023 最高の思い出
私たちが部屋に戻ると二人とも布団に入っていた。
「あ、おかえり〜」
「「ただいま」」
布団から顔だけ出している井上さんが眠そうな声で答える。宮野さんは完全に寝ているようだ。
「ふわぁ〜……私はもう眠るけど、二人も早めに寝なよ」
「あはは、井上さん寝るの早いね。おばあちゃんみたい」
佐々木さんの言葉に井上さんは返答せず、掛け布団を顔まで被った。早く眠りたいらしい。
するとブルっとポケットの中のスマホが震える。どうやらチャットアプリからメッセージが来たようだ。
スマホを開くと佐々木さんからだった。隣にいるのにどうしてだろう。
『結局如月くんの部屋に行くの?』
なるほど。井上さんたちに聞かれたくないからここで話すのか。
理解した私もチャットアプリで話すことにする。
『どうせだし行ってみようかな』
『分かった。じゃあもう行こうか』
『もう行くの⁉』
『駄目かな?』
『あと二十分くらいしたら行こうよ』
『どうして?』
『それぐらいしたら井上さんも寝るでしょ』
『なるほど』
ということで二十分、最近買った本を読むことにした。『四季病 春編』という感動系の小説で、来年には実写映画化するほど人気らしい。
こういうのは初見で見ないと感動できない人もいるだろう。でも私は何回見ても楽しめるし感動できる人なので、見たい映画は前もって小説を読むのだ。
……前みたいに翔の前で号泣しないように。
キリのいいところで栞を挟むとスマホを開く。あれから三十分経っていた。私は今もスマホで動画を見ている佐々木さんの肩を揺らす。
佐々木さんは顔を上げると私を見て立ち上がった。そして二十二時四十分を過ぎたあたりで部屋を出る。すると佐々木さんが大きなため息を零した。
「そんなため息吐いてどうしたの?」
「逆に聞くけど自覚ない?」
「動画の邪魔しちゃったとかかな」
「違うよ。あたしが望月さんを呼んだの気付いてた?」
「いや……気付いてない……」
「やっぱり? あたしもたまにあるから文句言えないけどさぁ……」
「なんかごめん」
そんな話をしていると翔の部屋の前に着いた。インターホンを押そうとするがドアに靴が挟まっているのに気付く。
そういえば『ドア開けっ放しにしてる』って言っていたよね。
私たちはドアを開けると、挟まっていた靴も玄関に並べて部屋に入った。
「「おじゃましまーす」」
「どうぞー」
中から神崎くんの声が聞こえる。でも翔の姿が見当たらない。
「あれ? 翔は?」
「翔なら飲み物買いに行ってるぞ。時間までまだまだあるしな」
机にはチップス系やチョコ系のお菓子が置かれている。他にも鍵とか……。
「ねぇ、これって……」
「部屋の鍵だね。ほら、靴をストッパーにしてたでしょ」
つまり翔は鍵を持たずに外に出たわけで……靴は綺麗に並べたからドアも閉まっている。
そこまで考えたところでインターホンが鳴った。私はすぐにドアの鍵を開けに行く。
「もう来てたのか。早いな」
「うん……ごめんね。挟んでた靴並べちゃった」
「別にいいよ。すぐに開けてくれたし」
翔を入れて四人になった私たちは映画を見ることにした。翔が会員制の動画アプリを持っていたのでそれで見る。
何を見るかじゃんけんで決めると神崎くんが勝った。なので神崎くんはホラー映画を選ぶ。内容は殺人鬼の魂が入った人形が暴れ回るというものだった。
隣にいる佐々木さんはホラーがとても苦手らしく、ずっとわたしの手を握っている。正直、そのおかげで私も恐怖を和らいだと思う。
全て見終えると手を握られる感触が弱くなった。佐々木さんを見てみると涙目になっている。それを心配してか、神崎くんが声をかけた。
「だ、大丈夫?」
「うん……いける」
「ごめんね。こんなの見せちゃって」
「忘れさせるから大丈夫」
ホラーを忘れるのは厳しいと思うがあえて言わないでおこう。佐々木さんを慰めていると一時ぐらいになっていた。こんな時間なのにホラー映画のせいで目が冴えている。
私が体を伸ばそうとしたその瞬間――ガチャっとドアが開く音がした。こんな夜中に、しかもオートロックの扉が開けられたのだ。
佐々木さんから「ヒッ」と恐怖に染まった声が聞こえてくる。かく言う私は恐怖心のあまり声すら出なかった。
そんな中、翔だけが動いた。翔は玄関と部屋を分けている襖を開ける。そこにいたのは藤原先生だった。
私の思考はパニック状態になる。しかしすぐに言い訳を始めた。
「せ、先生⁉ これは……その……」
何から話せばいいのか分からない。私は必死に思考を巡らせる。
女子が男子の部屋にいる説明? それともこの時間まで起きている説明?
色々と考えるが話が纏まらない。藤原先生はそんな私たちを見ると翔に視線を戻す。
「それで如月、班メンバーで行くのか?」
「はい。にしても早いですね」
「暇だったもんでな」
その光景を見て呆然としてしまう。
どうやら怒られないっぽい? でもどうして?
藤原先生は背負っていたリュックから懐中電灯を取り出すと全員に渡す。そして部屋から出ていった。
「翔? これどういうこと?」
「あぁ……今から日の出を見に行くんだ」
「日の出?」
「そう、山からな」
「えぇ! 凄く面白そうじゃん。望月さんも行くでしょ?」
「まぁ、懐中電灯も渡されちゃったしね」
私たちは部屋を出て藤原先生に付いていった。外に出ると山に向かって歩き出す。今回は夜ということで階段から登ることになった。
夜の森は静か過ぎてホラー映画を見た影響か不気味に感じる。森の中で人形から逃げるシーンを思い出して少し身震いした。
一直線に並び続けている階段を上り続け、頂上に辿り着く。やはりあの山道と比べて明らかに時間がかからなかった。
私たちは東屋にあるベンチに腰を下ろす。早めの出発だったせいで、日の出まであと一時間三十分ほどあった。
そこで先生から色々な話を聞いていた。今回の件を許した理由は教えてくれなかったが、大体のことには答えてくれた。時には私たちの話もする。
そして時は流れ、日の出の時刻が刻一刻と迫ってくる。私たちは太陽が出てくる方向をずっと見つめる。
そして――日の出を迎えた。
暗かった街はどんどん明るくなっていく。私は昼よりも眩しくないオレンジ色の太陽を眺め続けた。
日の出を見るのは初めての経験だったので美しく感じる。まるで夕日みたいだ。
翔の提案でここで記念写真を撮ることになった。もちろん私を含めて三人も賛成する。藤原先生が翔のスマホで写真を撮ってくれた。
おそらくこの思い出はオリエンテーションの中で最高の思い出となるだろう。翔はその画像を早速私たちに送ってくれる。
私はすぐにそれをロック画面に設定し、スマホを胸に当てるのだった。




