妹、武器屋で話を聞く。
シャーリィさん、お散歩をするの巻。
週間VRゲームランキング(18/12/19朝更新)にて52位になりました。
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「なかなか、こういうのも、良いものですね」
<月の恩寵亭>の窓が無く、橙色のランプの灯りだけが照らす室内で、昨夜の戦闘で汚れた身体を、丁寧に拭いながら呟きます。
どうやら、この世界ではお風呂というものは広まっていないようです。
お風呂に浸かるのは一部の好事家だけで、基本的には濡れタオルで身体の汚れを拭うのが一般的な身体の洗い方とのこと。
クランディルスの街周辺は、温暖な気候みたいですが、寒い地域だと大変そうですね。
シオリと別れてどうしたものか、と考えあぐねていた時に、マスターさんに「さっぱりしてきたらいかがですか?」と湯桶とタオルを渡され、こうして身を清めているわけですが。
うん、確かにさっぱりしますね。濡れタオルも程よい暖かさで心地よいです。
身体についた血と汗を拭き終え、気分一新した私は、乾いたタオルで身体を拭き、脱いで畳んでおいた服を着直します。
白いワンピースに身体を通し、白いサテングローブを手に嵌め、白いサンダルを履いて普段の姿に戻った私はマスターさんにお礼を言い、湯桶とタオルを返却して、ひとまず外を少し歩いてみることにしました。
さっぱりして少し散歩したいというのもありますし、少し歩いた方が良き考えも浮かぶと思いついたのもあります。
何も浮かばなくても、散歩を目的にしてしまえばいいですからね。
日傘を差して、気持ち普段より遅い速度で、ゆっくりとクランディルスの街を巡ります。
いろいろ見て回りたい時は、あえてゆっくりと歩くようにしています。
いつも通り歩いていては見逃してしまうものを、ゆっくりと歩くことで、見逃さないようにする為です。
街は完全に起きだしているようで、様々な店が開店を始めていました。
あれはパン屋でしょうか。これから仕事に向かう人達で盛況のようです。
私も小腹が空いていたので、5Gを支払い一つ購入します。
満腹度は回復しませんが、そこは気分というものです。
パンを齧りながら歩いていると、ふと路地裏の奥に木を削って造られた剣が下がっているお店を見つけました。
注意しないと見つけられないような場所にあるお店。私が見つけたのはあくまで偶然でした。
もしかして、知る人が知る隠れた名店では、というのを期待して、路地裏に歩を進めます。
どうやら武器屋のようですね。少し覗いてみることにしましょう。
血液パックの血で残ったパンを飲みこみ、店内へ向かいます。
武器屋がどうこう言っていましたし、機会があれば、シオリに紹介できるかも知れません。
「いらっしゃい。お、吸血種族か。珍しいお客さんだな」
「こんにちは、吸血種族のシャーリィです。少し店内を見せて頂けますか?」
「こいつは丁寧にありがとな。俺は見ての通りの地精種族で、『ウィリアム武具店』をやってるウィリアムだ。
自慢の一品達しかいないから目移りしちまうと思うが、好きに見ていってくれ」
店に入ると、髭を生やした地精種族の店主が、軽快な笑顔で迎えてくれました。
店主の名前はウィリアムさんで、お店の名前は『ウィリアム武具店』というそうです。
軽い挨拶を終え、許可を得た私は店内を歩きながら周囲を見渡します。
店内にはウィリアムさんが作成したであろう武器が、所狭しと並べられていました。
両手剣、片手剣、鎚、槍、選り取り見取りです。
ただ、残念ながら、私の欲しい武器は見当たらないようですね。
ウィリアムさんの所に戻り、尋ねます。
「日傘はないのですか?」
「あー? 日傘はうちでは取り扱っていないな。
武器としての日傘を手に入れるなら、吸血種族が多く住む<血の都>に行った方がいい。
確か専門店があったはずだ。
というかお前さん、すでに持っているじゃねえか。
別に何処も壊れてもいないみたいだし、何か不満でもあるのか?」
「いえ、そういうわけではないのですが、これしか持っていないので、他のも見てみようかと」
初期武器ですからね。もっといい日傘が見つかれば買い換えようと思ったのですが、どうやらこの街には売っていないようです。
吸血種族が多く住む<血の都>に行けば専門店もあって、売っているようですが、しばらく行く予定もないので、我慢するしかなさそうですね。
「ふーん。ちと見せてみな」
言われた通りに日傘を店主に渡します。
命を預ける武器を簡単に他人に渡すのは愚かな行為ですが、それを武器屋の店主に適応していては整備も何も出来ませんからね。
店主はしばらく日傘をいろいろな角度から調べていましたが、ふと目を見開くと感嘆した声で言ってきました。
「おいおい、これは『古びたシリーズ』じゃねえか。
こいつを買い替えるなんて勿体ないにも程があるぞ。おい」
「そんなに良いものなのですか?」
ただの初期装備ですよね?
「『古びたシリーズ』ってのは、『古びた』ってのが頭に付いた装備の総称なんだがな。
一言で言えば成長する装備だ。ちゃんと使ってやりゃ、それに応じて強化されていく。
だから、こいつを持っているなら、使いこんでいくべきなんだが――」
「なんだが、何でしょうか?」
「あー、ちゃんと使うってのがネックでな。
ただむやみやたらに振り回しても成長しない。
ちゃんと適したスキルを使用しないとダメってことだな。
お前さん、日傘に適応する戦闘スキルはちゃんと覚えているか?」
日傘に適応する戦闘スキルですか。
そもそも戦闘系スキルは【挑発】しか持っていませんし、ありませんね。
「持っていませんね。どれがそのスキルなのかもわかりません」
「……ったく、ちゃんと覚えてやれよ。せっかくの武器が可哀そうじゃねえか。
日傘に適応する戦闘スキルは【刺突】と【薙ぎ払い】と【防御行動】だ。
騎士団ギルドが訓練所を経営してやがるから、そこで練習すりゃ覚えられるだろ」
「訓練所のことなら話を聞いたことがあります。今度行ってみますね」
「おう。そうしろそうしろ。
武器屋の間じゃ、買い替える必要のない装備だから、あまり好かれていないが、俺としちゃ、そういう風に作られてんだから、ちゃんと製作者の意図したように使ってやるべきだって、思ってる。
お前さんがちゃんと使いこんでやりゃ、そいつも喜ぶだろうさ」
「そうですね。色々とありがとうございます」
「いいってことよ。武器のメンテはしていくか?」
「お願いします。いくらですか?」
「武器のメンテは1つ50Gだ。今回は初回だし、面白いものを見せてくれたから半額にオマケしてやるよ」
「ありがとうございます」
25Gを支払い、武器のメンテをしてもらった私は『ウィリアム武具店』を後にします。
気持ちのいい人でしたね。地精種族はああいう気性の人が多いのでしょうか。
図らずも『古びたシリーズ』の情報が手に入りましたし、大収穫です。
この調子だと、防具の方も何かありそうですね。
今度、防具店の方も探してみることにしましょう。
さて、やることは見つかりました。
騎士団ギルドの訓練所で日傘に適応するスキルを習得する、です。
お金が少ないのであまり長い時間の訓練は出来ませんが、3つのスキルのうち、どれか一つくらいは覚えたいですね。
いい暇つぶしを見つけた私は意気揚々と騎士団ギルドの訓練所へ向かって歩き出すのでした。
隠れた名店の発見は散策の醍醐味。
現実世界の傘は武器ではありません。
うっかり他人を突いたりしないように、持ち歩く時には先の方を下に向けて持ち歩きましょう。
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