妹、野盗を撃退する。
体調が持ち直してきたので文字数も通常に戻っています。
週間VRゲームランキング(18/12/28朝更新)にて75位になりました。
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がたり、ごとり。がたり、ごとり。
街から街を繋ぐ街道の石畳の上を幌馬車が進みます。
まったりとした、長閑な時間。幌馬車の幌の上に座り、前から後ろへ穏やかに流れゆく景色を眺めていれば、時間の流れが緩やかになったような錯覚を覚えます。
クランディルスの街から、目的地であるディルスの森の奥地までは、まずは馬車に乗ってディルスの街まで行き、そこから徒歩でディルスの森へ向かう予定となっています。
アルフォンスさんが用意してくれた馬車で、クランディルスの街を旅立ってから3日が経ちました。
次の休憩地点で一夜を明かし、何事もなければ、明日の昼頃にはディルスの街に到着するでしょう。
現在、幌馬車にいるのは5人。
私とシオリとセラ、セラの限定特典である【緑命神樹】の妖精セフィロト。
そして――
「今日のピーグの手綱捌きもご機嫌だぜ! イヤッフゥー!」
セラの恋人である豚の半獣人のピーグさん。
ピーグさんは本来クランディルスの街のアルフォンスさんの屋敷で留守番の予定だったのですが、セラのことが心配だったらしく、隠れて付いてきてしまったようです。
ピーグさんが幌馬車に潜り込んでいたのに気付いたのが最初の日の夜のこと。
一人で返すわけにもいかず、こうして旅の仲間が増えたというわけです。
「流石ですわ。ピーグ! かっこいいですわ!」
「ははっ! そう褒めるなよマイハニー。身体がピンクになっちまうぜ!」
「ふふふ。ピーグは冗談もお上手ですわ」
ここからは見えませんが、ピーグさんの横でセラが幸せそうに微笑んでいる声が聞こえます。
緑色の髪をポニーテールにまとめ、頭に白い花をコサージュのように咲かせている森精種族の少女と、二足歩行のピンク色の子豚がいちゃいちゃしている声を聞きながら、進行方向を眺めれば、どうやら馬車が一台、こちらへ凄い速度で向かってきているのが見えました。
どうやら野盗に追われているようですね。御者台にいる二人に声をかけます。
「前から馬車が高速でこちらに向かってきています!
野盗に追われているみたいなので注意してください!」
「オーケー! マイハニーフレンズ!」
「野盗ですの? 私とピーグの幸せな時間を邪魔するなんて、万死に値しますわ」
世界最高峰の殺し屋に万死に値すると言われるとか、相手に同情してしまいますね。
ピーグさんが幌馬車を街道の脇にある避難場所に移動させて止めます。
街道には馬車と馬車が正面からかち合った時の為に、退避する為の避難所が設置されています。
「ふぁ……もう到着したの?」
幌馬車の中からシオリが顔を覗かせます。
眠っていたのか、小さく欠伸をしていますね。
私は幌馬車の上から地面に飛び降りると、馬車が泊まった理由を伝えます。
「野盗に追われた馬車が凄い速度でこちらに向かってきています。
馬車が止まったのは到着したわけではなく、正面衝突回避に避難場所に停止しただけですね」
「状況はわかったけど、どうするの?」
「野盗を迎撃します。ディルスの街へ向かうのに邪魔ですからね。
セラもピーグさんとの時間を邪魔されてご立腹のようですし、迎撃するつもりみたいですね」
「そこで迎撃がすぐに出てくるとか、アグレッシブだねー」
「シオリはいつものように馬車の護衛をお願いします」
「りょーかい。身体を張って護るよ」
ここまでの道程で何度か野盗や魔物に襲われていることもあって、ある程度の動きは既に決まっています。
私とセラとセフィロトが迎撃して、シオリがピーグさんと馬車の護衛をする形です。
この世界は姉の創造したVRゲームの世界ですが、あまりにも現実的過ぎる世界でもあります。
ここまで現実に近いと、現実と同じような影響が出ると考えた方がいいでしょう。
野盗が初めて出た時は、人間相手ということもあり、シオリの様子が気になりましたが、そこは元『表の世界』の人間とはいえ、『裏の世界』に自ら飛び込んできたシオリです。
人が友人に殺されていくのを見ても特に動揺することはありませんでした。
セラはそんなシオリを見て「才能がありますわね」と言っていましたね。
私が思うに、シオリはある意味、何処か壊れているのでしょう。
それ故に『表の世界』で生きられず、『裏の世界』に飛び込んできたのでは、と私は考えています。
「そろそろ来るわよ!」
上空で様子を伺っていたセフィロトが叫びます。
見れば、土煙をあげて街道をこちらに向かって爆進する馬車を確認出来ます。
その後ろからは付かず、離れず追っている馬に乗った5人の野盗の姿。
その気になれば追い付けるというのに、あえて距離を取っているのは相手を嬲っているのでしょうか。
どうやら野盗の頭目は性格の悪い人物のようですね。
追われている馬車の御者が私達を見て、驚いた顔をしていましたが、ここで馬車を止めるわけには行かなかったのでしょう。
女子供を巻き込んだことに気を病んだのか、苦しそうな顔をして、そのまま通り過ぎていきます。
どうやら、あの御者の人はいい人のようですね。
そのまま彼らを追っている野盗も私達の横を通り過ぎようとしたのですが――
「ここは通行止めですわ」
セラが彼らを塞ぐように彼らの前に躍り出ます。
馬車を追って、駆けている馬の前に飛び出せば、本来なら轢かれてしまうでしょう。
しかし、そこは世界最高峰の暗殺者のセラです。
急に飛び出してきたセラに驚く暇も与えず、野盗は馬から引き吊り降ろされました。
セラが持つのは木の短剣。
その短剣から茨が伸びています。
野盗はセラの放った茨に絡め取られ、地面に叩きつけられたことで絶命します。
彼らの乗っていた馬は、そのまま何処かに走り去って行ってしまいました。
「森精種族だ!」
「なんで森精種族が人間の味方をしてやがるんだ!?」
3人程、地面に叩きつけられた所で、残った2人の野盗が馬を止めて叫びます。
森精種族が人間を助けるのはそこまで珍しいことなのでしょうか。
クランディルスの街では森精種族も人間も普通に一緒に暮らしていましたが、地域差というものなのでしょうかね。
もっとも、その考えは少し間違っていますが。
「別に味方をしているわけではありませんわ。
私とピーグの憩いの時間を邪魔したのが悪いのですわ」
いちゃいちゃを邪魔したから、倒される野盗達。哀れですね。
さて、このままでは全部掻っ攫われてしまいますね。
「セラ。一人占めはダメですよ」
日傘を閉じて、私も野盗の前に躍り出ます。
ぴりぴりと肌を焼く身体の痛み、最初に感じたあの焼け付くような痛みはもうありません。
クランディルスの街を出てから、私は日の光を克服する為、【光属性耐性(小)】を成長させることに尽力してきました。
【夜行性】の効果により、吸血種族は日の光の下では体力を失い続けます。
それを軽減する為には【光属性耐性】を上昇させる必要があるのですが、体力が確認出来ない仕様上、耐性を上昇させるにしても、自分が死なないように上手く調整していくのは至難の技でした。
本来ならば――
しかし、私は【黄金神眼】の効果によって、レベルが3まで上昇した【透視】があります。
【透視】のLv3効果は対象の体力と魔力をゲージの形で視認することが出来る効果ですが、『ステータス閲覧』を通すことで、自分の体力と魔力も見ることが出来るようです。
ステータスに表示された体力ゲージを見ながら、耐性を上昇させることが出来たことで、私の【光属性耐性】は、今では【光属性耐性(小)】から【光属性耐性(大)】に変化しています。
【光属性耐性(大)】
分類 耐性/常時
射程 自分/自分
効果 光属性による自分への影響を大きく軽減する。
効果としては8割の軽減ですね。
これによって、【夜行性】の効果で10秒ごとに1割の体力が減る所を【光属性耐性(大)】があることで、10秒ごとに2%の体力減少に抑えられています。
【吸血】による回復も含めれば、戦闘時の影響はほとんどありません。
2%とはいえ、減り続けている以上、まだまだ完全克服とは行きませんけどね。
いつの日か、【光属性耐性(特大)】にして日の光を完全に克服したいものです。
「吸血種族だとー!?」
「しかも日の光の下で普通にしてやがる!」
普通にしているように見えて、じわじわと体力が減っているんですけどね。
良く見れば煙が出ているでしょう?
「遅いですわよ」
「セラが早過ぎるのですよ」
いつまでも野盗の反応を見ているわけには行きません。
私は日傘で野盗を突くことで、セラは木の短剣から伸びた茨で縛り上げることで、残った2人の野盗を倒します。
気絶した野盗の血を吸うことで減った体力も戻りましたし、野盗の持っていた食料でシオリやセラ達の食べる蓄えも増えました。
セラによって地面に叩きつけて殺された3人の野盗や、私が吸い殺した2人の野盗は街道の脇に埋葬しておきます。
街道の脇に放置していては迷惑になってしまいますからね。
こうして野盗を撃退した私達は、ディルスの街へ向かう旅路に戻ったのでした。
この話から第三章のディルスの街編が始まります。
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