妹、単独行動を提案する。
1/5に投稿の予定が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
次の話から投稿間隔は一週間に2、3回を目安にした不定期更新となります。
これは俗にいうリドルというものですね。
絵本の内容からヒントを探して、探し出したヒントを基点に情報収集をして、解決に近づいていくRPGでは定番のイベントです。
何度か絵本を読み直してみた限りですと、違和感があるのは『その後、ディルスの街は悲しみに包まれました』の部分でしょうか。
流れからすると、勇者オクがクコロと街を出て行ったことで、街が悲しみに包まれたように読めますが、わざわざ『その後』と書かれているのが気になります。
おそらくですが、『勇者オクとクコロが街を出て行ったこと』と『街が悲しみに包まれたこと』の2つは連続した出来事というわけではないのでしょう。
勇者オクとクコロが街を出て行った。
その後、街に『何か』があって、街が悲しみに包まれた。
『何か』が起こったのは、街が悲しみに包まれたのは、勇者オクがいなかったから、そう考えた街の人達が勇者オクを連れだしたクコロを魔女と呼び、彼女と同じ種族の森精種族に怒りと憎悪を向けるようになった――
こんなところでしょうか。考えをまとめた私は他の皆にそれを伝えます。
「――ということで、勇者オクとクコロが去った後に街で起こったであろう『何か』を調べるべきだと思うのです」
「二人が街を出て行った後に起こった『何か』かー」
「その『何か』が起こったから、森精種族がここまで街の人達に恨まれることになった――もしかすると、その街に悲しみをもたらした『何か』は森精種族が原因かも知れませんわね」
「どういうこと?」
仮定を多分に含んだ、推理とも言えない穴だらけの考察ですが、それでも考えのとっかかりにはなるようです。
セラがふと呟いた言葉にシオリが首を傾げます。
「いえ、クコロがどうしてディルスの街にやってきたのか、それを考えてみましたの。
偶然迷い込んだのかも知れない、けれどもしも、何か目的があってディルスの街にやってきたのだとしたら……例えば、森精種族による街への襲撃、その為の偵察とか……」
「偵察に来たクコロが、たまたま、もしくは狙って出会った勇者オクを籠絡して、街から連れ出して、その間に――ってこと?」
「ええ。もしそうなら、森精種族全体が恨まれるのもわからないでもありません」
可能性としてはありえますね。
セラの推理どおりなら、森精種族という種そのものが恨まれている理由にも納得がいきます。
少なくとも、勇者オクを連れだしたクコロと同じ種族だから、という理由よりは遥かにありえる話でしょう。
「そうなると、調べるべきは『勇者オクがクコロと街を出た後に、何が起こったのか』そして『クコロという森精種族の少女が街に何をしにやってきたのか』ですかね」
「そうだねー。後者の方はその『何か』が本当にあったかどうか、ちゃんと調べてからの方がいいかも。下手したら無駄足になっちゃう」
「そうですわね。私の考えはあくまで街が悲しみに包まれることになった『何か』があったのだというシャーリィの考察を前提としていますわ。それが覆された場合、破綻いたしますもの」
話がまとまった所で調査に動き出そうとする皆を、私は引き留める為の声を掛けます。
「待ってください。今回は私だけで調べてきますので、皆はここで休んでいてください」
「シャーリィ? 一人でいい所を持っていく気かな?」
「自分の種族の関わることなのですから、私も調査に加わりたいですわ。
どうして一人で調査しようなんて言いますの?」
「私だけが調査に行く理由は情報の信頼度の問題です。
シオリとピーグさんは街の人達から異様に好かれている獣人種族で、セラは街の人から異様に嫌われている森精種族です。好かれている、嫌われているという違いはありますが、どちらにしても感情に大きく引っ張られる可能性があります。そんな状態の街の人から、まともな情報が手に入れられるとは思えません」
好きな獣人種族に良く見せたいから、ないことをあるように言ったり、小さなことを大げさに言ったり、嫌いな森精種族を困らせたいから、大事なことを話さなかったり、嘘を混ぜ込んだことを言ったり、そもそも本当のことを話さなかったり、そういう懸念があることを二人に伝えます。
「私は吸血種族ですから街の人も余計な感情に振り回されないで済むでしょう。
というかシオリ達は帰ってきたばかりですし、心身共に参っているセラを歩き回らせるわけにはいきません」
「私はまだ元気なんだけどなー」
「私も大丈夫ですわ」
「シオリは私と朝まで見張りをして、それからすぐにピーグさん達と調査に行って帰ってきたのでしょう? 結構な疲れが溜まっているはずです。セラは頭の花が少ししんなりしていますよ。隠しても見え見えですよ」
私が指摘するとシオリとセラは渋々とですが、納得してくれました。
ピーグさんとセフィロトに二人を任せて私はその場を離れます。
しばらく歩き、テントの方からこちらが見えなくなった頃合いにほっと息を尽きます。
「どうにか、一人になることが出来ましたね」
獣人種族の好感度の高さや、森精種族の好感度の低さによって、街の人からの情報収集に支障が出ると考えたのは嘘ではありません。
シオリは少し休んだ方がいいと考えたのも、セラが心身共に参っているように見えたのも嘘ではありません。
ただ、それとは別に私は一人で調査に向かう必要がありました。
「やはり、この街を包んでいる感情は彼の纏っていたものに違いなさそうですね」
ディルスの街を取り巻く異様な空気。
普段は何ごともない普通の街なのに、獣人種族と森精種族を前にすると豹変する街の人々。
獣人種族には惜しみない愛情と慈しみを。
森精種族には限りない怒りと憎悪を。
ディルスの街を歩く。買い物でしょうか。先日宿泊を断られた宿屋の女将がいます。
最初に私が部屋の確認をした時はあると言って、セラが顔を出した時に満員だと言い、そしてシオリやピーグさんを見たとたん、なんとしてでも泊めようと自分の宿屋の素晴らしさを語り出した女性。好き嫌いがはっきりし過ぎていて、あまりにも異様な光景でした。
彼女だけなら個人的な性格の問題で済ませられましたが、巡った宿屋、出会った人々、総てが同じような行動をしている異常事態です。そこにこの覚えのある感覚。これは街の人々がこうなっている元凶が彼であると確信してもいいのではないでしょうか。
「本来ならちゃんとリドルを丁寧に説いていくべきなのでしょうけど、原因がわかっているのなら、それを潰した方が早いですよね」
最初は真面目に解こうとも考えましたが、ここまではっきりと彼の気配を感じてしまっている以上、少しくらい途中経過を飛ばしても構わないでしょう。
私は街を歩き続けます。街を取り巻く怒りと憎悪の感情、その中心を探しながら、大通り、路地裏、店内、屋根の上、至る所を廻りながら、私は彼を、怒りと憎悪を振り撒いている<ハティ>を探し続けてディルスの街の中を歩き続けます。
クランディルス草原にいたはずの彼がどうしてここにいるのかはわかりません。
私が能力を使ってシオリの身体から追い出した所為なのでしょうか。
もしそうなら、私が責任を取って彼との決着を付けるべきでしょう。シオリとセラの力を借りるわけにはいきません。
そうでなくとも、シオリはまた取り憑かれる可能性がありますし、あの状態のセラを戦わせるわけにはいきません。
特にセラは追い詰められ過ぎると――
「……ここですか」
怒りと憎悪の中心を探してディルスの街を歩き回り、最後に辿り着いたのは街の一画にひっそりと建っていた古びた崩れかけの洋館でした。くすんだ灰色をした石造りのその建物から漂う黒い感情を身に受けながら、私はその敷地内に足を踏み入れたのでした。
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