える……かもしれない」
「頼む、その《能力》を俺に与えてくれないか!」
「……それでは聞こう、如月 翔。汝は力を求めるか?」
創造神の右腕の周りに水色の粒子が出現し、腕の周りを飛び回る。
聞かれずとも、俺の答えは決まっていた。
「あぁ。頼む」
答えると創造神が近づいてくる。そして創造神が俺の左目に触れてきた。思わず目を瞑ってしまう。
すると左目の瞼から水色の粒子が入り込んできた。その粒子はまるで妖精のように飛び回りながら光を発する。
そんな幻想的な光景に目を奪われた。その光はどんどん輝きを増し――やがて目の前が闇に覆われる。
粒子の姿は跡形もなく消えてしまった。
ゆっくりと目を開ける。
成功か? しかし俺の体が変化したように思えない。
「さぁ、これで準備は整った。あとは[歴史]を使うだけだ」
「ひすとりー? そんなこと言われても――」
俺は知らない。そう言おうとした言葉が喉に詰まる。突然、ある情報が頭に流れ込んで来たからだ。今までにない感覚だった。
おそらくこれが[歴史]の情報なんだろう。認識し、思わず身震いしてしまう。
「……なるほど、そういう能力か」
「もしかして怖気づいた?」
「まさか、俺は絶対に結月を助けてみせる」
そうして俺は[歴史]を発動する。俺が望むハッピーエンドを求めて。
これでプロローグ終了です!
二人の活躍にこうご期待!




