ミュージシャンとハンバーグ
「そう思ったらなミュージシャンになるしかないなって」
「ライブDVD見ただけでようそこまで感化されるなあ」
「かっこいいやんミュージシャン。あれ収録されてへんけど、あのあとファンとのハメ撮りもあるんやで。なんで大事なとこカットしてんねん」
「イメージ壊れてまうわ。そこは真実やとしてもボカしとけや」
「そうやねん。ボカすのはアソコだけでええねん。需要と供給があってへん。あ、いや、アソコもボカさんでほしいんやけど」
「ライブDVDとして販売できひん」
「いっそのことドキュメンタリーでええんちゃうか。それならエロいシーン入っててもええやろ。中途半端な売れ方しとる芸能人も映画で乳だしてるやん」
「素直にAV見ろや。どんだけ乳みたいねん」
「そらAVもええねんけど、AVじゃないのにエロいシーンあるやつのほうが興奮せーへん?AVがエロいのは当たり前のことやん。そうやなくてエロが主題やない作品で時たまあるエロがええねん。付加価値的なエロって言うんかな。まあ、エロの話はもうええねんけど。何語らせとんねん。一冊、本ができてしまうわ。そうやなくてな、俺の心をこう、熱く燃やすのはやっぱり音楽の力やねん。てっちゃんもあるやろ。音楽きいて感情ゆさぶられることとか」
「泣いたりすることはないけどなあ。でも、感情が高まるのはあるよな。こう、なんかよーわからんけど身体動かしたくなるーみたいな。高揚感って言うんかな。動かしたくてしゃあない、みたいな」
「そうそう、そうやねん。やからミュージシャンになるしかないなって。そう思わへん?衝動的に生きようぜ」
「中学生がバンド結成するきっかけみたいなもんやな」
「ははーん、さては誘ってほしいんやろ。なあ、てっちゃん。そういうことやろ?なあ、なあ。素直になりや」
「なんで解散確定のバンド入らなあかんねん。自殺行為やん」
「またまたまたあ、ほんまツンデレやんな。なんだかんだ言いながら入るんやろ。めんどくさいからその過程すっとばそうや。くっそつまらん展開しか用意されとらんで。カタルシスなんてぶち壊したるねん」
「俺の気持ちどこいったん」
「もう、てっちゃんはほんまアレやなあ。つべこべ言わんと入りいな。共感できへんからクソとかいうクレームは飽きたわ。俺はな、ええものを作りたいだけや。共感してほしくてミュージシャン目指しとるんやないんやで。やから、黙ってついてくりゃええねん」
「メンバーにまで言ってどうすんねん」
「そやから作詞作曲は俺がせなあかんなあ。やっぱり担当はベースがええよな。なんか一番かっこつけてそうやん。名前からして気取ってる感あるよな、ベースって」
「全国のベーシスト怒るで」
「ボーカルはてっちゃんに任せるわ。一番ええとことってええで」
「なんでやねん。それこそお前やれや。いっちゃん重要なとこやろが」
「そやねんけどなあ、でもなあ、それは恥ずかしいやん。人前で歌うなんて緊張してまうわ」
「よう、ミュージシャン目指そうと思ったな。そんなヘタレ根性で」
「ええんよ。理由なんて後からついてくるんやで。ファン犯したいだけやけど」
「一番なったらあかんやつやん。動機が不純すぎるわ」
「そんなん中学生かて、モテたいからバンド結成したりしよるんやろ。それが大人になって、犯したいからに変わっただけや。大学のサークルに入る理由と何が違うんよ。大学生とかレイプのイメージしかないわ」
「清々しいほどのクズに育ったなあ」
「あ、そうや。新曲のタイトル「犯されるより、犯したい」にしたろ」
「どっかのキンキから殺されるわ。しかも歌うの俺やろ」
「パンクロッカーって言っときゃ客も納得するやろ、たぶん」
「ヘビメタとかそっち方面に持ってく気なん?」
「そうそう。あいつら歌詞で親も犯しよるんやから、なんでもありやん。さすがの俺でもそれは無理やで」
「犯罪おかしとるわけちゃうしな。叫ぶだけならなんでもええやろっていうスタンスちゃう。テレビとかでは映せんやろうけど」
「最終的にてっちゃんも、ステージ上でチンコ出すんちゃう」
「ええ……興奮しすぎて?そんなんなるんかなあ」
「リズムにあわせて勃起したら面白いんにな」
「自由自在すぎるやろ。マジシャンの領域やん」
「そのステージに立ってみんとわからんよな。すごい景色なんやろなあ」
「チンコ見せたくなる景色ってなんやねん」
「半裸でダンスしよるやつなんてたくさんおるんやから、下が半裸になることもあるやろ。ブレイクダンスで下半身もブレイクやで」
「お前の頭がブレイクやろ」
「あ、そうやん。そんなん考えるよりも先にバンド名決めなあかんな」
「俺組み込まれるの確定しとるん」
「せっかく同級生なんやし、バンド名も「21」にしよか」
「それ絶対、2引いたらあかんやつやん」
「21世紀やし、ちょうどええんちゃう」
「何がちょうどええねん」
「はよ、夢かいた紙ヒコーキ飛ばそうや」
「あかんあかん。それ以上はあかん」
「ほんなら、てっちゃんは名案あるん。バンド名」
「せやなあ………………………「ハンバーグ」……で、どうやろ」
「それ昨日の夕飯やん。真面目に考える気ないやん。絶対てきとーやん、それ」
「ちょっとは説明を聞きいな。ええか?……和風洋風なんでもいけるし、煮込んでもええし、チーズ入れるとなおうまいし、カレーに入れても最高やし、グラタンとの組み合わせも抜群やろ。そんなハンバーグみたいな多様性のあるバンドっていうことや」
「ほえー、めっちゃええやん、それ。そうしよう。それや、それ、ハンバーグに決定や」
「ちょろすぎるわ。もうちょい粘れや。反発してくれんと張り合いないわ」
「曲もそれにあわせて作りやすそうやなあ」
「全部食いもんの歌になるん」
「千のハンバーグになって、とか」
「怖いわ。襲ってきそうやん」
「残酷な天使のハンバーグ、とか」
「上手いんか不味いんかわからんな」
「世界に一つだけのハンバーグ、とか」
「ひねりもくそもないやつばっかや。もうちょっとなんかあるやろ。ハンバーグで直球勝負しすぎや」
「そやなあ。それなら…………ヘビーローテーションとか」
「パクり丸出しやな」
「毎晩ハンバーグでてくる歌や」
「うわあ。そら、ハンバーグ嫌いになりそうやわ。ことごとく名曲を台無しにしていくなや。ハンバーグの破壊力なんやねん。ぶつけるぞ」
「じゃあ……………こねたくて、こねたくて、とか」
「いやもうええわ、だいたいわかったわ」
「こねたくて、こねたくて、震えるねん」
「勝手にこねとけや。病院いかなあかん人やん。その前にパクリはあかんやろ、オリジナルで考えんかい。訴えられるで」
「オマージュって言っといたらええんちゃう」
「リスペクトする気持ちあらへんやん」
「そんなもん心で思ってなくても、尊敬してます〜キャピキャピ〜ぐらい言えんで」
「キャピキャピはなんやねん」
「そこはあれやん、若さアピールしてごまかしとるんやん」
「馬鹿にしとるやろ。誰もそんなんでごまかされんて」
「難しいなあ、もう。1を2にするのは簡単やねんけど、0を1にするのはめちゃめちゃ大変やもんなあ。頭いたいわ」
「そこできへんかったら曲なんて作れんわな。1曲作るのにどんだけの苦労が詰まってると思ってるんよ。ミュージシャンの凄さがわかってきたんちゃう」
「すごいなあ。その報酬としてファン抱きよるんよな」
「結局、そこにいきつくんかい。ファン抱くためだけに音楽やってるんとちゃうやろ。もっと純粋な気持ちで見てあげんかい」
「んーそやけど、原動力としては充分ちゃう?」
「お前、突き動かしてんの音楽やなくて性欲やないか。本能のままに生きすぎやろ」
「はいはい、本能寺、本能寺」
「なんやねん、その返し。信長おこるで」
「本能のままに生きとったから裏切られたっちゅう教訓やな。ええ話や」
「その通りやったら、サトシもいつか裏切られるんやな」
「ほんまやなあ、怖いわあ。ミュージシャンなんて目指すもんやないな」
「ほんだら動機を変更したらええねん。音楽が好きって気持ちはあるんやろ」
「でも、それって、音楽を好きって気持ちも本能のままってことになるんちゃう?どっちにしろ裏切られるで」
「モノは言いようやな。すべての理由がそうなってしまうやん」
「嫌々やったらええんかな。しょうがねーけどー、ミュージシャンやってますーみたいな」
「裏切る前提がダメやろ。そんなもん跳ね返したるぐらいの気概でやったらええやん」
「それ肯定したら、性欲がまた戻ってくるで。振り出しに戻ってしまうわ。ファン犯さなあかんくなる。ファン可哀想やん」
「お前の性欲を落ち着けろや。めんどくさいのう。もう動機はええわ。理解しようとしてするもんでもないやろうし。要は曲さえ良けりゃええんやろ」
「そやかて、愛は世界を救うんやろ?ミュージシャンもよく歌ってるやん。愛を育んでいこうや。ラブアンドピースやで。世界平和に貢献しとるんよ」
「めっちゃオブラートに包んできたな。そんな不純にまみれた愛で世界救えるかいな」
「てっちゃん、あんな、救える、救えないの話やないんや。救う、という気持ちを持つのが大切なんやで」
「犯したいだけのやつが何いうてん。頭いっとんか」
「理由はどうあれ、とにかくなんか曲つくらんことにはなんも始まらんよな」
「まずはコピーバンドとかやったらええんやないの?いきなりオリジナルはハードル高すぎひん」
「コピーバンドかあ、そうやなあ、うん。それは入り口として良さそうや」
「なんか好きなバンドあるん」
「うーん………the pillowsなんてどうや」
「お。the pillowsかあ。ええな。かっこええやん」
「せやろ。かっこええやろ。オルタナティブロックがええよな」
「あんな長年バンドやっとるのに知らん人けっこう多いもんなあ。武道館もやっとんのにな」
「せやなあ。あーでも、ダメや。やめやめ。やっぱやめとこ」
「なんでや」
「いや、the pillowsを俺で汚したらあかんなと思って」
「清い心あったんやね」
「汚れてもいいバンド選ばなあかんな。何があるやろ」
「どのバンドあげても怒られるで」
「星野源とかやったら許してくれそうやん?」
「ファンに殺されるぞ」
「それはあれや、星野源が守ってくれんねん」
「星野源はお前のなんやねん」
「そこはもうあれや、保護者的な。うん、そうや、きっと。星野源なら守ってくれるはずやねん、たぶん」
「誰がこんなカスの面倒みんねん」
「もう、何やっても怒られるなあ。ミュージシャンしんどいわ」
「それならええ方法があるで」
「え、なになに。教えてや、てっちゃん」
「ならんとったらええねん」
「うわー。そら、根底から覆してきたなあ。一瞬でバンド解散やなあ」
「活動なんもしてないしな」
「解散理由はなんやろ。音楽の方向性の違いかな。何がええやろ」
「方向性も何もなかったけどな。理由は後からついてくるもんなんやろ?」
「ああ、そうやったそうやった。忘れとったわ。もういいわこれ。しゃべっとったら、腹へってきたなあ。ハンバーグでも食べよか」
「ヘビーローテーションやんけ」