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Star Gate Online ~妹は姉の作ったVRゲームで『裏の世界』の仲間達と一緒に遊ぶようです~  作者: 如月ひのき
第一章 姉のことは信じていますが、信じているが故に、疑ってしまうのです。
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妹、街の警備隊詰所に連行される。

鎧姿の男に手を引かれ、連れて行かれるシャーリィさん。

事案でしょうか? いいえ、問題児の連行です。

 私が連れて行かれた警備隊詰所は石造りの小さな施設でした。年季のある椅子と机が中央に置かれ、壁際の棚には鎧と剣が乱雑に置かれています。休憩に使うのでしょう。お茶を淹れる為の道具もあるようです。意外なことにお酒は見当たらないようです。流石に街を護る仕事をしながら飲むわけにはいきませんからね。もしかすると何処かに隠しているのかも知れませんが。


「座れ」


 鎧を着た男性が私を椅子に座る様に促します。言われた通り私が椅子に座ると、鎧を着た男性も向かい側の椅子に腰を落ち着けました。


「あー。なんでここに連れてこられたかわかっているか?」


「少しばかり騒がしくし過ぎてしまったからですかね」


 往来のど真ん中でやることではなかったですね。

 あの時は姉に負けたくない一心で意地になっていましたが、冷静になって振り返ってみれば、街のど真ん中で公開自殺を突然始めたようなものではないですか。

 そりゃ騒ぎになりますし、警備の人も飛んできますよね。


「こんな日の高いうちから吸血種族がふらふらと出歩いているのも珍しいが、往来で自殺まがいのショーを見せつけるとはなぁ……ったく、なんであんなことをしたんだ? 周囲の静止を振り切ってまで」


「太陽に抗いたくなるお年頃なのですよ」


「そんなお年頃は何処かに捨てちまえ」


 「この世界を創造した姉に負けたくないからです」とは言えないので言葉を濁します。姉が世界を創造したとか言ったら、変な目で見られるか、信じられたら信じられたで、色々と面倒なことになるに決まっています。

 私は慎ましやかに生きるのです。騒ぎを起こして捕まって何を言っているのかと自分でも思いますが。

 私の返答に鎧を着た男性は大きく溜息をつくと、紙を差し出してきました。


「その紙に名前、種族、職業を記入。それと身分証明を提出してくれ。

 今回は厳重注意で済ませるが、次に騒ぎを起こしたら罰金もあるからな」


「あの……」


「あん?」


 手を小さくあげて質問の意を示します。

 記入しろと言われましても、身分証明を出せと言われましても、ね?


「文字が書けません。というか読めません。それと身分証明もありません。

 代理記入と身分証明書の発行をお願いできますか?」


「身分証明すらない癖によく騒ぎを起こそうと思ったな!?

 ……ったく。わかった。代わりに書いてやるから渡した紙をよこせ」


 仮想世界の文字は現実世界のどの文字とも違うようです。

 店の看板とか全然読むことが出来ませんでした。

 これは何処かで文字を勉強する必要がありそうです。

 渡された紙を返し、必要事項を記入して貰います。


「シャーリィ。吸血種族。職業はなし。と――

 ……身分証の作成には1000Gが必要だ。金は持っているか?」


「持っています。今渡した方がよろしいですか?」


「あー、ここで作れるのは一時滞在の為の仮の身分証明だけだ。

 本格的な身分証明を作成するなら職業ギルドに行く必要がある」


「職業ギルドですか」


 職業ギルドに所属することで職業を得ることが出来るそうです。

 有名処では<騎士団ギルド><商人ギルド><採掘ギルド><伐採ギルド><彫金ギルド><錬金術ギルド><盗賊ギルド><魔法ギルド><冒険者ギルド><料理ギルド><建築ギルド><木工ギルド>の12のギルドがあり、この他にも大小様々な規模のギルドがあるそうです。

 職業の数だけギルドがあると言っても良さそうですね。


「うーん。所属するなら冒険者ギルドでしょうか」


「冒険者ギルドか…職業ギルドと言ってはいるが、実質ならず者の寄り合い所だぞ? あんたみたいなのが行くのはオススメしないが…」


「襲ってきたら正当防衛ということで血を吸ってもいいのでしょうか」


「そういや吸血種族だったな。そういう心配は無用か。

 あー。確か冒険者同士の揉め事は自己責任だったな。

 ……まあ、程々にしておけよ」


「善処します」


 玉虫色の発言でお茶を濁します。

 こういうのはその時にならないとどうなるかわかりませんからね。

 それにしても――


「警備隊詰所と言うわりには人が少なくないですか?」


「あ? あー。ちっとばかり厄介なことになっていてな。

 今動ける奴は全員出払っているんだよ」


「厄介なこと?」


「<星の旅人>って連中が街中で問題を起こして、その対応に追われてる。

 教会の神託によれば、天上世界の神様ってことだが……

 はあ、はた迷惑な神様も居たもんだぜ。あんたもそう思わないか?」


「疫病神という奴ですね」


「……ああ、まったくだな」


 そんなに見つめられると照れてしまいますよ?

 半眼なのが頂けませんが、実戦で鍛えられた逞しい肉体の男性に凝視されるのは悪い気分ではありません。よくよく見れば丹精な顔立ちをしていますね。無精髭がワイルドな雰囲気を醸し出していて、私好みです。やはり男は筋肉と髭ですね。

 ただし、見せ筋、テメェはダメです。

 警備隊という役職だからでしょう。身体は鎧に隠れて見えませんが、鎧に覆われていない部分を見る限り、全身バランス良く鍛え上げられているのがわかります。

 ああ、どうかその鎧を脱いでくれないでしょうか。

 脱いで頂ければ、その肉体を余すことなく堪能することが出来るのですが――


【透視Lv1】を獲得しました。


「…………!?」


「ど、どうした!? いきなり立ち上がって!?」


 急にスキル獲得アナウンスが流れたので、思わず立ち上がってしまいました。

 欲望のままに凝視し続けていたら、どうやら新しいスキルを入手してしまったようです。【透視】です。鎧の下を見たいと願ったが為に、このようなスキルを覚えたのでしょうか。

 あれだけの痛みに耐え続けて、ようやく耐性スキルを入手した身としては、あっさりし過ぎていてなんだか胸の奥がもにょもにょした感じがします。

 もしかすると【黄金神眼】を所持していることで、視界系スキルの習得に見えない補正が掛かっているのかも知れません。


「……なんでもありません。急に立ち上がりたくなるお年頃なのです」


「急に立ち上がったり、落ち着きがないのは分別のない小さな子供だけだぞ」


 素で返されました。

 というか誰がお子様ですか、失礼な人ですね。

 こほん、と咳払いをして椅子に座り直します。


「奇行は程々にしておけよ。それじゃ一息着いた所で行くか」


「行く? 一緒に行くのですか?」


「ああ? 俺も行くに決まっているだろう。

 まだ処理は終わっていないからな。

 冒険者ギルドで身分証を発行して貰うにしても俺の監視の元で、だ」


 おおう。言われてみれば確かにそうですね。

 普通に一人で行くつもりになっていました。

 騒ぎを起こした軽犯罪者を監視もなしに解き放つのは普通しませんよね。

 しかし、耐性を付けられることが判明した以上、同じことを繰り返す必要があるのですが、その度に捕まるのはあれですし、どうしたものでしょうかね。


「うーん。日光浴がダメとなると耐性スキルをあげるのが難しくなりますね。

 何かいい案とかありますか?」


「場所を考えろ、場所を。スキルを成長させたいなら訓練所へ行け。

 確か1時間50Gで施設を借りることが出来たはずだ。

 運営は騎士団ギルドだから、問題を起こせば俺達警備隊に捕まった時みたいに軽い処理じゃ済まないけどな。あの連中、加減を知らねえから」


 警備隊は地元の民間人による非公式の治安維持組織で、騎士団ギルドは王国の公式の治安維持組織だそうです。

 警備隊は街のローカルルールを優先。騎士団は王国のルールを優先して事に当たるそうで、もし私が騎士団ギルドの人に捕まっていた場合、身分証がないことによる罰金。騒ぎを起こしたことによる罰金。そして数日間の奉仕活動をすることになっていたそうです。


「あら? そうなると職業ギルドの選択で騎士団ギルドを選んでいたら……」


「そのまま引き渡すことになっていただろうな」


 おおう。危ない所だったようです。

 騎士団ギルドには近づかないようにしましょう。

 あー。でも訓練所は騎士団ギルドが運営しているのでした。どうしましょう。


「そんなに恐れなくてもこっちで処理をしたなら、あいつらも文句は言わんさ。

 騎士団ギルドの連中は頭が固いが、その分規律を護るからな。

 警備隊の方で処理が終わっているのに、騎士団ギルドで再び処理するとか、あいつら自身が許さないだろう」


 鎧姿の男性は立ち上がり、外出の準備を始めました。

 雑談はこれまでのようですね。

 私も壁に立て掛けておいた日傘を手に取ります。

 そうだ。出掛ける前に先程覚えたスキルの確認をしておきましょう。



【透視Lv1】

 分類 解析/活性

 射程 対象/視界

 効果 視界内にいる対象を一人選択して発動する。

    装備がない状態での対象と自分との戦力差を色で判別することができる。


    自分より強い場合 赤

    自分と同格の場合 黄

    自分より弱い場合 青



 違う。そうじゃない……!


 【透視】は装備無しの状態での彼我の戦力差を見ることが出来るスキルだったようです。どんなに強い装備をしていても、中身の本当の強さはバレバレだぞ。というスキルですね。予想とは違った効果に、がっくりと肩を落としたのを鎧の男性に訝しそうに見られながら、私は警備隊詰所を後にすることになったのでした。


シャーリィさんの好みはワイルド系。



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