ウェイトレスとカレー
「今日てっちゃんあの日やん」
「どの日や」
「ほら、男の子なら月に一度くるあの日や」
「なんやその、生理みたいな日は」
「あははは。おもろいわてっちゃん。男の子がなんで生理やねん」
「うっさいボケ」
「ほな二人でナプキン買いに行こか」
「やかましいわ。結局なんやねん」
「月に一度いうたらあれやろ。ウェイトレスになる日や」
「そんなもんあるかい」
「ガラガラガラ、ひとりなんですけど」
「勝手に始めんなや」
「けったいなウェイトレスやなあ。食べログに悪口かいといたろ」
「ちょお待て。食べログになに迷惑かけとんねん」
「そんなんええやろ。配送遅いだけでAmazonに苦情が溢れる世の中やで」
「ようないわ」
「ウェイトレスのコスプレしたおっさんがギャルになりすまして生意気な態度とってるんやから苦情ぐらいいれたくなるわ」
「さらっと追加でギャル要素プラスすんなや」
「しゃあないな。仕切り直しや、今度はちゃんとやってや」
「ほんまめんどくさいの」
「ガラガラガラ、ひとりなんですけど」
「じゃあ帰れや」
「【拡散希望】てっちゃんはSっぽく見えるけど、M性感が大好き」
「なに呟こうとしてんねん。殺すぞ」
「【拡散希望】強い言葉を吐く程、撃たれた時が快感」
「スマホ叩き割るぞ」
「てっちゃん、あんな。唯一無二の親友が困ってんねやんかあ。それを助けてやろうって気持ちにならへんの」
「唯一無二の親友がこれとか先が思いやられるわ。そんでお前は何に困ってんねん」
「性癖やろ」
「正論すぎて返す言葉がないわ」
「お互い様やんな」
「新規契約するたびにスマホ粉砕するからな」
「スマホは傷つこうとも、俺の心はそんなことじゃ砕けないよ」
「めっちゃかっこええこと言うたみたいな顔すんな」
「まあそうやねんけど。頼み事があんねん」
「なんや」
「ウェイトレス役やってくれへん」
「最初に戻っとるがな」
「お願いやで、てっちゃん。一生のお願いや」
「そんなことに一生のお願い使うなや」
「かまへんかまへん。一生に一度のお願いやあらへんから、何回でも使えるやつやねん」
「ありがたみまったくないな」
「おう、そうやで。ちょっとつき合うてや」
「付き合うまでこの話題終わらさん気やろ」
「ガラガラガラ、ひとりなんですけど」
「いらっしゃいませ」
「うーん。あっちのギャルの子にチェンジで」
「おい、こら。なにしとんねん。なんの店やここは」
「ファミレスに決まっとるやろ」
「ウェイトレスをチェンジさせるとかどういう客やねん」
「わしかてトキメキたいんや。ちょっとぐらいええやろ」
「ほんなら俺は、なに役やねん」
「チェンジさせられるブスのギャルや」
「いらんやん、そんなやつ。最初から美少女とかそういう設定にしとけや」
「てっちゃんは文句多いなあ。ほんなら、そうしようか」
「俺がお願いしとるみたいやんけ」
「ガラガラガラ、ひとりなんですけど」
「いらっしゃいませ」
「おう、しゃぶれよ」
「切り落とすぞカス」
「しゃぶログに書き込むぞこらぁ!」
「なんやねんその卑猥なサイトは」
「しゃぶしゃぶの評価を書き込むサイトだこらぁ!」
「一見、健全そうなサイトみたいに言うなや」
「話すすまへん。いつまでたっても入り口たっとるんやけど。いつになったら席まで辿りつけるん。このままじゃ足が棒や」
「ほぼお前のせいやんけ」
「じゃあもう席ついたところから始めよか」
「ほんなら注文聞けばええんやな」
「すいません、店員さん注文いいですか」
「はい、お伺いします」
「てめえじゃねえよブス」
「おいぃぃぃ!ブスの設定また復活しとるんか」
「ブスに失礼な」
「お前が失礼なんじゃ」
「わかったわ、もう。すいません、店員さん注文いいですか」
「はい、お伺いします」
「店員さんのおすすめありますか」
「そうですね、期間限定のシーフードドリアなんかどうでしょう」
「じゃあカレーで」
「こら!オススメぶった切ってカレー頼むなや」
「なんかてっちゃんがノリノリやったから腹立って」
「お前がやれ言うとるからしょうがなくやっとんねんぞ」
「でも調子のられても困るっていうか」
「お前の注文にあわせるの難しすぎるわ」
「うわーそら、うまいこと言うたな。注文の文句の注文にあわせるの難しいて」
「あーしもた。余計な一言や」
「じゃあもっかい頼むで」
「いつ終わんねん」
「おい、ブス、注文よろしいか」
「よくねーよ!はよ注文しろや」
「そうやな、おすすめはあるか」
「シーフードドリアなんか、どうや」
「そら上手そうやなあ。じゃあカレーで」
「結局カレーやんけ!」
「そらなあ。カレーやで?カレーに勝るものってある?」
「あるやろ。探せや」
「そうやってたくさん注文させてお金しぼりとる気?」
「それはちゃいますけど、他にも美味しいものたくさん取り揃えてますよ」
「そんなら店員さんがこの店でカレーより美味しいってものを教えてもらおうか」
「そうですね……和風ハンバーグ定食はどうでしょう。当店で大変人気でございますよ」
「カレーにハンバーグ入れたほうがええやん」
「では、マルゲリータなんてどうですか。熱々のチーズがとろーりと溶けて美味ですよ」
「カレーつけたらもっと上手そうやなあ」
「あぁぁぁああもぉぉおおカレーくっとけ!!」
「最初からカレー注文しとるんやけど……」
「そうやったわ。もうわけがわからんくなっとる。ほんならカレーやな。もうカレーでええんやな。カレー注文するからな。変更聞かへんからな」
「男に二言はない」
「頭からカレーかけるぞ」
「さすがにそんな性癖ないわ」
「お前なら言い出しそうで怖いわ」
「頭おかしいやつやん」
「自分のこと正常とでも思っとったんか」
「人間誰しもそう思っとるもんやで。おかしいのは周りやってな」
「哲学くさいのう」
「途中で間違いに気づいても都合の悪いことには目をつむり、自分の正当性を意気揚々と、偉そうに貫き通そうとするから争いごとが起きんねん」
「キャラチェンジしたんか」
「ちゃうやろ。もっと俺らは俺らのことを考えないかんねん。自分のことからは目を背けて、他のことばかり評価したがるから荒れるんや。行動原理を辿れば結局自分が可愛いだけやねん」
「どうしたん」
「カレーはよもってこいブスってことや」
「どんだけブスに辛くあたんねん」
「自分は可愛いけど他者には辛辣に当たるって言うたやろがい!」
「そこで、それもってくるんや。美人にはどうすんねん、それ」
「俺って美人には弱いところあるやん?」
「知らんし。ヘタレか」
「これがネット社会が作り上げた産物やで」
「ほんまクズやなあ」
「クズでも腹は減るんや。はよカレー持ってき」
「やかましい客や。ほら、カレーや」
「ええ匂いや。やっぱりカレーは食欲をそそるな。どれどれ。お、なんやこのカレー。めっちゃうまいやん。これ隠し味に何つこてるんや」
「しらんがな。死ねカス」
「痛烈なスパイスやな。こりゃ食が進むで」
「ただのMやんけ」
「やっぱりシーフードカレーはええな」
「普通のカレーやぞ」
「うるさいウェイトレスやの。なんで客が食べてる時もべったりくっついとんねん」
「はよ食い終われや」
「カレーは飲み物ちゃうねんぞ。そんな早く食い終わるかい。味わって食せなもったいないやろ」
「なんのこだわりがあんねん、その小芝居に」
「このカレーはな、シェフがめっちゃ研究して作り上げたカレーやねん」
「なんで客がシェフの事情しっとん」
「いや、うまいから、多分そうやろっていう」
「そこはそういう設定でってことでええやろ」
「ああ、そうやな。シェフがめっちゃ研究して作り上げた渾身のカレーや。秘伝のなんかアレが入っとるんやろ」
「なんやそれ」
「カレーのスパイスとかようしらんでな。きっとなんかうまいやつが入っとるんや」
「見切り発車しすぎやろ」
「うまいやつにうまいやつプラスして、さらにうまいやつの出来上がりや」
「めっちゃ小学生みたいなこと言い出したな」
「カツカレーかてそうやって生まれたんやろ」
「俺はソースカツ丼のほうが好きや」
「そこにカレーかけたらもっとうまくなると思わん?」
「わざわざ切り離したのに、もっかいくっつけようとすんなや」
「じゃあ逆に考えたらええねん」
「どこを逆にするん」
「もともとカツカレーだったものが、カツとカレーに別れた」
「歴史の授業みたいやな」
「そうや。カレーの歴史は古いで」
「どんなんがあるん」
「具体的な質問はNGや」
「お前なんも知らんだけやろ」
「よっしゃ、カレー完食や」
「しゃべりながら食っとったんかい」
「しゃあないやろ。店員さんがずっとしゃべりかけてくるんやから」
「そら、すんません。ではお会計がこちらです」
「え?カレー食べただけなんやけど」
「どういう理屈でキョトン顔しとんねん」
「店員さん、なんでそんなイライラしとるんですか。あ、もしかして…」
「なんや、言うてみろ」
「生理ですか」
「どつきまわすぞ」