妹、自分自身の能力を発動する。
オレのターン! ドロー! オレは『シャーリィ』の特殊効果を発動する!!!
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『貴様……何ヲシタ……』
<ハティ>が私を睨み付けています。
変化したのは彼自身の在り方。
怒りと憎悪で同族の魂を己に集め、個にして群体と言える存在となっていた彼は、その怒りと憎悪で集めた同族の魂を解き放ち、私を滅ぼそうとして、そして――
「私は何もしていませんよ。しいて言うなら、貴方が吐き出した怒りと憎悪を総て、叩き潰し、払っただけのことです」
倒し切れず、群体を構成する存在を、総て吐きだしてしまった、彼の姿は哀愁すら感じます。
どれだけの数がいる群体でも、群体が本体に対して帰属をしていなければ、一度倒してしまえばいいだけのことです。
群体となったと言っても、本体に帰属していなければ、それは仮初の群体に過ぎません。
私がそれに気付いたのは<ハティ>以外の<ウルフ>が私に憎悪の言葉を発していないことに気付いたからでした。
そこには何の意思も感じることはなく、ただ<ハティ>の怒りと憎悪に動かされるように、襲ってきているだけ。
もし、そこに個々の意思があって、己の意思で自由に襲ってきていたのなら、彼らは羽虫を叩き落とすがごとく、あっさりと倒されることもなく、逆に私が倒されていたことでしょう。
数がどれだけいても、そこに一つの意思しかないのなら、それは個と変わりません。
ならば倒すのは造作もなく、倒しきってしまえば、後に残るのは孤独な裸の王様のみ。
怒りと憎悪に支配されていたこともあり、煽ることで総てを吐き出させるのは、簡単なことでした。
「もう一息ですね。後は貴方を排除するだけです」
『グゥゥゥ……』
唸っても無駄ですよ。もう貴方の辿るべき未来は視えています。
私は最後の詰めとして、自分自身の能力を使う為に、意識を集中させます。
この世界はVRゲームですが、現実の能力の発動が出来るかどうかの心配はしていません。
現実の肉体を生体データ化しているゲームの仕様もそうですが、ゲームを開発したのがあの姉ですからね。
妹が持つ能力を、妹だけではなく『裏の世界』の住人達が持つ能力を、発動出来ないような、そんな不完全な世界を、あの姉が創造するわけがありません。
むしろ<ウルフ>や<ファング>、<ハティ>の戦闘力は『裏の世界』の住人の化け物染みた能力前提のバランスのような気がしないでも……
姉よ。『表の世界』の一般人向けにするには敵の強さのバランス調整を間違っていますよ。
「『我は門、我は鍵、我は「彼方なるもの」の神血を継ぐ者――』」
私が詠唱を紡ぎ始めると、場の空気が一変しました。
能力発動時のいつもの感覚です。わかっていましたが発動に問題はないようですね。
この世は見えているものが総てではありません。
『表の世界』とは別に『裏の世界』というものが存在します。
それは普通に生きているだけでは決して触れることのない世界。
それは禁忌と狂気に彩られた秘術を操る化け物染みた怪物達が跋扈する世界。
それは『表の世界』の住人達が触れてはならない禁断の園。
私は『裏の世界』で生まれました。
私のお母様は自分のことを<転生者>と、ことあるごとに言っていました。
なんでもお母様は前世で神様との間に子を成したことがあるそうです。
それが事実なのか、嘘なのか、私には判断することが出来ません。
ただ、お母様が言うには、私には二人の兄が居たそうです。
『居た』と過去形なのは二人の兄はすでに他界しているから。
父である神の、狂気の神威に耐えきれず、破滅への道を辿ってしまったそうです。
そしてお母様は今世でも同じ神様との間に子を成したそうです。
お父様が実は神様です、と言われても娘としては反応に困ってしまいます。
なので「どうして同じ神様と前世と今世で子供を成せたのですか」と、内容に突っ込んでみたのですが、「その神様は何処にでも存在している、ありとあらゆる世界に遍在する神様だからよ。あの人は私達をいつも見守って下さっているの」と惚気を返されました。
ともあれ、繰り返される禁忌。人と神との忌まわしき狂気の霊的交配による産物。
時空を統べる神と人の間に生まれた娘。それが私と姉の二人だそうです。
それが事実なのか、嘘なのか、私には判断することが出来ません。
それが本当に事実なら、とても中二な感じで私好みなのですけどね。
何にせよ、実際問題として私は生まれつき特殊な能力を持っていました。
それは<扉>を開くだけの些細な力でしたが。
「『我が父の名と、我が名、シャーロット・ウェイトリーの名において、<扉>は開かれる――』」
短い詠唱。昔、お父様の正体を教えられた時に、お母様に教えてもらった詠唱そのままです。
お母様に教えられた詠唱で、お母様曰く、神様らしいお父様の力を借りて、そこまでして漸く自分の力を引き出せていると考えると、親離れの出来ていない自分が情けなくも感じます。
早く成長して、自分自身の力で自分自身の能力を使いこなせるようになりたいものです。
詠唱が終わると、私の目の前に私だけが見ることの出来る二つの<扉>が出現しました。
二つの<扉>のうちの一つが開くようにイメージをすると、その通りに<扉>が開きます。
あ、『ウェイトリー』というのはお母様の結婚前の家名です。
前世も同じ家名だったそうです。前世も今世も同じ家名とは、余程その家名に好かれているのでしょう。
お父様の名ですが、聞いても教えて貰えませんでした。
人の身で呼ぶなんて烏滸がましいとのことです。
その時の様子はまさに狂信者のそれで、幼心に恐怖を感じました。
同時に安心もしました。お母様判定では私は『人の身』のようです。
『ァァァァァァァ――!!!』
私の様子に、何か良くないことが起こることを、本能的に感じたのでしょう。
<ハティ>が急接近してきて、その爪を振りかぶり、私に振り下ろします。
私は微動だにしません。必要がないからです。
振り下ろされた爪は当たらず、外れてしまいます。
私はただの一ミリも動いていません。
爪は『まるでわざと外したかのように』大きく外れた場所に振り下ろされていました。
何度も、何度も、何度も、何度も、何かの間違いだと、何度も爪を振り下ろす巨狼。
しかし当たらない。外れて、いや外してしまう。
そう、もう決して爪が私に当たることはありません。何故ならば――
『何故、何ガ……』
理解不能の現象に恐怖を感じたのか、巨狼の声が何処か震えています。
こんな美少女に対し、恐怖に怯えるなんて、称号の効果があるとは言え、でかいのは図体だけですか。
自然界の獣は死の直前まで、爪や牙を突き立てようとすると、追い詰められた獣はうんたらかんたら、と聞いていたのですが、どうやらそれも人次第、もとい獣次第のようです。
他者に取り憑かないと、周囲を仲間で囲わないと、何も出来ない臆病者みたいですし、予定調和と言えば、予定調和ですが。
今、私の目の前には二つの<扉>が存在しています。
それは『爪を当てる未来へ繋がる扉』と『爪を外す未来へ繋がる扉』
私が開いたのは『爪を外す未来へ繋がる扉』です。
『爪を外す未来へ繋がる扉』を私が開き続けている限り、爪が私に当たることはありません。
彼は自分の意思に関係なく、『爪を外す』という選択肢しか取れないのです。
選択の強制による事象改変能力――
それが私の持つ能力です。
<扉>は言わば選択肢。<扉>の向こう側には選択した未来が広がっています。
私の能力は言うならば相手が選ぶべき、選択肢を勝手に決めて、その未来を強制する力です。
姉は『生きたゲームの選択肢』とか言っていましたね。
確かにゲームでよくある選択肢っぽい能力ですね。
なお。勝手にその選択肢は決められてしまう模様。クソゲーですね。
「では終わりにしましょうか」
私の言葉に<ハティ>は、我に返ったかのように踵を返し、私から逃げ出そうとします。
でももう遅いですよ。貴方の辿る未来はもう決まっています。
諦めてください。事象改変能力に対する耐性を持たないのが悪いのですよ。
まったく、どうして姉や姉の友人達は普通に時間軸や因果律に対する耐性を、事象改変に対する耐性を持っているのでしょうかね?
「時間軸や因果律を掌握するのは基本」とか意味がわかりません。
<ハティ>、本当の化け物とは彼らのような存在を言うのですよ。
逃げていく<ハティ>を見つめながら、私は新たな<扉>を出現させます。
『白い狼が取り憑かれた未来へ繋がる扉』と『白い狼が取り憑かれない未来へ繋がる扉』
未来ではなく、過去ではないかと突っ込まれそうですが、私の能力は発動してしまえば、時系列を無視出来るので問題ありません。
過去で能力を発動、改変した未来を、現在の事象と重ね合わせます。
現在が過去になり、過去は未来となり、現在がその姿を変えていきます。
世界は巻き戻され、選択肢を選び直した世界へと繋がっていくのが感覚でわかります。
どうやら事象の改変は問題なく成功したようですね。
事象の改変が終わったのを確認して能力を解除します。
事象の改変が終わった世界で、残ったのは横たわる数多くの<ウルフ>の死体と――
「……四条……織莉恵――!?」
私は驚愕に思わず口元を抑えます。
そこに居たのは白い<ウルフ>の幼体――ではなく、いるはずのない人物。
紫がかった白髪の狼耳メイド服姿ですやすやと寝息を立てている少女。
「どうして、死んだはずの貴女がここにいるのですか…!!!」
それは、かつて『裏の世界』の実験に巻き込まれて死んだはずの、私の友人の姿でした。
倒したように見えて、実は倒していません。
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