素敵に困る
「困ったなあ、困った」
「どうしたんやサトシ」
「どないしよ、ほんま困ったなあ」
「なにがや」
「てっちゃんに言うてもどうしようもないしなあ」
「言うてみい。話はそれからや」
「えー?でもなあ」
「言わんとわからんやろ」
「それなら言うけど、困ったことがないねん。やから困ったなあ思て」
「ほんまにどうもしようないな」
「そうやろ?」
「そうやな」
「役立たずのゴミめ」
「思ったよりもひどいフレーズ飛んできた」
「困った人の気持ちになってみようと思ってな、困ったふりしようとしてるんやけど、困った人は何に困っとるのかがわからんくて困っとんねん」
「ややこいな。何がなんだかわからんくなりそうや」
「てっちゃん最近困ったことあるか?俺が代わりに困ったげるで」
「困ったことって言われてもなあ」
「ほら、思い出してみい」
「…うーん……あったかなあ」
「あるある。てっちゃんはやればやれる子」
「そんなこと言われてもなあ」
「あ、下ネタちゃうからな」
「黙っとけや」
「てっちゃんのおかん、平賀源内に似てない?」
「うるさいな!似てるか!」
「この前、光秀が本能寺ったの誰やっけ」
「たぶん信長やろ!」
「この前、アナル拡張せんとって困ってたん誰やっけ」
「マジで誰やねん!」
「興奮せんと。心を落ち着けてな、自分の精神と会話すんねん」
「抽象的すぎるわ。そんなんで解決するかいな」
「お?今、困ってへん?」
「ああ……ん?まあ、そうやな」
「てっちゃんも困ったことがなくて困っとるやん」
「そらお前が言うたからやろ。そんな急に言われても困ったことがパッと浮かばんかったんや」
「もっと時間かけたらでてくるか?」
「そやなあ。多分でてくるんちゃうか」
「便秘の女子みたいやな」
「なんでそんな事しよんかしらんけど、困っとったんはお前やぞ」
「論点のすり替えってやつですか。やれやれ」
「お前、困る気ないやろ」
「せやから言うてるやん。困ることがなくて困ってるって」
「自分から悩み見つけに行くとかアブノーマルやな」
「困ったもんやで。悩みがあるだけ贅沢ってやっちゃな」
「そうかあ?悩みなんてないほうがよくないか」
「じゃあ俺ら二人、逆に贅沢ってことやん」
「まあ、そういうことになるな」
「よっしゃ贅沢にステーキ食べいこか」
「金ないわ」
「平気へーき。ちょいと捕まっときゃ無料でステーキ食えるんやで」
「破天荒すぎるやろ。それこそ困ったことになるやんか」
「そうやな。どう逃げるかやな。どうせ捕まるなら店の商品全部頼もか。一回やってみたかってん。店員さーん!肉!全部!って」
「金用意するのに困れよ」
「いやあ、それもそうやねんけどなあ。でも無料で食べるから美味しいんやない」
「どこも無料で提供してへん」
「ステーキハウスに強盗して肉泥棒するとか」
「嫌やわあ。そんなんで捕まりたくない」
「履歴書に元肉泥棒ってかけるで」
「誰が雇ってくれんねん」
「そら、精肉屋とか」
「一番ダメなやつやん」
「奥さん!今日は特別にA5ランクのお肉仕入れたよ!」
「産地以外も偽装してそうで安心して買えんわ」
「肉棒ついとるくせにやかましいな」
「お前もついとるやんけ」
「俺の肉棒のなにをしってんねん。懇切丁寧に長年、個人面談をして鍛えてきたんやぞ」
「めっちゃオナニーやん、それ」
「そやねんけどな、なかなか就職先が決まらんねん」
「はあ?お前、職探しとったんか」
「そや。職っつうか、穴っつうか」
「ああ、そっちの」
「符号する案件がなかなかなくてな」
「なんでさっきからちょっと難しそうに言うねん」
「やり場を無くした憤りはどこに行けばええんや」
「風俗いけよ」
「アホか。風俗気軽に行けたら、今頃ステーキ食えとるわ」
「ああ、ほんまやな。結局、金や」
「そやねんな」
「けっこう困ったことでてきたんちゃう。金やろ、女やろ、あとはギャンブルでもあったら役満か」
「ギャンブルはなあ。生きとること自体がギャンブルやからなあ。神様もようこんな畜生を産み落としたもんやで」
「最大の失敗やろな」
「せやんな。年金生活しとるくせに、もっと仕事せえよ神」
「めっちゃ質素な暮らししてそう」
「いやいや。俺らにはそう思わせといて、ステーキ食いまくっとるで。あのハゲ」
「お前はどの立場から言ってんねん」
「いや、もう、ほんまあれやから。両手に巨乳のビキニギャルはべらかせて、眩しくもないのにサングラスかけて、偉そうにステーキ食っとるで」
「それお前の願望やろ」
「ちょっとぐらいなあ、わけてくれたってええやん」
「何をするにも金や。金さえあればできるやろ」
「はあ、もう、てっちゃん。金の亡者みたいなこと言わんと」
「せやかて、それが現実やろ」
「俺は無料でステーキ提供してくれて、無料で優しいギャルつけてくれて、無料でサングラスかけてくれるのがいいんや」
「サングラスで突き刺されそう」
「できればそれはギャルにやって欲しいん」
「追加料金やな、それ」
「また金かい。すべての問題は金で解決できるって?え?そういうことか」
「できんやつもあるやろ。人間関係とかどうすんねん」
「そんなもん、人間関係も大事になったら裁判して金で解決しとるやんけ」
「一概には言えんやろうけど、金にかわるもんがないやろうしなあ」
「金、金、金。世の中すべて金!」
「ほんならお前は何が欲しいねん」
「ステーキや言うてるやろ!」
「いつからそんなステーキに熱くなったんよ」
「俺の心の鉄板が熱くなってホニャラララ」
「最後まで言えや」
「言うのめんどくさくなったんや!」
「じゃあサトシは誰かともめて、解決したあとステーキもろたら納得するんか」
「わしがもめるのは乳だけじゃ!」
「どういうことやねん。心を落ち着けて、精神と会話する言うてたの誰や」
「ステーキや言うてるやろ!」
「ダメや、これ手遅れや」
「ステーキや言うてるやろ!」
「まだ何も言ってへんねんけど」
「今、あれやねん。ステーキ欲が爆発して、口にステーキ放りこんでくれんと、返事が全部「ステーキや言うてるやろ!」になってしまうやつやねん」
「普通にしゃべれるやんけ」
「あ、しもた。一回仕切り直そ」
「やめろや。あの変な状態にもどんなや」
「そこはてっちゃんの技量にかかっとるんよ。上手いこと会話文が繋がるようにやりくりしてや」
「難題すぎるわ」
「ステーキや言うてるやろ!」
「ああ、やばい。始まってもた。どうしたもんなんやこいつ」
「ステーキや言うてるやろ!」
「そやな」
「ステーキや言うてるやろ!」
「あ、タバコきれてるわ」
「ステーキや言うてるやろ!」
「買いに行くのも面倒やなあ」
「ステーキや言うてるやろ!」
「風呂でもはいるか」
「寂しいやろ!」
「心おれるのめっちゃ早い」
「そこは安心して。瞬間接着剤より早くくっつくねん」
「そんまま折れとけや」
「ステーキ、ステーキ言い過ぎて、ステーキ過多や」
「いつかステーキが風評被害うけるで」
「ほんまや、そうなる前にステーキ食いに行かんとな」
「それ、話が堂々巡りするからやめれ」
「せやな。そんなステーキ食べたいわけでもないし」
「どないやねんお前。さっきからステーキ連呼しとったやつがよう言うわ」
「ノリやろ、ノリ。おまんこって叫びたくなるのといっしょみたいなもんや」
「お前ほんまにいつか捕まりそうやな」
「捕まったら、カツ丼やなくてステーキ頼んだるわ」
「二度と出てくるなよ」
「それは困ったなあ」