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Star Gate Online ~妹は姉の作ったVRゲームで『裏の世界』の仲間達と一緒に遊ぶようです~  作者: 如月ひのき
第一章 姉のことは信じていますが、信じているが故に、疑ってしまうのです。
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妹、日光浴をする。

ブックマークをしてくださった方、閲覧してくださった方、ありがとうございます。

とても励みになっております。期待に添えるように頑張って更新を続けます。

「日傘の準備をしておいて正解でしたね」


 扉を抜けた先は屋外にある遺跡らしき場所でした。

 どうやら<隠れ家>の扉から、丘の上に円形状になるように石が積み上げられた空間――俗にいう環状列石の中心に転移したようです。

 おそらくこの場所がゲームの初期地点ということなのでしょう。

 遺跡の周囲にはまばらに木々が生えていて、風が吹く度に自然の香りが鼻孔を擽ります。仮想世界とは思えないこの現実感と臨場感は<SGO>が『完全フルダイブ式VRゲーム』だからこそ、でしょう。

 筒状の装置に入れた肉体を生体データに変換し、電脳世界に送り込み、そこの住人として再構成する完全フルダイブ式VRゲームは、まさしくゲームの世界に入り込めるゲームと言えます。

 木々の間から見える視界の先に人々が行き交う街道が見えたので、まずはそちらに向かうことにします。


 ……と、ふと手に何か小さなアイテムを握っていることに気付きます。

 手を広げてみれば、小さな鍵を握りしめていたようです。

 いつのまに、ともあれ確認してみますか。



『星の鍵』

重量1 レア度☆☆☆☆☆☆☆ 売却不可

 使用することで<流星の扉>を開き、<隠れ家>への移動を行うことが出来る。

 <星の扉>がある場所で使用することで<星の扉>を開き、<天上世界>への帰還を行うことが出来る。



 どうやらログアウト用のアイテムみたいですね。

 <天上世界>ですが、ぶっちゃけますと現実世界のことです。

 <SGO>の設定ではプレイヤーは天上世界から<星の扉>を通って下層世界に遊びに居ている天上世界の神々ということになっています。

 天上世界から降りてくる際に肉体を下層世界に合わせて変化させているという設定は、そのまま現実世界の肉体を完全フルダイブ装置により、仮想世界の存在に変化させていることと同じなので、違和感なく設定を受け入れることが出来ます。

 『仮想世界と下層世界』というネタをしたかったのでは、という疑念は横に置いておきましょう。


 鍵をアイテム鞄に仕舞い、街道に出れば、そこは想像以上に発展した街並みがありました。街道は歩道と馬車道に分かれており、中央を馬車が、左右の歩道を人が行き交っています。商店街でしょうか。店には様々な商品が並べられ、あちらこちらから活気のある声が聞こえてきます。露店もありますね。


 たくさんの人。人。人。気を抜くとその活気に飲み込まれそうな錯覚さえ覚えます。人と言っても人間種族だけではありません。人間種族が一番多いですが、エルフやドワーフ、このゲームで言えば森精種族や地精種族も居るようです。獣耳が生えているのは獣人種族でしょう。身体をぴっちりとした全身スーツに覆い、身体の一部分が機械になっているのは機人種族ですね。鹿のような角が生えているのは竜人種族でしょうか。様々な種族が街道を行き交う様子はこの街が本当に平和なのだと感じます。


 さて、私の種族である吸血種族は――


「うーん。この時間帯は寝ているのでしょうか」


 他の種族を見かける中、吸血種族らしき種族だけは見かけることが出来ませんでした。たぶん昼は寝ているのでしょうね。種族特性的に本格的に動くのは夜でしょうし、昼に活動していないのも頷けます。

 日傘を差していれば問題ないのですが、ほんの少しでも日傘から出ると焼け付くような痛みが肌を襲います。

 痛みがあっても体力が削れている感覚はしないので、【夜行性】の『太陽の下にいる限り、10秒ごとに体力の1割を失い続ける』というのは日の光を浴びて10秒経つと体力の1割を失い、そこで一度リセットされて、また10秒経つと同じように体力を失うという意味のようです。


 はっ! 熱湯を浴び続けるような痛みに耐え、10秒経つ前に日傘を差すことを繰り返して、耐性を手に入れることで日傘がなくても活動可能に……!?


 いやいやいやいや。落ち着きましょう。

 太陽の下を歩く吸血鬼というのは憧れますが、耐性を取る為に痛みに耐えていたら、耐性の前にドMに目覚めてしまったとか、そんなことになったらシャレになりません。やるにしても、【日照耐性】とか【光属性耐性】とか、それっぽい感じのスキル書を手に入れてからがいいでしょう。


「……でもまあ、腕の1本くらいで練習してみるのも――っぁ!?」


 1秒すら持ちませんでした。熱さに耐えることが出来ず、いーち、と数える「い」の一画めくらいで反射的に手を引っ込めてしまいました。

 熱湯の中に手を突っ込んだような感覚。むしろ煮立った油かも知れません。

 そういえば天下の大泥棒は煮立った油で処刑されたのでしたっけ。

 私は大泥棒ではないですし、焼かれて喜ぶドMではありません。

 ゆえに続ける理由はないのですが――


「せめて1秒、いえ5秒は耐えないとなんだか負けた気がします」


 私は油で釜茹でにされた大泥棒ではありません。

 私は焼かれて喜ぶドMではありません。

 だがしかし、私は負けず嫌いなのです。


 私には姉がいます。

 姉は本物の天才でした。

 いえ、天才というのも過小評価でしょう。

 姉はあらゆる意味で次元が違っていました。

 姉は夢物語と言われていた技術を現実のものにしていきました。

 ある学者によれば、この世界の技術は姉の研究成果で1000年は進んだそうです。

 不可能を消しさり、可能を増やし続けることから、姉は<万能の天才>と呼ばれています

 当時10歳にも満たない少女に世界を牛耳っていた人間、『表の世界』の住人でありながら、『裏の世界』とも関わりの深い彼ら――大国の政財界の大物フィクサー、欧州の裏社会を支配している大マフィアのボス、世界有数の資産家等が信奉者になり、『親衛隊』と名乗りをあげたと言えばその異常さがわかるでしょうか。

 一部では姉のことを神として崇拝している人達もいるようです。13歳から老化が完全に止まっている姉を見て、そう思うのもわからなくはないのですけどね。


 半分くらいは間違いでもないみたいですし……


 しかし妹としては、姉が天才だろうが、世界を裏から牛耳る人達が親衛隊になろうが、神として崇拝されようが、そんなことはどうでもいいのです。


 姉がどれ程の才能を持っているかなんて関係ありません。

 身近に優秀な存在が居て、それが実の姉である。

 妹として、優秀な姉を超えたくなるのは当然の感情です。

 <SGO>は姉の作ったゲームです。

 この仮想世界は姉の創造した世界です。

 その世界の太陽に焼けつくような痛みごときで屈服したくありません。

 姉より優秀な妹はいない? いいえ、姉を超えるのは妹の義務なのです……!


「っ……ぁ……くぅ――っ!」


 日傘を閉じ、太陽の光に身を晒すと全身を焼け付くような痛みが襲ってきます。

 先程のような1秒も経たずに屈服するなんて醜態は晒したくありません。

 歯を食いしばり、耐え続けます。

 耐えて。耐えて。耐えて。耐えて――

 

「おい! あんた何やってんだ!? 身体から煙が出ているぞ!?」


 私の様子に気付いた人が声を掛けてきます。

 声を出す余裕がなく。やめる理由もないので、その声は無視することにします。


「く……ぁ……っ……」


 突然、身体から何かがごっそり抜けおちたような感覚を覚えました。

 10秒過ぎて体力が1割削られたのでしょう。

 まだ大丈夫です。まだ9割の体力が残っています。

 1割を残すとしても、後80秒分の余裕があります。


 熱い。まるで血が沸騰しているような感覚です。

 実際に沸騰しているのかも知れません。

 20秒が経過したようです。

 1割の体力が減ります。

 残り8割。

 まだいけます。


 熱い。喉が乾燥し、唇がひび割れていきます。

 30秒が経過したようです。

 1割の体力が減ります。

 残り7割。

 まだいけます。


 熱い。皮膚の下で炎が焚かれ、肉と骨が炙られている錯覚がしてきます。

 40秒が経過したようです。

 1割の体力が減ります。

 残り6割。

 周囲が騒がしくなってきました。

 五月蠅いですね。無視します。

 まだいけます。


 熱い。熱さと痛みだけが脳を支配していきます。

 50秒が経過したようです。

 1割の体力が減ります。

 残り5割。

 遠巻きにこちらを見ている人達が大勢います。

 何かを言っているようですが、無視します。

 まだいけます。


 熱い。熱い。熱い。熱い。意地だけが私をこの場に立たせています。

 60秒が経過したようです。

 1割の体力が減ります。

 残り4割。

 鎧を着こんだ男性が騒ぎを聞きつけてやってきました。

 何か言ってきていますね。

 どうやら私に行いをやめるように説得をしているようです。

 やめるつもりはないので無視します。

 まだいけ――。


【苦痛耐性】を獲得しました。

【光属性耐性(小)】を獲得しました。


 ……おや。耐性スキルを獲得したようですね。

 60秒ですから1分耐えるのが条件ですか。

 ひとまず耐性が取れたので日傘を差し直します。

 日傘を差して太陽の光を遮断すると身体を襲っていた痛みが消えて行きます。

 少しばかり危なかったかもですね。



【苦痛耐性】

分類 耐性/常時

射程 自分/自分

効果 痛みによる身体動作への影響を軽減する。


【光属性耐性(小)】

分類 耐性/常時

射程 自分/自分

効果 光属性による自分への影響を少し軽減する。



 【苦痛耐性】は痛みの影響を減らすスキルのようです。

 痛みがあるといつも通りに動けなくなりますからね。

 かなり使い勝手のいいスキルでしょう。


 【光属性耐性(小)】は光属性の影響を少し減らすスキルのようです。

 太陽の光は光属性みたいですね。

 (小)ということなので(中)や(大)もありそうです。

 60秒で(小)ですから、それ以上を取るには回復アイテムが必須でしょう。

 しばらくはお預けですね。

 文章を見る限り、光属性に関するあらゆる事象を軽減するので、有用な影響も軽減してしまいそうなのがネックですが、そこは諦めるしかないでしょう。


「なかなかいいスキルが取得できました」


 いつもの悪い癖が発動してしまって、ついやってしまいましたが、耐性スキルが習得できたので良しとしましょう。

 満足気にその場を立ち去ろうとすると、なにやら肩に感触が。どうやら、背後から肩を掴まれているようです。

 ぐるりと首を回し振り向けば、そこには先程から私に声をかけていた鎧を着た男性が、こめかみに青筋を立てながら、引きつった笑みを浮かべていました。


「それはよかったな。それじゃ、ちょっと警備隊詰所まで来て貰おうか」


 笑顔とは本来……というヤツですね。

 おおう。どうやら少しばかり騒がしくし過ぎてしまったようです。


日光浴という名の公開自殺未遂。



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