020 穴があったら入りたい
横からアラーム音が鳴り響き、私は目を覚ます。時刻は6時。朝は7時20分に旅館前に集合なのであと1時間以上ある。
私は自分の布団を片付けると隣にいる佐々木さんを揺さぶった。
「起きて、早く部屋に戻るよ」
「んー……」
佐々木さんは全然起きてくれない。朝が弱いのだろうか。前にひとり暮らしだと言っていたのだが、本当か疑ってしまう。
「ほら、もう起きて!」
佐々木さんから掛布団を奪う。すると体をブルッと震わせて目が開いた。
「さ、寒い……」
「早く起きて」
「ん~……もう7時?」
「いや、6時だよ」
佐々木さんは体を起こすと小さく口を開けて欠伸をする。そして部屋を見渡すと猫みたいに体を伸ばした。
「そっか。ここあたしの部屋じゃないんだったね」
「そうだよ。しかも翔の部屋で寝たんだから早く戻らないと」
「分かった。それじゃ、ちゃちゃっと片付けますか」
「私はもう直したから待ってるね」
「如月くんの寝顔見ながら?」
「そんなことしないよ!」
急に変なことを言われたので反発してしまう。でも、翔の寝顔は見てみたい……かも。
「別にいいじゃん。ほら、バレなきゃ問題ないんだよ」
「……ちょっとだけならいいよね」
「案外ちょろい?」
私自身見たいのでしょうがない。佐々木さんが布団を片付けるまでの時間だけだ。
そっと音を立てずに翔に近寄る。そして仰向けになっている翔の顔を覗きこんだ。目の前には翔の寝顔がある。
……可愛い。スー、スーと翔の寝息が聞こえてくる。
気付けば翔の唇に奪われていた。翔の唇に人差し指を軽く当てる。柔らかい感触。思わず何度も当ててしまう。
「う、ううん……」
お、起きた?
私の体がビクっと震える。しかし翔は私とは反対方向に寝返った。どうやらまだ寝ているようだ。
ほ、よかった……。
次に自分の人差し指に視線を向ける。その指はもちろん翔の唇を触った指。その指を自分の唇に当てて……。
「望月さんは可愛い乙女だねぇ」
「――えっ?」
振り返ると布団を片付け終わっている佐々木さんがいた。とっくに布団は片付けられていた。
「……いつから見てた?」
「えぇっとね。如月くんの顔を覗きこんでるところから」
そ、それって
「初めからじゃん! 終わってたなら言ってよ‼」
「望月さんが可愛すぎてつい。まさか如月くんの唇を触った指で自分の……」
「やめて! 恥ずかしくて死んじゃう」
私は頭を抱えて蹲る。顔が熱い。
もう‼ どうしてあんなことしちゃったんだろう……。穴があったら入りたい。
今更になって自分がしてしまった事の重大さを気付く。本当は顔を見るだけだったのに……。だってこれって……か、関節キス……だよね。
「あはは、面白いぐらい顔が真っ赤だよ」
「うるさいなぁ」
「ごめんって」
恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだ。私は佐々木さんを置いて足早に翔の部屋を後にする。
自分の部屋のインターホンを鳴らすと井上さんが出てきてくれた。
「もう、2人とも昨日どこに行ってたの……って望月さん大丈夫? 顔真っ赤だけど。……もしかして熱⁉」
「いや、違うから! すぐに元に戻るから!」
「そう、ならいいんだけど……辛くなったらいつでも言ってね」
「うん」
私と佐々木さんは中に入る。私たちが敷いた布団も片付けられていて、初めてこの部屋に来た時のような状態になっていた。
「私たちの布団も直してくれたの? ありがとう」
「どういたしまして。まぁ、それはそうとして昨日はどこへ行ってたんですか? 飲み物を買うだけならすぐに戻ってこれたと思うんですが」
「えっとね……」
ここで「男子の部屋に行ってた」なんて言えば井上さんは注意してくるだろう。もしかしたら先生への報告もありえるかもしれない。
だけどなんて言えば……。
「昨日は飲み物買った後に星を見に行ったんだ。ここって明かりが少ないからいっぱい見えるんだよ!」
「なるほど。そういえば望月さんって中学生の頃は天文部所属でしたね。……望月さん、今日も見に行くご予定はありますか?」
「あっ……うん! 晴れていたら行くつもり」
「では私と宮野さんもご一緒させてくれませんか?」
「え? わたしもですか?」
「そうだけど……ダメ?」
井上さんはクルッと体を回転させて宮野さんの方を向くと、宮野さんの手を掴んだ。いきなり手を握られた宮野さんは驚くがすぐに答える。
「いいですよ。誘われたのであれば行きます」
「……ということで望月さん、お願いします」
「じゃあ時間がある時に見に行こうか」
なんとか危機をを乗り越えれたようだ。後で佐々木さんに感謝しないとね。




