妹、一目惚れをする?
もう一人の友人、どうしてこうなってしまったのか。
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ステータスの確認も終わり、しばらく経ち、気持ちも落ち着いてきた頃合いでしょうか。
部屋に3人の人間……いえ、違いますね。人間とお花人間と豚人間が入ってきました。
「夜分に失礼するよ。
俺はアルフォンス、アルフォンス・クランディルスという。
クランディルス騎士団ギルドの団長をしている」
「お控えなすって、シャル。セフィリア・ホワイトロース改め、セラですわ」
「ピーグはピーグさ! セラの伴侶をしている! よろしくな、セラの友人は俺の友人さ! 困ったことがあれば、いつでもピーグを呼びな! 駆けつけるぜ!」
「ふふふ、伴侶だなんて……まだ早いですわ。ピーグ」
クランディルスの名を持ち、騎士団ギルドの団長のアルフォンスさん。
この豪勢な部屋はアルフォンスさんの屋敷の中にある一部屋だったようです。
これだけ豪勢なのですから、予想はしていましたが、やはり貴族の屋敷でしたか。
人型の子豚を抱えながら、照れくさそうに頬を染めているのが、セフィリア・ローズ。
私が探していた友人の一人で、頭に白い花を咲かせている森精種族の少女です。
セフィリア――いえ、ここではセラですか。
まさかセラとこんな場所で会うことになるとは思ってもいませんでした。
いつの間にか彼氏も見つけているみたいですし、一体何をしていたのやら。
セラに抱きかかえられているのは、人型の子豚のピーグさん。
半獣人だったでしょうか。全体的に動物の姿のまま、二足歩行になっている獣人です。
ピーグさんは豚の獣人のようですね。
セラの胸に抱かれながら、ぶひひん、と鼻を鳴らしています。
「君は地下の訓練場で倒れていたらしい。
規定の時刻を過ぎても戻ってこない君を探しに行った部下が、倒れている君を発見したと報告してきたのだが、ちょうど一緒にいた俺の護衛であるセラが、君のことを知っていると言うではないか、頼れる護衛の友人に何かあっては大変だと、ここまで連れてこさせた。
念の為言っておくが、俺は君の身体には指一本も触れていない。安心してくれ」
挨拶もそこそこにイチャついている友人にどうしたものかと考えあぐねていると、緊張しているのかと勘違いしたのでしょう。
アルフォンスさんが今の状況の説明をしてくれました。
なるほど、そういうことだったのですね。
どうして突然豪勢な部屋で寝かされていたのか不明でしたが、これで腑に落ちました。
セラの友人だったから、ほんの少し特別扱いをしてくれた、ということなのでしょう。
天上界から降りてきた神々ということになっている<星の旅人>である私やセラを、後々利用する為に優しくしている、という線もありますが、その辺りはまだ私の想像の域を出ないことです。確証が持てるまで警戒だけに留めておきましょうか。
「シャーリィです。本日は助けて頂きありがとうございました」
「気にすることはない。倒れている婦女子をそのままにしておくのは騎士の名折れ。
むしろもっと早く気付くべきだったと後悔しているよ。
訓練所内の見回りを増やすことも検討しておこうかと考えている」
「私が無茶をし過ぎたのが悪いのですから、部下の皆様を労わってあげてください」
「善処しよう」
ふふ、とアルフォンスさんが微笑みます。
周囲の喧騒を忘れさせてくれるかのような落ち着いた声音。
貴族のようですが、私を平民として見下すこともなく、天上界の神々として遜ろうとしているわけでもなく、ただ冷静に、淡々と、思ったことや事実だけを紡いでいる。
その姿が心地よくて、安心する。そんな印象をアルフォンスさんから感じます。
「シャル……今はシャーリィでしたか。主様に見惚れてしまいましたの?」
「貴女の頭がお花畑なのは相変わらずですが、彼氏が出来たころで磨きが掛かりましたね・
セフィリア――いいえ、セラ」
見惚れてはいませんよ。ぼーっ、としてしまっただけです。
ただ、なんとなく、本当になんとなくですが、安心出来る人だなと、そう感じただけです。
別に筋肉が特別あるわけではなく、髭もきっちり剃っていて、声もお腹の奥に響くわけではありません。
ただ、あるのは安心感。それだけ――
「シャーリィ。シャルー。シャーロット―?
……もう、完全に主様の魅力にメロメロになっていますわね」
「セラ、言うな。君も似たような状態だったぞ」
「今の私にはピーグがいますわ」
「ピーグのミリキにセラはメロメロさー!」
「ええ、メロメロですわ」
3人が何かを言っていますが良く聞こえません。
心を安心感が支配して、ふわふわと心地よくて。
身体が自然とアルフォンスさんに近づいて。
手が勝手にその身体を抱きしめようと伸ばされ――
「スーパーウルトラハイパーデラックスギガントフェアリーキィィィィィィック!」
「あいたっ――!?」
しかしそれは高速飛来してきた小さな物体に阻止されました。
ふわふわの安心感が何処かへ吹き飛びます。
というか、私は一体何をしていたのでしょうか。
「やっぱりあたしがいないとダメね。
セラの友人だし、アクアリアの妹だっていうから、耐えると思って様子を見ていたけど、完全にアルフォンスの魅了に掛かっていたじゃない。
まあ安心しなさい。あたしの力を込めた愛情あふれる蹴りをぶち込んだから、しばらくは大丈夫なはずよ」
突然現れて、私に蹴りをかましてくれた妖精は腕を組みながら、自慢げにふふんとドヤ顔をしています。
ちょっと腹が立ったので捕まえておきましょう。
「セラ。説明を」
「な!? 助けてあげたのに掴むとかどういう了見!?」
「主様は主人公で、私達はヒロインなのですわ」
「いや、それじゃ意味がわからないから」
「仕方ありませんわね――」
セラが言うには私達は英雄アルフォンスを支えるヒロインとして配置されているそうです。
私達というのは限定特典を渡された7人の少女のこと。
虹の色をその力の名に入れた少女達。<七虹神姫>と呼ばれる存在。
私の【黄金神眼】、シオリの【紫皇神獣】、そしてセラの持つ【緑命神樹】
それらを持っていると、アルフォンスさんの前では逆らえないということですが――
金色ではなく、黄色の方がメインでしたか。
頭文字だけを重視したのでしょうか。他に何か意味があるかも知れませんが。
ともあれ、私は黄色のようです。カレーよりシチューの方が好きですけどね。
「愛は命を育む神聖な儀式への一歩よ。
それを都合よく捻じ曲げるなんて、このあたしが、【緑命神樹】のセフィロトちゃんが、許すわけがないじゃない!」
「おかげで真実の愛を手に入れましたわ!」
「俺様もセラと出会えて幸せさ」
「セラ」
「ピーグ」
「それで、どうして貴女の蹴りで私は正気に戻ったのでしょう」
バカップルは無視して掴んだ妖精に尋ねます。
幸せそうですが、ああなりたくはないものですね。
嫉妬ではありません。違いますよ?
「その前に離して欲しいのだけど……」
おっと、掴んだままでしたね。
手を離すと妖精はふわり、と私の顔の前まで近付いてきました。
「改めて自己紹介をするわ。あたしはセフィロト。
<神命樹>の妖精で【緑命神樹】でもあるわ」
「シャーリィです」
「知っているわ。【黄金神眼】
あたしの蹴りで貴女がどうして正気に戻ったのかというと、それはあたしが生命力を叩き込んだから。
強い生命力には強い意思力が宿る。
その強い意思力で魅了を弾き返したのよ」
強い生命力には強い意思力が宿る、ですか。
老化を捨てた姉の生命力にはどれだけの意志力が宿っているのでしょうか。
いえ、逆に意思力が強過ぎるから、生命力も強く、老化がなくなったのか。
卵が先か、鶏が先か。
しかし姉のやりたいことの一旦は見えてきましたね。
アルフォンスさんを中心として、私のような限定特典を持つ少女を集めて何かをしたいようです。
それがどんなことなのかはまだわかりません。
単にアルフォンスさんを主人公としたハーレムものを眺めたいのか。
私達にアルフォンスさん巡った殺し合いでもさせたいのか。
決められた物語に抗って欲しいのか、そもそも決められた物語自体が存在するのか。
「考えるだけ無駄よ。アレの考えなんて誰にもわからないわ。
妹である貴女が一番知っているでしょう?」
「それも、そうですね」
私は頷きます。
姉は考えて何かをすることはありません。
思いついたから、面白そうだから、その時々の理由で無差別に動きます。
ただ、何をしても姉の望むように事態が動くだけ。
私が開く<扉>は選択の扉。
しかし姉の開く<扉>は選択の余地のない――
「落ち着いた所で、少し改めて話がしたい」
そんな私の思考を遮ったのはアルフォンスさんでした。
もうあの無性に感じていた安心感はありません。
アルフォンスさんもそのことに気付いているのか、何処か嬉しそうです。
自分の意思とは無関係に、他人を魅了してしまうなんて、嫌ですものね。
貴族としては体の良い駒が手に入るのですから、喜ぶべきなのでしょうが、少なくともアルフォンスさんはそういうのが嫌いな人のようです。
きっと、真面目な人なのでしょうね。
私はそんなアルフォンスさんに「構わないですよ」と微笑み、返事をするのでした。
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