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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

多分、一番ムカつく奴

作者: 彩木楼閣

BLです。

未成年の飲酒表現があります。

未成年は飲んではいけません。これはあくまでもフィクションです。

 俺らの出会いは最悪。

絶対仲良くなれないって思ってた。

俺、保坂千聖(ほさか・ちさと)の年上の幼馴染・智章(ちあき)、通称“ちゃき”が俺のバイト先に仲良さそうに連れてきたのはクラスメイトで、別に大して学校に行ってなくても成績は上位に入ってる俺から見たら、その中でお友達ごっこしているクラスメイトはツマラナイもの、ツマラナイ人間にしか見えなかった。なら“ちゃき”と遊んでる方が楽しいし、ちゃきの周りの人間と居る方が俺にとってはプラスになるとしか思えなかった。だから、ちゃきがそいつを連れてきた時はムカつく・・それしか思わなかった。


 五十嵐裕樹(いがらし・ゆうき)、それが俺の名前。高3に上がる事を切っ掛けにバンドが解散することになった俺に部活の先輩がギター弾けるなら俺のバンドに入らねぇ?って声をかけられて・・俺はその先輩・智章さんが大好きだったから二つ返事で引き受けた。

先輩は顔も広くて誰からも愛されてて、小さいのに誰よりもパワフルで部活ん時も、先輩が居れば勝てるって程のムードメーカーでもあり、でも小さいくせにポイントゲッターで、超尊敬してた。

んでも、先輩が内緒だぜって連れて行ってくれた酒も呑めるライブハウスには、殆ど学校に来ないクラスメイトが当たり前の顔で居て、智晶さんにめっちゃ親しそうで、そんで智晶さんに連れてこられた俺には敵意むき出しで・・すっげぇムカついた。


「チャキ、お疲れ。」

店に入って椅子に座ると、眼鏡をかけた青年がちゃきと呼ばれた小柄な青年“智章”に笑みを向ける。眼鏡をかけた彼の顔立ちはどちらかと言えばキツメで、容姿からも相当に頭が切れるタイプと察する事が出来る。さらっとした髪はワックスで軽く立ててある。

「おぅ!千聖、学校にバレずにやってっか?」

「あんな無能教師に気が付かせる程野暮じゃない。」

眼鏡の青年千聖は唇の端を吊り上げて笑う。その笑みは先ほど智章に見せた物とは全く質が違う。

「でも、学校は一応ちゃんと行った方がいいんじゃねぇ?」

「出席日数はぎりで足りてるし、成績もトップクラスだよ。問題は無い。それに、俺にこんなバイトを紹介した智章が言えることか?」

「それはそれ、これはこれだな。千聖、ハイネケンよろしく。あと、裕樹にはウーロン茶な。」

隣に座る裕樹の頭を二度ほど軽く叩いて智章は笑う。

 高3の千聖がバイトをしているのはライブハウスも兼ねたパブで、この界隈でバンドをやっているものであれば大概知っている店。智章もバンドをやっていて、すでに常連。打ち上げや、練習の後は必ずといって良いほど店に来ている。簡単な食事も調理師免許を持ったスタッフも居る為に出してくれるので、食事だけをしに来る常連も居る。以前にマスターにバイトするいい奴いないか?とマスターに相談を受けた智章が千聖を紹介し、それ以降半年ほど千聖はここでバイトをしている。

「なんでいつも、そいつ連れてくるんだ?未成年だろ。何かあったらチャキが困るんだぞ?」

注文のドリンクを差し出しながら、苦々しい顔で千聖は裕樹を見やる。その顔は裕樹を嫌っているとはっきり分かる顔で裕樹も嫌な表情でドリンクを受け取りながら千聖を見返す。

「だって、クラスメイトなんだろ?それに未成年は千聖も一緒じゃん?

千聖、俺の周りの奴としか仲良くしないし、裕樹いい奴だし仲良くなればいいなぁって思って。」

毒の無い智章の笑顔に二人は言い返すことが出来ない。小さくて元気で、女の子のようにとは言わないが顔立ちも可愛らしい。だが、口も早いが手も早い。高校在学中は悪戯の火種は必ず彼にあったが、それも愛嬌と教師さえも笑って済ます、それが彼らの心を寄せる比嘉智章。

後ろの席から顔見知りに呼ばれ、智章は笑顔で「ちょい待ってな~」と席を外す。

「ま・・俺には関係ないからいいけど。チャキに迷惑かけるなよ?」

そう言って智章がいなければ千聖はすぐに離れていく。それでも、他の客からのオーダーや会話に楽しげに笑い返事を返すのは学校で見る姿とは全く違う。その表情で笑っていたらクラスの中心に居るんじゃないかなって思える。

他の客のオーダーを取りながら、ふと視線を上げると戻ってきたチャキと話すクラスメイト。茶髪をワックスで軽く整えた長めの髪。大型犬っぽくて、チャキが絶対ほっとけないタイプ。元気も良さそうで、クラスでは中心に居て笑ってるタイプ。チャキと仲良くしてるから気に食わないけど、友達になったら楽しい奴だろうとは思う。



 いっつも空いている席は千聖の席。

俺に対して苦々しい顔はする癖に、智章さんにはめちゃめちゃ懐いている。ここ最近は何だかんだ言いつつも俺にも話すようにはなってきたけど・・。

きつい言い方はするけど、夜の店の中ではめっちゃ楽しそうで、何で学校ではあんな顔しないんだろう。あんな顔で笑っていたら絶対クラスの中心だろうってやっぱり思うけどな。

ガラッと教室の扉が開いたのは3時間目の途中。

Yシャツのボタンをきっちり上まで留めて、これまたきっちりと締められたネクタイ。髪は店に居る時とは違いワックスなどはつけておらず優等生の顔をした千聖が俯き加減で入ってきた。

「保坂、体調はもういいのか?」

「すみません。」

「そうか、席に付け。無理はするなよ。」

頷き、眼鏡を軽く押し上げて千聖は席に付く。教師には体が弱く病院通いを繰り返していると伝えているらしいと智章さんが教えてくれた。

ざわめく教室、千聖はお構いなしという表情で教科書とノートを開く。

昼休みになっても千聖は回りを気にする様子も無い。会話も交わすつもりもないようだ。

「ちょぉ、千聖。」

「なんですか?五十嵐君。」

その改まった言い方が気持ち悪くて、俺は無理矢理に腕を掴んで教室を連れ出した。

「なんのつもりですか、五十嵐君。」

屋上について、人目のない給水タンクの裏。誰も居ないのに千聖の口調は変わらない。

「お前、そんなんでいいのかよ。」

「いいも何も・・学校での俺はいつもこうですから?」

馬鹿にしたように眼鏡を押し上げて千聖は笑う。

「いつものお前はそうじゃねぇだろ?」

裕樹の言わんとする事を一瞬掴めず、千聖は瞬きをしたが、すぐに悟って嫌そうに表情を歪めて顔を背ける。

「五十嵐には関係の無い事だ。」

「店ではもっと楽しそうにしてるだろ?智章さんが哀しむぜ?」

智章と名前を言った瞬間に千聖の表情は変わる。

「お前にチャキの何が分かる。」

「心配してるんだろ?」

「ほっとけ、ここに居る事は俺には何の価値も無い。」

突き放すように言い放つ千聖の顔には何の表情も浮かんでいない。

「バイトの事、学校には絶対言うなよ。」

その後にそう言った顔は夜、店に居る時の顔に近いと思った。突然に胸倉を捕まれたと思った裕樹の顔に千聖の顔が近づき、目を見開いた裕樹の唇に千聖のそれが重なったと自覚する前には千聖は手を放していた。

「っな・・にっすんだ!」

「言ったらお前がホモだって言いふらしてやる。特に重点置いて、裕樹はガチホモでチャキの体を狙ってるから近づくなって言ってやるよ。」

軽く首を巡らした顔は憎らしいほどの笑みを浮かべていて、それは店に居る時の楽しげな笑みに近かった。

「てっめぇっ!」

「お前にチャキは絶対やらねぇ。チャキは俺のだから。」

にやりと笑った顔に少し前までの優等生面の面影もなかった。

「俺はっ・・」

「チャキの事、好きじゃないとは言わせない。分かってないだけかもしれないけど、お前チャキの事、在校時から見すぎなんだよ。」

その言葉は胸に刺さった。

「ま、童貞君には何も出来ないだろうけどな?」

さらに追い討ちをかける言葉に裕樹の顔は真っ赤に染まる。彼女が居た事もあったが、まだそこまで行かない状態で別れ、それ以降は部活やバンドばかりで、色恋となる前に智章にくっ付いて歩いているばかりだったのだ。

「千聖はどうなんだよ!?」

「俺に聞くか?」

店に行けば、千聖にいつもくっ付いている女性客の姿も目に付いた。千聖は鼻で笑う。

「女はとっくに。チャキともやりたいって思ってるから、男も済ませたけどね?」

「・・おっ・・!?」

「何、動揺してるんだ?」

「ど・・動揺してねぇよ!!」

そうは言っても、めちゃめちゃ動揺していた。キスされて、智章さんの事好きなんだろうって言われて、俺の頭ん中はパニック状態。んでもそんな中で思ったのはどっちなんだろうって・・やる方かやられる方か。智章さんとやりたいって事は抱く方だろうかと・・。

「リアルに想像してんのかお前。」

壁に背を預けた千聖は軽く意地悪な笑みを浮かべていた。

「どっちなんかなって思っただけだよ。」

「へぇ、気になるのか?」

「想像つかねぇもん。」

きっぱり言い切ったその声に千聖は一瞬呆気に取られ、次は笑い出す。それはさっきまでの笑いとは違って智章と話す時の笑顔に近い優しいものだった。

「変な奴。やっぱチャキが気に入るわけだ。」

「馬鹿にすんな。」

「馬鹿にはしてないって、また店で会おう。」

ひらっと手を振り千聖は階段へと消えていく。笑いを含んだ声は今まで聞いた千聖の声の中で一番優しいものだった。

教室に戻るとまた具合が悪くなったから早退すると、すでに千聖の姿は無かった。「さっきまで一緒に居たよな、いつの間に仲良くなったんだ?」とか言ってくるクラスメイトに適当に説明しつつ・・俺は千聖の事を考えていた。

 学校では相変わらずな千聖だったけど、夜、店に行くと楽しそうに仕事している。

「裕樹、何飲むよ?」

カウンターに肘をついて楽しそうに俺を見るのは千聖。今日は俺の隣には智章さんは居ない。練習終わってから一緒には来たものの、呼び出しくったとかで、店に入って早々に出て行った。

あれ以降、千聖は俺の事、裕樹って呼ぶようになった。

何か知らないけど、友達って思ってくれたんだろうか・・。そう思って顔見てると・・。

「裕樹って酒呑めないの?」

「はぁ?」

「飲んでみるか?」

「未成年は禁止。」

楽しげな千聖にマスターが速攻でストップをかけてくれた。飲めないわけじゃないけど、ここで飲んで学校関係者とかに見つかったら、店や千聖にも迷惑かかるだろうって思ったからほっとした。

「残念。」

千聖はにぃっと笑う。なんつーか、今まで見た事ない顔つか・・。

「何かあったのか?お前、今日変だぞ。」

「ウーロン茶でいいんだよな?」

当たり前の様に出してきて、顔を近づけると囁く。

「今日、この後時間取れないか?」

頷く俺に笑みを返して千聖は裏に入っていく。

 バンド始めてから、友達の家に泊まるのは日常になっていて、連絡を入れた親は気をつけてねと言うだけだった。千聖のバイトが終わって、そのまま行く事になった千聖の家。

学区外から来たそうで一人暮らしだというその部屋はシンプルというには余りに物が置いていない部屋。

「適当に座れよ。」

そう言ってキッチンに消えた千聖が持ってきたのはビールやウィスキー。

「ちょ・・。」

「飲めないわけじゃないだろ?どっちがいい?」

家では親父の晩酌に付き合って、ビールもウィスキーも結構飲める。

「どっちでも、千聖に付き合うけど。」

「んじゃ、ビールから行こうか。」

店でバイトしてるだけあって、千聖は継ぎ方が上手い。

何だかんだと下らない話をして飲んで一時間は経っていたと思う。

「なぁ、何かあったの?」

俺の言葉にビクリとしたのは千聖。

「聞いて欲しい事あって、俺を誘ったんじゃねぇの?」

「別に、ほらグラス空いたぞ?飲めよ。」

「誤魔化すなって!」

裕樹の声は心配そうで苛付かせる。何でこいつを誘ってしまったんだろう。

聞いて欲しいとか言うよりは、今だけ側に居て欲しかっただけだ。同じくチャキの事好きなこいつなら分かってくれるかと思ったから・・。

「チャキに恋人が出来た。」

ウィスキーをかなり濃い目に作りながら、出来るだけ平静に、動揺なんてしてないって口調で選んで言えた言葉はそれだけだった。チャキからメールで教えて貰って、おめでとうって返して、笑って仕事して。相手が女だったらここまで苛付かなかった。チャキの恋人は男で、でもチャキはめちゃくちゃ幸せそうに内緒だって俺に教えた。

一気に煽った酒は喉を焼くほど濃くて涙目になったのはそのせいだ。

「・・そっか。」

俺が思うほど、裕樹は取り乱した様子はなくて、逆にそれが更にムカつく。やっぱこいつはムカつく奴だ。

「そんで落ち込んでたのか?」

「っるせ・・。」

同じ様に濃い目に作って、グラスを持とうとした手首を捕まれて、酔って少し平衡感覚の無い俺の体は裕樹の腕の中に閉じ込められた。

「何してんだ?」

「うん・・俺が智章さんの事好きだって誤解してるんだろうなって思って。」

「ショックじゃないのか。」

「好きだけど、千聖の思ってる好きじゃない。どっちかって言うと、俺が気になってるのは千聖かな。」

「お前、酔ってるだろう?」

見上げる顔に裕樹は笑う。

「同じ位には酔ってるかもな。」

抱き締められてるってのに、逃げないし、そのままで居る千聖の方が完全に酔ってるだろうと思う。普段ならこんな事したら確実に逃げるだろうし、怒るだろう。まぁ、こんな事をさせるわけが無い。顔を近づけて裕樹は千聖の唇に唇を重ねる。

「こないだは分かんなかったけど、意外と柔らかいのな。」

「何・・やってんの。」

顔を真っ赤にして見上げる千聖。

俺は笑みを浮かべる。結構意地の悪い顔になっていたかもしれない。

「可愛い反応するなよ。」

「るっせ!」

気が付いたというか・・はっきりしたって言うか。

智章さんは憧れ、好きな先輩であって、どうこうしたいとは思ってなかったけど・・自分が気になってちょっかい出したかったのは千聖で。最初っから敵意剥き出しの千聖が可愛かったっていうか。屋上でキスされて自覚したっていうか・・。

「な、俺と付きあわね?」

腕の中の千聖をぎゅっと抱き締めてもう一回、今度は深くキスをして・・。

「るっせ、この童貞!」

真っ赤になって悪態つくのも愛しくて、俺はもう一回ぎゅっと抱き締めた。


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