妹、冒険者ギルドで登録をする。
テンプレ展開っぽいものと新キャラの登場です。
冒険者ギルドは西部劇によく出てくる酒場のような場所でした。受付のカウンターに沢山のテーブルと椅子。壁には依頼の紙が張り出されています。
冒険者登録をする為にカウンターに向かって歩いていると、ヒューッと口笛の音が聞こえてきました。下卑た笑い声。嘲るような囁き。胸とお尻に視線を感じます。私のような美少女が入ってきたのではしゃいでいるのでしょうね。ホリンさんが冒険者ギルドを『ならず者の集まり』と言った理由がわかります。
あ、ホリンさんというのは警備隊詰所に私を連れて行った鎧姿の男性のことです。ここに来るまでに名前を教えて貰いました。結構可愛い名前だと思います。そう言ったらすごく嫌そうな顔をされてしまいました。昔からよく言われていたそうです。可愛い名前なのだから仕方ないですね。
「お嬢ちゃん依頼を出しに来たのか―? 一晩付き合ってくれたら俺がやってやるぜー」
「ひゃはは! 抜け駆けしてんじゃねーよ! そんな奴より俺とイイコトして遊ぼうぜー」
彼らの中の二人がこちらに近づいてきました。私は足を止め、彼らに黄金色の瞳を向けます。
『青い』ですね。色々な意味で。【透視】の能力を得た【黄金神眼】で視た彼らの纏うオーラの色は『青』でした。どうやら彼らは私より弱い方々のようです。【透視】では装備を含めた能力はわかりませんが、あのボロボロの装備を見る限り大した誤差ではないでしょう。
ちょうどいいので彼らで腹ごしらえをしましょうか。
違和感がないように気を付けながら会話に乗ることにします。
「依頼をしに来たのではありません。冒険者登録に来たのです。
一晩付き合うのはやぶさかではありませんが……
そういう話は後で……ここでは人目も多いですし、ね?」
「うお! マジか!」
「言ってみるもんだな!」
「二人とも逞しいですし、きっと――な、何をするのですか。ホリンさん!?」
「ははは。監視されている身分の癖に、街の警備隊長である俺の前で堂々と捕食活動をしようとするとはいい度胸だな。ああ?」
先輩冒険者さん達と語らっているとホリンさんにむんずと頭を掴まれました。
へー。ホリンさんって警備隊長だったのですね、って、そうではありません。
やめてください。髪型が崩れてしまいます。
部屋に連れ込まれた所で逆に襲い掛かって吸血するという計画が……!
私の血袋確保の為の計画が、阻止されてしまいそうですよ!?
「なんだテメーは! 邪魔すんなコラ!」
「オラ! 引っ込んでろ! 色男!」
「引っ込むのは構わないが、いいのか? こいつは吸血種族だぞ」
激昂する先輩冒険者達でしたが、ホリンさんの言葉にその動きがぴたり、と止まります。彼らは互いの顔を見合わせて同時に頷くと、私の方にさわやかな笑顔を向けてきました。
「悪いな。さっきの話はなかったことにしてくれ!」
「新人冒険者は大歓迎だ! 困ったことがあったら何でも言ってくれ!」
おおう。なんという掌返し。
私が吸血種族だとわかると先程までの侮っていた空気が、まるで嘘のように霧散していきます。ですよねー。知っていましたよ。見た目は人間種族と変わらないですし、人間種族の小娘と勘違いしていたんですよね。
人間種族とそれ以外の種族ではその力に大きな隔たりがあります。人間種族は魔道具を装備出来るので、装備込みなら大した差はないのですが、逆に言えば魔道具を持っていなければ、その差は天と地の差とも言えます。見た所、彼らは魔道具を持っていないようですし、私が吸血種族と知って危ない橋は渡らないことにしたのでしょう。流石は先輩冒険者、危機管理が出来ていますね。私の中で評価が上がりましたよ。
それにしてもホリンさんが正体をバラした所為でギルドでの吸血行為は難しくなりそうです。私を飢えさせるつもりですかね。責任を取ってくれるのでしょうか。
「せっかくの食事の機会が……」
「街中での吸血行為は違反行為だからな」
「冒険者同士のいざこざは自己責任と言ったじゃないですか」
「今のお前は冒険者じゃなく、監視付きの軽犯罪者だ」
「自由になりたいです」
「それなら、さっさとやるべきことを済ませることだな」
「はーい」
受付に着くと今の光景を見ていたのでしょう。苦笑している女性が座っていました。私がカウンターに身を乗り出すと、受付の女性は居住まいを正して対応を始めます。見事な切り替え。これはプロですね。
「冒険者登録と身分証の発行をお願いしたいのですが」
「かしこまりました。私はマリアベル。マリアと呼んで下さい。
身分証の発行には1000Gが必要となりますがよろしいですか?」
「はい。聞いています。用意も出来ています」
「ではこちらに名前を」
1000Gを支払うと紙を渡されました。ここに名前を書くようです。文字を書くことが出来ないのでホリンさんに代筆してもらいます。
マリアさんは紙を受け取ると水晶の付いた長方形の装置を足元の引き出しから取り出してカウンターの上に乗せました。正方形の板を二つ合わせて長方形の形にした台座。その正方形の板の片方に丸い水晶が乗っている装置です。水晶が乗っていない方に長方形のカードを乗せると、マリアさんは針を差し出してきました。
「シャーリィさんですね。
では、その台座の上に乗っているカードに血を一滴垂らしてください。
それが終わりましたら、水晶に手を乗せてください。
しばらく経つとカードに名前が浮き出てきますので、それで登録は完了です」
言われたとおりにするとカードに文字が浮き出てきました。
先程の紙に書いてもらった文字と同じ文字です。
名前が浮き出てくると言われているので当然ですね。
私も自分の名前くらいは書けるようになりたいものです。
「これでシャーリィさんの冒険者登録と身分証の発行は完了となります。
そちらのカードが身分証になりますので、無くさないようにしてください。
無くした場合は紛失処理費と再発行費を合わせて2500G必要となります。
1年以上依頼を受けないでいると死亡したと見なされ資格を剥奪されます。
冒険者として活動するに当たっての説明は必要ですか?」
「お願いします」
「冒険者ギルドではランク制度を採用しております。
ランクはG、F、E、D、C、B、A、Sの順番で上がっていくようになっています。
依頼は自分のランクと同じか、その1つ上か下のランクしか受けることができません。
依頼のランクは壁に張り出されている依頼表に書かれていますので、自分にあったランクの依頼を選ぶことをオススメします。
依頼ですが『採取依頼』『討伐依頼』『調査依頼』『護衛依頼』の四種類が存在します。
『採取依頼』は薬草等の植物を採取するのが主な依頼内容となります。
『討伐依頼』は魔物や盗賊退治が主な依頼内容となります。
『調査依頼』は危険度の高い魔物の生態調査や街中での事件調査が主な依頼内容となります。
『護衛依頼』は街から街へ移動する商人等の護衛をするのが主な依頼内容となります。
冒険者ギルドは冒険者同士のトラブルに介入はいたしません。ただし、あまりにも目に余る場合。特に冒険者ギルド自体に害があると判断した場合は介入することもありますのでご了承ください。
ここまでで何かご質問はございますか?」
「文字が読めないので依頼表に何が書かれているのかわからないのですが、何処か文字の読み書きの勉強が出来る場所はありますか?」
冒険者登録をしても依頼表が読めなければ依頼を受けることが出来ません。
これ一応VRゲームですよね。ここまでリアルにしなくてもいいと思うのです。
この世界独自の文字を見ていると、まるで本当に異世界にやってきたかのような錯覚を覚えます。言葉自体は日本語と同じなので通じるのですが、文字だけが完全に別物のようです。なんだか奇妙な感覚ですね。
「そういうことでしたら、冒険者ギルドでは文字の読み書きが出来ない方の為に500Gで『【種族共通語】のスキル書』を販売しております。
ご購入をなさいますか?」
「お願いします。あ、スキル書というのは文字が読めなくても使えるのですか?」
「はい、スキル書は開くと自動的に指定されたスキルを覚えられるようになっています。
ただ一度使うと消えてしまうので、それだけはご了承ください」
「わかりました」
500Gを支払って『【種族共通語】のスキル書』を購入。
さっそく使用してスキルを習得します。
【種族共通語】を習得しました。
【種族共通語】
分類 言語/常時
射程 自分/自分
効果 種族共通語の読み書きが出来るようになる。
「読めます! シャーリィと書いてあります!」
感動のあまり、少し声が大きくなってしまいました。
冒険者カードに書き込まれた文字を自然と『シャーリィ』と読めるようになりました。試しにマリアさんに紙とペンを貸して貰い『シャーリィは吸血種族、おなかぺこぺこ』とスキルを意識しながら書いてみます。書き込まれたのは『シャーリィ』以外、今まで見たことのない文字の羅列。どうやらこの世界の文字の書き取りは無事に出来るようになったみたいです。冒険者ギルドで身分証の発行だけではなく、言語スキルの習得まで出来たのは僥倖でした。
さて、これ以上は他の方の迷惑になってしまいますね。身分証の発行を終えた私はマリアさんにお礼を言うと、受付を離れることにしたのでした。
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