妹、狼耳メイドとなった友人と再会する。
第一村b……『裏の世界』の仲間達の登場です。
日間VRゲームランキング(18/12/15 11時~12時更新)にて59位になりました。
週間VRゲームランキング(18/12/15朝更新)にて44位になりました。
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「いや、死んでないからね? 肉体を失っただけで死んだわけじゃないからね!?」
「まあ、そこはお約束ということで」
がばっ、と起き上がってツッコミを入れてきた友人に、私はかつてのように返します。
四条織莉恵――
四条財閥の一人娘であり、極度のオカルト好き。オカルト好き過ぎて『裏の世界』の存在に辿りついてしまったあげく、極秘に行われていた『肉体の霊体化実験』に実験台の一人として紛れ込み、唯一の成功例となってしまった元『表の世界』の一般人、もとい逸般人です。
「シャロちゃんひさしぶりー。元気してたー?」
「ひさしぶり、元気にしていましたよ。織莉恵はどうしてここに?」
「織莉恵じゃなくて、『シオリ』だよ。現実の名前を言うのはNGなのです!
どうしてって、加々美さんに頼まれたからかなー」
『四』条『織莉』恵だから『シオリ』ですね。わかります。
加々美さんというのは織莉恵を霊体化した実験の責任者で、本名を『加々美ミツル』と言います。『表の世界』の一般人を極秘実験に巻き込んだ責任を取らされて、織莉恵の世話役に抜擢されてしまった幸の薄い青年です。
『裏の世界』の狂人達をして、狂人と言わしめる織莉恵の世話役にされるとは。
本当に、幸の薄い人です。加々美さん――
「どうして目頭を押さえているのかな?」
「加々美さんが織莉恵――シオリから解放されたことに嬉しくなって」
「どういう意味かな!? まあいいや、シャロちゃんもやっぱり誰かに送り込まれた系? 聞いてよ、こっちは大変だったんだからさー。ほら、このゲームって肉体を生体データに変換するじゃん。でも私って霊体化してるから身体がないでしょ? そのままだとゲームに入っても肉体が存在しないから、【紫皇神獣】っていう限定特典を渡されたの。【紫皇神獣】ってのは、『神獣』ってヤツの分体で、なんかすごい獣人になれる身体なんだって、獣人の神様的存在みたいな? まあそれはいいのよ。で、ゲームの中でくらい久々の肉体を堪能しようかなーって、思っていたらさ。ログインしたら四足歩行の白狼になってんの! どうにかして人型になろうと試行錯誤していたら、黒い狼に囲まれるわ、虐殺始まるわ、虐殺が終わったと思ったらイベントが始まって肉体を乗っ取られるわで、マジ大変! なんですごい身体をもらったはずなのに乗っ取られるのかって感じ。まあ強制イベントだったみたいだし、最終的に人型にもなれたし、別にいいんだけどね。そんなわけで大変だったのですよ。シャロちゃん」
「なるほど。大変な思いをしたのですね」
一息で捲し立ててくるシオリを、一言で切り捨てつつ、考えを巡らせます。
【紫皇神獣】ですか。私の【黄金神眼】と同じ限定特典の一つということですが。
やはりというか、限定特典は渡される人物が最初から決まっていた可能性が高そうですね。
おそらくマリアさんに聞いた『妖精種族を連れた森精種族の少女』も、特徴からして、もう一人の私の友人である『彼女』と同一人物でしょう。連れている妖精種族が限定特典ですかね。
身内にだけ特別なアイテムをばら撒いて――とか、そういうのなら、ただの身内贔屓で済ませられますが、あの姉の作ったゲームですからね。
限定特典が付くIDは7つ。姉の選んだ7人、いえ、加々美さんも噛んでいるみたいですから、姉達の選んだ7人ですか――を使って、何かをしたい。させたい。それ以外の9993人は良くて『VRゲームのβテスト』という風体を取る為の隠れ蓑、悪ければ私達にさせたいことに必要な『実験の為の生贄』と言った所でしょうか。
「シャロちゃーん。なんか難しい顔しているー。おっぱい揉むぞー」
「形が崩れるのでやめてください。それと私はそういう趣味はありません」
「いいじゃん。魔性のおっぱい。人類の神秘。オカルトおっぱいなんだから。一回! 一回だけだからさ! 後、私もノーマルだからね!?」
「昔、戯れに一回だけ許したら「満足するまでが一回」とかほざきやがりましたよね」
「ひゅー、ふゅー」
「吹けていませんよ……まったく――」
私は溜息を尽きます。まったく、この子はいつもこうです。
「貴女は変わりませんね。少しは自分の脳……理性を使ってあげたらどうですか?」
「霊体になった私に脳はありません! って理性とか言われているし、言い直されてるし! 理性は使ってるから! 理性的に、理知的に、インテリジェーンス! だから!」
「はいはい」
いろいろと難しく考え過ぎてしまう癖のある私は、思い込んだら一直線、真っ直ぐ前だけを見つめて、自分の信じた道を走り抜けていく、そんな疾風の様なこの娘を、羨ましくも、好ましく感じています。
無数の選択肢の前に立ち止まり、考え込む私の手を引っ張って、問答無用に連れていく暴風。
それが四条織莉恵という人物であり、私の大切な友人の一人なのです。
……もう一人の友人の方と先に再会すると思ってましたが、予想が外れましたね。
「リア姉がなんか企んでいるのはいつものことだし、考えたってしょうがないじゃん。
私達はリア姉じゃないんだからさ、どんなに考えてもリア姉の考えはわからないよ。
シャロちゃんは妹だから私より近いかも知れないけど、それでも他人なんだよ。
自分の考えがわかるのは自分だけ、他人の考えはわからない、それが当然。当たり前。
いくら考えたって100%他人の考えを理解することなんて出来ない。
どんなに近くにいても、どんなに言葉をかわしても、それは変わらない」
だから、とシオリは続けます。
月光が当たると僅かに紫色に変化する白髪の少女は、無数の選択肢の前に考え込み、迷っている私の手を取り、「こっちへ行こう」と、導こうとしています。
「遊ぼう、ゲームなんだからさ。難しく考える前に、まずはこの世界を楽しもうよ」
『私の作ったゲームを遊んで欲しい』
シオリの言葉に想起したのは、姉の手紙に書かれていたこと。
この世界があまりに現実的で、ゲームにしてはプレイヤーの安全を完全に無視した作りだったから、何か企んでいるのではと、疑って、疑って、考え込んで、すっかり忘れていたこと。
そう、この世界はVRゲーム。どんなに現実的で、どんなに危険な世界でも、遊ぶために、楽しむために、創られた世界だから――
「……シャロちゃん?」
黙り込んだ私を心配したのでしょう。シオリが心配そうに見つめてきます。
大丈夫です。真っ直ぐな貴女のおかげでやるべきことは見えましたから。
「『シャーリィ』です。シオリ。それがこの世界での私の名前です。
そうですね。貴女の言う通り、この世界はゲーム。遊んで楽しむ為の場所です。
その創られた目的が別にあるとしても、何かの企みが根底にあるとしても、ゲームである以上、楽しまないと損ですよね」
「……! そうそう。ゲームなんだから、楽しまなきゃね」
「それに普通に遊んだ方が、姉の目的を邪魔出来るかも知れません」
「だからー。そういうのは一旦横に置いておいて、素直に楽しもうって――」
「はいはい。わかっていますよ」
「もう」
ぷぅ、と頬を膨らませるシオリに私は笑みを零します。
やはり、友人とはいいものですね。
例え、シオリがここにいる理由が姉の目論みだとしても、私に余計なことをさせない為の『楔』だとしても、私とシオリと、そしておそらくは『彼女』であろう『妖精を連れた森精種族の少女』を同じ場所に配置してくれたことには感謝をしておきましょう。ありがとう、姉よ。
私とシオリは、久々の友人同士の雑談を楽しみながら、クランディルスの街へと向かう帰路に付いたのでした。
この物語で一章部分が終了です。
次からしばらくはまったりと、この世界をゲームとして楽しむことになります。
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