妹、見張りをする。
ディルスの街の特徴と夜会話っぽいもの。
週間VRゲームランキング(18/12/30朝更新)にて97位になりました。
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夜も更け、ほとんどのお店が閉まり、人通りもまばらになった時間帯、未だ泊まる宿屋を見つけられず、私達はディルスの街の中を彷徨っています。
「はぁ……ひどい差別ですわ」
セラが肩を落として大きなため息を付いています。
彼女が意気消沈しているのは単純な理由で、自分が宿屋に泊れない原因であるから。
どうやら、このディルスの街では森精種族は忌み嫌われている存在みたいです。
私やシオリ、ピーグさんが部屋が空いているか確認をして、部屋が空いていると言われても、セラが顔を出した途端に満員とされてしまいます。
文句をいくら言っても取り合ってくれません。
セラ以外は泊めてくれるみたいですが、友人を置いて自分達だけ泊まるなんて出来ません。
そんなこんなで全員を泊めてくれる宿屋を探して数時間、今に至るというわけです。
「私とかピーグが顔を出すと大歓迎されるんだけどねー」
「マイハニーが歓迎されないなら、いらない歓迎さ」
「ディルスの街の人達は森精種族を忌み嫌い、獣人種族を歓迎する人達なのはわかりましたが、あまりにも露骨過ぎますね」
これは街ぐるみでそれが当然の行為と、まかり通っていなければ、こうはなりません。
依頼の為に立ち寄っただけの街でしたが、正直少し嫌いになってきました。
少なくとも、好きになれる街ではありません。
「私に構わず、皆様は泊まっていいんですのよ?」
「マイハニーを一人にさせるなんて、ピーグの男が廃るぜぃ」
「友人を一人置いて、自分だけ暖かい布団で眠るのはねー」
「そういうことです。今日はもう仕方ありませんから街の外れで野宿をしましょう。
私が見張りをしますので、皆は休んでいてください」
「うぅ……皆さん、ありがとうございますわ」
「もう、泣かないの。いい友人を持ったわね」
感極まった涙を零すセラをセフィロトが介抱しています。
ふふ、泣き虫な所があるのは昔から変わらないですね。
セラを落ち着かせながら、街を歩き、街の外れについた私達は、そこでテントを張ることにしました。
『旅人セット』から簡易テントを取り出し設置していきます。
ここに来るまでに何回か使ったので、作業は手慣れています。
瞬く間に小さな寝床が完成しました。
御者をしていたセラとピーグさんを先に休ませ、手近な石に腰を降ろします。
空を見上げれば大きな月。
ぱちぱちと、燃え盛る焚火の音を聞いていると、隣にシオリが座ってきました。
「眠らないのですか?」
「いやー。流石にカップルの寝床に入るのはねー。
それに狼は夜行性だし?」
「シオリは狼というわけじゃないでしょうに」
苦笑しながら、紅茶を淹れてシオリに手渡します。
野盗が持っていたものですが、なかなかいい味で気に入っています。
金属製のカップをシオリが受け取ったので、私も自分の紅茶を淹れます。
この辺りは温暖ですが、夜はやはり冷えます。
熱い紅茶が身体を温めていきます。
私の場合、満腹度は回復しませんけどね。
「こうしていると昔を思い出しますね」
「そうだねー。初めて会ったのは加々美さんの研究室だっけ?」
「ですね。姉と一緒にお邪魔したのが最初だったと思います」
どうしてあの時、姉が私を研究室に連れて行ったのかはわかりません。
シオリと――四条織莉恵と私を出会わせる為だったのでしょうか。
当時の織莉恵は特殊な装置を使わなければ、存在を確認することが出来ませんでした。
そんな織莉恵を私は見て、その言葉を聞くことが出来ました。
それに気付いていたから私を織莉恵に出会わせたのか、ただの偶然だったのか。
当時の姉の考えはわかりません。
わかりませんが、ただ――
「私はシオリ――四条織莉恵。貴女に出会えて良かったと、心からそう思います」
当時の私は自分を見失っていました。
<万能の天才>と謳われ始めていた姉。
姉の下に集い始める姉の信奉者達。
自分一人が置いていかれる感覚。
遠く離れていく姉の背の幻影を見ながら、孤独に震えていた。
私を見て、私を見て、私はここにいる、と心の中で叫び続けていた。
姉に追い付こうと、姉の道程を追うように、色々なことに手を出して、けれど追い付けず。
空回りする日々、そんな日々の中で、私は織莉恵と出会った。
「私は織莉恵、貴女と出会って救われました。
本当に、感謝しているのですよ」
孤独の中で出会った初めての友人。
私は織莉恵と出会うことで救われた。
その後セラと――セフィリアと出会い、私の時間は動き始めた。
姉の背を追いかけるだけではなく、姉を超えたいと。
水城リアの妹という付属品ではなく、水城シャーロットという個人だと。
強く、強く、願うようになった。
私は今も心の中で叫び続けている。
私は、水城シャーロットはここにいると――
「急に、何? 改まって……もう、恥ずかしいことを言うのは禁止だよ!」
「そんなに大声を出すと、皆が起きてしまいますよ」
「誰のせいだと思って……もう……」
シオリが顔を背け、誤魔化す様に紅茶を飲んでいます。
その尻尾がぶんぶんと振られています。
顔隠して、尻尾隠さず、と言った所でしょうか。
それにしても、会話の流れや場の雰囲気に流されたとは言え、今まで心に秘めていたことを吐露してしまうなんて――
「月と紅茶に酔ってしまいましたかね」
私の小さな呟きが空に溶けていきます。
その後は特に何事もなく、私とシオリは明け方に皆が起きてくるまで、軽い雑談をしながら、見張りを続けたのでした。
襲撃を入れようかとも考えましたが、蛇足になるので没にしました。
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