トンネルのギャル
「ほんまやなあ、てっちゃん」
「まだなんも言うてへんがな」
「いや、しかしやで。心霊スポットってあるやん」
「その前に、どこから「しかし」きたんや」
「この前な、友達と行ってん。地元で有名な心霊スポットある言われて。ほら、あそこ、あのあそこらへんにあるトンネル」
「めっちゃ適当やな」
「いやーもう怖いんよ。トンネルの中に恐る恐る二人でな、懐中電灯照らしながらそろーっと入っていったんやけど、真っ暗なんよお」
「そらトンネルやから暗いやろ」
「それだけちゃうんよ。古くさいトンネルでもうめったに車も通らんと、整備も行き届いてないようなところやから明かりも何もついてへんの。俺らの懐中電灯の明かりだけしかあらへんから、もうそりゃあおどろおどろしいんよ」
「ようそんなとこ行ったなあ。ほんまにお化けでそうやな」
「そうなんよ。なんかトンネル自体が苔むしてて不衛生やし、急に明るいところから暗いところに落とされたみたいでな。お化けの集合場所にピッタリなんよ。ここで集会でもやっとるんちゃうかってくらい絶妙なスポットでな」
「そんで、そこにどんな幽霊がでんねん」
「もうそらあ、あれよ。うわーってなって、がばーってきて、ぐわあああって追いかけてくるやつやん」
「急に説明雑になったな。トンネルの雰囲気語っとるときのお前どこ行ったん」
「そんな幽霊なんてじっくり観察してられへんやろ。SNSでもしとったら少しは特徴つかめたんやけど」
「でもサトシの友達から聞いて行ったんやろ。その友達はなんて言うてたん」
「あのトンネルにギャルの幽霊でるからナンパしたろって言うてただけやから、詳しくはわからへん」
「どこ情報やねん。ギャルの幽霊」
「確かめなあかんやろー。ギャルの幽霊やで。もしそれが誤情報でギャルがAV撮影しとるだけかもしらんやん。この目で確かめたるわ!って二つ返事でOKしたったわ」
「AV撮影期待しとるだけやろ」
「ちゃうねん。そんなんこの際もうどうでもええねん。ギャルやったらもうええねん」
「心霊スポットに何しにいってんねん」
「あ、そうやそうや。心霊スポットやから逆に普段は人が近寄らんと、撮影には丁度ええんかもらんしな」
「お前やっぱ心霊よりもAV寄りやんけ」
「いやまあ少なからずそうというかもやけどな。まあ、今はそんなんどうでもいいねん。そのトンネルに友達と入って恐る恐る進んでたんよ。どこまで行っても明かりが見えへん。お先は真っ暗な空間がずっと続いてたわけや」
「気が滅入りそうやなあ。そこそこ長いトンネルやってんな」
「そうよ。もうなかなか何も見えてこーへんやろ。何もないから何も起こってへんのやけど、それが逆に恐怖心を煽るっていうか、絶えず緊張感が続くっていうか。歯がガタガタ震えだしてんねん。うっわ、めっちゃ怖いわー。こんなんお化けでても全然不思議やあらへん。全身全霊でちびる自身あるわーとか思ってたら、ぽたっ、ぽたっと水滴が落ちてくる音がしたんよ」
「おーいよいよやなあ。そろそろ出まちのギャルもでてくるんか」
「そうや、もう、雨なんか降っとらへんし、夏でカラっからに晴れた日やってんけどな、どこからともなく水滴が落ちる音がしてくんねん。てっちゃんの言う通り、いよいよや。いよいよ何かしら起こるんやないかと友達とブツブツ言いながらその場に立ち止まって、引き返そうかと相談しててん。怖いもの見たさで来たはずなんにな、いざその場で目的を目の当たりにしようとすると逃げ出したくなってん」
「おう、あるなあ、そういうこと」
「そしたらな、友達が言うてん」
「なんて」
「お前ちびっとるぞって」
「ほんまにちびっとったんかい」
「そう、びっくりしたわあ。まさかほんまにちびっとるとはな」
「びびりすぎやろ。もしかして、その水滴が落ちる音もお前のしょんべんか」
「そうよ。夏やったから全裸でトンネル入ったんが行かんかったわ」
「いや、理由になってへんけど。夏なら全裸でトンネル入るとか初めて聞いたわ」
「やから直に道路にしょんべんが俺の股間から雫となって落ちててん」
「うっわきったないわあ」
「どおりで水滴が落ちる音が急にしだしたと思ったわ。あ、でも、心配いらへんで。全裸やけどちゃんと靴ははいとったんやからな」
「お前ほんまAV撮影してたら参加しようと思ってたやろ」
「そんなわけないやん。俺はマナーがしっかりした男やで。ちゃんと参加する前に金額交渉するわ」
「どの立場から全裸の男が言っとんねん。そもそもなんで全裸やねん」
「ええやろ、それは。ギャルの幽霊も相手をびびらせよう思てるんやろうから、こっちもびびらせようとして二人で全裸になって挑んでたんや」
「お前らまわりから見たらホモやぞ」
「でも暗闇の中からそんな二人があらわれたら恐怖やん。怖いよな」
「そやな。別の意味で怖いわ。ていうかなんで自分らがびびらす側をやろうとしてんねん」
「やられっぱなしじゃ男がすたるもんな」
「まだやられてもへんやん」
「用意周到て言うてくれや」
「全裸がすべてを無効化してまうわ。用意周到もあらへん」
「ほんまなあ。まさかその弊害でちびった音にびびるとは思わへんかったんやもん」
「今んとこアホなことしかしとらんぞ」
「いや、もうちょい待ってや。ここからが本番やねん」
「お、まだ話の続きあるんかい」
「あるがな。このままで終われるかい。この気持ちどこにぶつけたらええねん」
「ほんで、どうしたん」
「友達が俺の股間を照らしよるからな、俺も友達の股間照らしてやってん」
「やっぱりホモやんけ」
「そしたらな、友達もちびっとん。ダブルおもらしや。めっちゃおもろいやろ」
「小学生か。どこがおもろいねん。おっさん二人で何しとんねん。完全に不審者やろ」
「それでな、笑い転げた俺らは強気になってん。もう怖いもんなんかあらへんって」
「勇気づけるエピソードしょうもなさすぎひん」
「ええやろ。そんな些細な事でも勇気でるって素敵やん」
「無理矢理ええ話の方向に持って行こうとすなよ」
「さあ、こい!ギャル!何がでてきてもびびらへんで!俺らはもう怖いものなんてあらへん!不衛生な撮影場所でも平気や!ってな」
「こんなアホを相手にせないかんギャルが可哀想やわ」
「不思議とな、勃起してきたんや。胸の高鳴りというかな、この先の困難に立ち向かうと思うとな」
「あんま不思議ちゃうけどな」
「さっきまで恐る恐ると歩いてたんとちゃうねん。勇ましく堂々と俺らはトンネルを歩き出したんや」
「まず全裸をどうにかせえよ」
「そしたらな、なんや向こうから明かりが見えるやないか。お?これは」
「お、なんや。まじでなんかあったんか」
「向こうから明かりが近づいてくんねん。これは、ギャルちゃうかって思って友達と興奮してん」
「幽霊探す気なくなっとるやん」
「どんどん明かりが近づいてくる。俺らもそっちに近づいていく。やがて光が大きくなりだしてな。相手の顔が見える距離になったん。懐中電灯を俺らが相手にかざすと同時に、向こうもこっちに懐中電灯を向けててな。そらもう、お互い「うわあああああ」や」
「公然わいせつ罪やぞ、お前ら」
「ギャルやと思てたら、ほぼゴリラが二匹やねん。ほぼ人間の形したメスゴリラ」
「全裸のくせに失礼すぎひん」
「もうびびって腰抜かしてしもうたわ。ほんだら、銃声が「っぱぁん!!!!!!」って響いてん」
「はあ?銃声?やりすぎやろ」
「うわ、殺されるかと思ったわ。相手はおおよそゴリラやけど、お互い人間やん?それなのに銃で撃つか?って。でもな、そのゴリラをよう見ても銃なんて物騒なもんもってへんねん。ていうか、俺らを見てびびったかと思うと奇声をあげながらすぐ引き返して行ったんや」
「ほう、ほんで。銃声はなんやったんや」
「そう、不思議やってん。狙撃されるにしてもトンネルやん?どこから狙ってるんやろって思って懐中電灯振り回して探したわ。でもそんなん何も見当たらへん」
「それはほんまに不思議やな」
「そしたらな、ぷ〜んと匂ってきてん」
「なにが」
「俺のオナラや」
「お前のオナラかい」
「そうや。どうやら驚いた拍子に腰抜かしたせいでオナラが地面と圧縮されて、トンネルという空間に反響してもうてな、盛大に響き渡ってしもたんや」
「そんなことあるか?」
「そら、俺かて信じられへんかったんやけども、あの時はゴリラにビックリしとったからオナラをしたことに全然気づかへんかったんやもん」
「迷惑なやっちゃなあ」
「ほんまやで。俺でなかったらあの匂いが俺のオナラって気づかんかったで」
「そらお前のオナラやからやろ」
「ほんまやなあ、てっちゃん」