生誕と出会い
良くいえば質素、悪くいえば貧相な家で僕は意識を取り戻した。いや、これも質素というのは大層語弊がある。家のなかは誰かが暴れているんじゃないかと言うくらいに散らかっている。
とりあえず、起き上がろう。
しかし、手も足も動きが鈍い。身動きをとることが妙に辛い。
そこで、助けを求めることにした。しかし、驚くべきか、それは産声だったのだ。
僕は恐怖でさらに叫んだ、これ以上ないほどに言葉にならない声をあげた。
しかし、誰も来なかった。
そのまま泣き止み、睡魔に殺された。
両親らしき人物が帰ってきた物音がしたのは真夜中の事だった。
僕は女性の叫び声とともに目を覚ました。
よく聞けば、人間の体を壊そうとする、鈍い音が聞こえた。
あぁ、最悪な家庭に産まれてしまった。子が親を選べないという状況に自分が直面するとは思いもしなかった。
そう現実を受け入れることが出来たのは1週間後のことだった…
それから5年ほどたっただろうか。
そこで、初めて外に出させてもらえたのた。
いや、勝手に出たといったほうが正しい。
父さんは僕に無関心であり、また、最悪の存在でもあった。
外の世界に出るのは久しぶりか、生前ぶりといって良いのか、しかし幼少期の間であったためか、ストレスはそんなに感じてはいなかった。
しかし、はじめてみる光景の数々には驚きを禁じえなかった。
僕の故郷である日本とはまた全然違った風景。
しかし、もし海外に出向いたのなら、もしかしたら簡単に見ることが出来たのかもしれない。
そこには見事なまでのスラム街が広まっていた。
なんとも、テレビでみたことがあるような光景。生前では、ご飯にケチをつけると「まともに食べられない子だっているんだから、ちゃんと食べなさい!」
と母さんに良く言われてきたものだ。
フン!じゃあそいつにこの不味い飯を献上でもしてこいよ!と言われる度に思っていたが、実際にこの目で見る日が訪れるとは思っても見なかった。
正直、恐怖したよ。うん、怖い。
だって、家を出て少しあるいた所にある路地裏には力なくやせ細って膝に手を組んで座りこんでる少女がいるんだもん。
身なりはとても貧相だった。
しかし、とても可愛らしい。
僕にはそう思えた。
その少女の目には希望なんて存在しない。
けれど、人のことは言えないな。
多分、僕も同じ目をしている。
そういう同類意識か、それとももっと上の仲間意識からだろうか。
とりあえず、有識者から言わせればみっともない行動原理だっただろう、
僕は、バレない程度に家からパンを一欠片とコップ一杯の水を持ち出し
その少女に与えた。
「ほら、あげるよ。」
そういうと、その少女は虚ろな目でこちらを見てきた。
その目には疑念と混乱がほんの少しだけ見てとれた。
しかし、それも束の間、僕の持っていたパンを奪うように取り、口いっぱいにほうばった。
「うっ…!!!」
「一度にそんなに口にかきこめば、そりゃ喉につっかえちゃうよ。」
そう言って、水を差し出すと、すぐにそれを手に取り飲み干した。
その姿を観察した。微笑ましいなんて感じたのはいつぶりだろうな。
そう思いながら、スルッと隣に座った。
少し経った後、少女は全て食べ終え、そして、ボソッと何かを口にした。
「な………で…ぇ?」
何が言いたかったのかはすぐに分かった。
なんでこんな自分に食料を分け与えたのか。
確かに、疑問に思うのは当然だろう。
「君は僕と良く似ていたからだよ。それ以上でもそれ以下でもないさ。
そんなことより、答えたくなければ何も言わなくていいんだけどさ、どうしてこんな所にいるの?」
自分でも、流石に無神経であると自覚をしていた。しかし、聞きたい、いや聞かなければいけない。そんなおかしな強迫観念か、もしくは好奇心が判断力を鈍らせた。
しかし、以外にも答えは帰ってきた。
おぼつかない声で。
「わた…し…いみ…ご」
なるほど、単語単語で、なんとか少女の過去をだいたい把握できた。
話によれば、彼女はもともと小規模な貴族の3女であったらしい。5歳にしてそこそこの会話ができるのものそのためか。
しかし、四歳の誕生日に悲劇が起きた。
忌み子の象徴とされる痣が腕にできてしまった。
上から弾圧されればすぐにこんな小貴族なんて潰れてしまう。
そう思った彼女の両親は、すぐに実の娘を切ったのだ。殺しては自分に厄災がかかると思ったのだろうか、こんなスラム街に放置していった。殺すより残酷だ。
そして不慮の事故として永遠に少女を闇に葬った。
ということらしい。
僕はそれを聞いて、嬉しく思った。何だ、いるんだな、僕より酷い人生のやつって。
そして、そう一瞬でも思ってしまった僕は激しい自己嫌悪に陥った。生前、こういう自尊心を持った人間を忌み嫌っていたのはどこの誰だ!窮地に追い込まれたからといって、僕はそんなことを思う人間だったのか…と。
そして思い立った。この少女をなんとかしてやろうと。