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Star Gate Online ~妹は姉の作ったVRゲームで『裏の世界』の仲間達と一緒に遊ぶようです~  作者: 如月ひのき
第三章 イベントフラグを潰すのはβテスターとしてはダメですが、暴走する姉を諌める妹としては正解ですよね。
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妹、古い洋館を探索する。 その2

ボス(推定)へ突撃するシャーリィさんとユピテルさん。

 それはさながら室内で巻き起こされるハリケーンというべきでしょうか。様々な調度品が浅黒い肌をした森精種族の半透明な少女を中心に渦巻いています。


【黄金神眼】に登録した【鑑定】で確認すると、<拒絶の記憶のクコロ>と名前が表示されます。

 拒絶ですか。ああ、なるほど。確かに癇癪を起した子供が「こっちにこないで」と、物を投げつけるのと似ていますね。

 いえ、実際そうなのでしょう。「こないで、こないで、こっちにこないで、私を一人にしておいて」と、声は聞こえずともその瞳は口よりも雄弁に、拒絶の意思を含ませています。


 現在、【黄金神眼】に登録しているスキルは【鑑定】と【透視】と【弱点看破】になります。通常の活性スキル枠には【暗視】とクランディルスの街を出る前に依頼の前金で購入した【罠視】を登録しています。完全に解析特化構成ですね。


 ちなみに購入した【罠視】の内容ですがこうなっていました。



 【罠視Lv1】

 分類 解析/活性

 射程 対象/視界

 効果 視界内に存在する罠を発見することが出来る。



 どうやらこのスキル。Lv1の時点でスキルの効果としては既に完成しているようです。【黄金神眼】に登録しても、数字がLv1からLv3になるだけで追加効果が発生することはありません。レベルが上昇して罠解除とかも出来るようになれば、と思っていたのですがそう上手くは行かなかった様です。


 ともあれ、【鑑定】【透視】【弱点看破】【暗視】【罠視】で視た結果ですが、これは――


「……駄目じゃの。砕く端から再生されてしまっておる」


 私が解析を進めている間に、ユピテルさんが雷撃を鞭のように撓らせながら、飛んでくる調度品を打ち払っていました。

 雷撃に撃たれた調度品は砕かれ、粉微塵となりますが、その次の瞬間、新たな調度品が<拒絶の記憶のクコロ>の側に出現します。攻撃手段を奪うことは難しいようですね。


「……やはり、こちらの攻撃は通じませんか」


 解析結果で気になったことがあったので、ユピテルさんに頼んで援護を貰いながら<拒絶の記憶のクコロ>に接近、直接日傘で殴りつけてみましたが、日傘は空を切るばかりで全く手応えを得ることが出来ませんでした。予想通りの結果ですが、この予想は外れて欲しかったです。


 先程、私が視た解析結果ですが、それは散々たる有様でした。



【鑑定】――<拒絶の記憶のクコロ>とだけ出ています。種族とかは視えません。


【透視】――彼我の強弱を示すオーラの色が視えません。バフを使っている様子も視えません。体力、魔力ゲージも視えません。


【弱点看破】――弱点が視えません。どうやら弱点が存在しないようです。


【罠視】――罠を発見することが出来ません。これ自体が罠というわけではないようです。


【暗視】――光源が足りているので意味がないですね。



 結局の所、解析結果としては、【鑑定】で名前が<拒絶の記憶のクコロ>だと、わかった以上の収穫はありませんでした。いえ、どういう相手かというのがわかっただけでも収穫というべきですか。


 おそらくですが<拒絶の記憶のクコロ>は実体として存在していないのでしょう。実体が存在しないということは、つまり物理的な影響に対して無敵ということです。『あたり判定』が存在しない。とても厄介な相手です。


 私の日傘も、ユピテルさんの雷撃も、物理的な攻撃である以上、実体の存在しない<拒絶の記憶のクコロ>に触れる事すら敵わず、逆にあちらから放たれる調度品による癇癪攻撃は際限なく行われ回避を余儀なくされています。


 こちらの攻撃は全く通じず、相手の武器を砕いてもすぐに再生されてしまう。


 このまま相手の武器である調度品を落とし続けていても、無駄に疲労が溜まっていくだけでしょう。私は隣で戦っているユピテルさんに声をかけます。


「一度引きましょう。今の私達ではあれは倒せないみたいです」


「ん……了解じゃ。ならば最後に少しばかり大きいのを行くぞ」


 言うが早いかユピテルさんがその手から巨大なプラズマを解き放ちます。

 プラズマに穿たれ、砕けるのではなく蒸発していく調度品の数々。圧倒的な熱量と威力。それでも実体を持たない<拒絶の記憶のクコロ>には傷一つ付けることが出来ません。


「今のうちじゃ、扉まで走るぞ」


 蒸発したはずの調度品が<拒絶と記憶のクコロ>の周囲で再生していきます。

 砕けても、蒸発してさえも再生する。それは確かに脅威ですが、再生する場所が『<拒絶の記憶のクコロ>の周囲』と決まっているならば、一度砕いてしまえば、再生して次に放たれるまでに距離が出来ます。ユピテルさんはそれを狙ったのでしょう。私はユピテルさんの言葉に頷くと、踵を返して背後の扉に向かって駆け出します。





 部屋を出て相手が追ってこないのを確認した私達はその身を壁に預けて座り込みます。

 おそらく<拒絶と記憶のクコロ>は、部屋に入った相手を敵認定されて攻撃してくるのでしょう。

 来るものは拒み、去る者は追わず、と言った所でしょうか。


「かーっ、癇癪を起した子供は強いのぅ」


 かんらかんらとユピテルさんが笑います。

 強いとか弱いとかそういう問題ではないと思いますが。


「強いというか理不尽な相手ですね。硬い相手ならまだやりようはあったのですが、まったくこちらの攻撃が通じないとどうしようもありません」


「そうじゃのぅ、考えられるとすれば、倒す為に必要なスキルが足りていないか、倒す為に必要なフラグが足りていないか、そもそも倒すべき相手ではないか……かの?」


 確かに実体の存在しない相手に攻撃が通じるようになるスキルがあれば便利ですが、そういったスキルの手掛かりすらない現状、それを身に付けることは諦めた方がいいでしょう。

 そうなると、これから私達がやるべきことは倒す為に必要なフラグ探しか、倒すべき相手かどうかの確認――つまり、行ってない場所の探索ですね。


「そういうことなら反対側に行ってみましょう。

 何か手掛かりが見つかるかも知れません」


「んむ。ボスを倒す前にまずは探索というのはセオリーじゃな」


 方針が決まった私達は廊下を戻り、反対側の部屋へと向かいます。

 行きの道中であれだけ現れていた調度品の魔物は出現しませんでした。

 どうやら、あれらは一度倒せば次は出てこないようです。


「再生していないということは、再生には何か条件があるのでしょうか」


「アレが認識しているものしか再生しないか、そもそも別口かも知れんの」


「別口ですか?」


「アレの力の余波で魔物化しただけで実質無関係とかの。

 なんにせよ、楽なのはいいことじゃ」


「経験稼ぎとしては微妙ですけどね」


 敵が出てこないので、暇ですね。

 雑談をしながら歩いていますが、互いに出会ったばかりなので当たり障りのない会話ばかりです。私もそうですが、ユピテルさんも隠していることがあるみたいですし、自然とそうなるのは仕方のないことなのでしょう。


 いやまあ、何と言いますか……

 ユピテルさん。ほぼ間違いなく『裏の世界』の住人ですね。

 雷撃を操っていましたが、ゲームのスキルにしては熟練度が高過ぎます。

 まるで現実世界でも同様に雷撃を操っていたかのように経験豊富な動きでした。そうでなくとも身体能力が一般人のそれではありません。

 バフが付いていればまだわかるのですが、【透視】で視た結果はバフなし。

 『裏の世界』の雷撃使い。私は聞いたことがありませんが、姉の関係者なのでしょうか。

 『アリア』という名前のユピテルさんの仲間も、名前が似ている所為で姉なのかも、と疑ってしまいます。


 とは言え、仮にそうだとしても今は『偶然出会ったプレイヤー同士』ということでパーティを組んでいる状況。互いに何も言わない以上、いちいち詮索するのは野暮というものです。

 私は胸の奥に浮かんだ小さな疑惑を心の片隅に仕舞いこみ、この屋敷の攻略に集中することにしたのでした。

ボス(推定)戦の前にダンジョン内の探索をするのは基本。


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