7 改造と勝利
そのころ、上空では。
「え、ぇえ!? どっち、どこですかぁ!? う、撃っちゃいますよ! え、えいっ!」
ダシュダシュダシュ! ガシュガシュガガガガ! 機械音とショックが響く。機体が震える。
夜空に曳光弾の鮮やかなオレンジが、筋を描いて二条、飛びさる。
二一型の、7.92ミリ機銃弾だ。
しかし敵をとらえるにはとうてい至らない。
空しく弧を描くと、闇へ消えて行く。
そのうえ、とにかく危なっかしい。
こんな状態で敵を補足し、照準にとらえて銃撃するなど、
「ぁあん、無理! こんなのぜったい無理ですー!」
それは、飛び立ったばかりの隼も同じ。
「ぁぁあああ、どこ、どこ? どこなのよ! 二一型のくせにちょろちょろしてんじゃないわよ! このあたし、隼の上昇力を見なさいよ、ほら、ものすごいんだから……って、ぁあああ、急降下してたぁあ!」
ほぼ、ふらふらと飛び続けるのがせいいっぱい。
それでも偶然、
「いた! いました、あれは……隼さん!?」
「いたわ! 逃がさないわよ! 二一型!」
ごく間近でお互いを視認し合う。
好天で月がかなり明るかったのが幸いした。顔までも見える。
が、そこまで。
「敵って、隼さんだったんですか!? 戦車さんを連れて来たのも」
「戦闘中にごちゃごちゃうるさぁい! さっさと当たって、落ちなさいよ、ほらほらほらぁあ!」
ガシュガシュ、ガガガガ! 先に撃ったのは隼だ。
「きゃああっ!」
ドンドン、ドンッ! 驚いた二一型が、ついトリガーに手を掛けたのは二十ミリ機関砲だ。
7.92ミリ機銃とは、破壊力も発砲音もまるで異なる。
大口径弾を二丁、同時に発射するといっしゅん、急ブレーキを踏んだようなマイナスGがかかって、二一型は前へのめる。
しかし、当たらない。
当たるはずがない。
二十ミリ弾の曳光弾は、大きな火球となって、しかし急速に落ちて行く。
「あはは! デカいからっていいってもんじゃないわよ! そんなしょんべ……お、お小水みたいな弾なんて、当たるもんですか! 針の穴を通すような、あたしの精密な射撃を受けなさよね!」
しょんべん弾、と言いかけて顔を赤くし、言い換える隼。
「ふええっ、弾は当たらないし、当たる気もぜんぜんしませんよぉ。こんなの、どうしたら!」
お互い、意地で飛び続けている、そんな現状だ。
そんな夜空の中の戦いを見上げながら、
「なんだかチハ、そろそろ帰りたくなって来ました」
「えー、はーたんもっともっと撃ちたいぃぃ! ふひゃ? 撃たれたぁ? 向こうのほう、撃って来たでし!」
チハとハ号の戦意が微妙に低下する中、二二型と三二型の反撃もまた、間近へと届きつつあった。
「こう、か」
防人の手が五二型の傷口に当てられている。その手のひらからは金色の粒子が漏れ出し、傷口からあふれていた赤い粒子は減っていた。
「いいぞ! このまま流出を止められれば」
九九艦爆は言うが、
「やっぱり、補給漕に入ったほうが……。さつき、どうなのですか?」
九七艦攻は心配げに尋ねる。ふたりともに、ずっと五二型の手を握っていた。
「ああ。ずいぶんいい。もう痛みも、ないようだ」
「マジか。よぉし!」
防人は張り切るが、
(もしかして、もう痛みの感覚もないとか、そういうことじゃ……い、いや! 考えるな、悪いふうじゃなく、自信を持って、オレが直す……治すんだって!)
思い直し、集中する。
両手を五二型の傷口を塞ぐように当て、目を閉じる。
(オレはできる。やれる! オレはこの世界の補給係、補給車だからな!)
防人の知る、PCやコンシューマー系のウォーシミュレーションゲーム。
補給車が接触すると、次のターンでユニットは燃料や弾薬が補給されるだけでなく、ダメージも回復した。
あんなふうに。
五二型の傷を必ず治す。
治して、もとどおり飛べるように、もとどおりの、五二型に!
「おっ! なんだか」
「出て来た? 実体化した、のでしょうか。わたしたちの飛行デバイスみたいに」
一心に治癒・修理に集中する防人から、陽炎のように金の粒子が立ち上る。それはおもに背中で実体化し、何本もの作業アームとなる。
「あれで、治すのか? でも、どうやって」
「見て! アームの先端が」
ふたりの見守る中、実体化した防人のアームが五二型の身体に触れる。と思うと、そのまま、服の上から埋まり込む。
服を破っているわけではない。その下の皮膚も突き抜けているが、血のような赤い粒子は出ない。
魔法か手品のように、細かいマニピュレーターのような先端を持つロボットアームが、五二型の身体の中へと埋没していた。
この間、防人にも変化があった。
五二型の身体の中、その血流のような流れや、臓器なのか機器なのか、その鼓動、脈動を手に取るように感じられる。
(これがさつきさんの、中、なのか……なんだか、あったかいな)
まさにロボットアームは、防人の手の延長であり代わりだった。
「完全に、流出が止まったぞ!」
「肌に赤味も。手が、あたたかくなって来たの!」
九九艦爆、それに九七艦攻が興奮したように言う。
それは、防人にとっても、
「ああ。なんだかうまく言えないけど、いい感じだ。さっきまでの、不安な流れや澱みがなくなって、さつきさんの中が、生き生き、ピチピチしてるっていうか」
(それに、オレのほうも……こう、ムズムズするのが、すーって抜けるような……気持ちいい……!)
「もう、いい」
不意の声で、防人は我に返る。それほど没頭していたのだ。
声の主はもちろん五二型だ。
見ると、身を起こそうとしているから、
「動くなよ、さつき!」
「まだ、じっと安静にしていたほうが……ぁ、でも」
止めようとする九九艦爆。九七艦攻が、けれど途中で気づき、声を上げる。
「もう、傷は心配ない。そうだろう」
五二型の言うとおりだった。
切り裂かれたフライトジャケットはそのままだが、その下、健康的な皮膚が傷跡もなく回復している。
「治ったのか、さつきさん!」
(よかった……やった!)
防人も心の中で喝さいを叫ぶ。
「ああ。もうすっかりいい。最悪、助からないか、助かったとしても数カ月は補給漕に閉じ込められる傷だった。礼を言う、防人」
地面の上、座り込むように身を起こした五二型が、防人に向き直っている。
「ああ。礼なんて、いい。オレもうれしいんだ。すごくうれしい! この世界で、オレが役に立った!」
(オレはみんなを、助けられるんだ。ちくしょう、マジうれしい!)
誰かのためになる。誰かを助ける。それがいま、防人にはできる。この世界では、それができる!
「いや、防人はわが部隊の所属ではない。わたしの部下でもない。礼は言わせてもらう。ありがとう」
五二型の目が、まっすぐに防人を見つめる。その唇が、微笑んでいる。
「お、おう。うん」
防人はなぜかドキドキした。早まる動悸を、顔を背けてごまかす。
が、その手を、五二型に握られる。
「えっ」
「ときに防人、もうひとつ、頼まれてくれないか」
「いいけど、なんだ。もう傷は治ったはずで」
「うむ。傷はもう完調だ。それとは違う。ここに、防人の手を触れてほしい」
そう言うと五二型は、自分からフライトジャケットの前を広げた。
「わっ」
「きゃ!」
目を見張る、九九艦爆と九七艦攻。その頬が赤らんで、九七艦攻など、口を思わず押さえる。
五二型は、フライトジャケットの下に、下着をつけていない。入浴中の襲撃だったからで、下半身もショーツだけだ。
五二型の裸の胸が、すっかり露わになっていた。
推定Cカップは下らない、きれいな稜線を描いたふたつの膨らみ。みずみずしく張り切って、ピン、と頂点を尖らせている。
「お、お、おい! ぃ、ぃきなり、なんだよ、どうしたんだよ、さつきさん、しまってよ、胸を、おっぱい、しまって!」
動転する防人。
舌ももつれる。あわてて目をつむったが、まぶたの裏には五二型のバストがくっきりと写し出されて消えない。
(お、おっぱい! おっぱい、初めて、見た! ぁ、いや、母ちゃんのとかはナシで! 抜きで! 初めて女の人のおっぱい、こんなきれいなおっぱい、初めて)
「なにを驚いている。ここに手を当てろと言っている。いや、当てて、つかんでくれ」
「ほぉわわ!? み、見るだけじゃなくて」
(いきなりBか、いきなり、おっぱいモミモミ体験かぁぁああ!)
腰が逃げかけの防人に、だが五二型はあくまで真剣だ。
「たのむ。わたしの胸に……心臓に、触れてくれ。そしてわたしを、改造してほしいんだ」
「あっちから回り込むわよ。三二……やよいは、牽制して!」
「は、はい、りょうかい、です」
二二型の言葉に、三二型が応える。
本来、戦闘機の彼女たちが、機関銃や歩兵銃をかまえ、手榴弾を手に戦うのはいかにも不似合いだ。
しかし夜ではしかたがない。
無謀に飛びあがって損害を増やすようなことはできない。つつましまなくては。
闇の中へ溶けて行く二二型の後ろ姿を視界の隅にとらえながら、三二型は機関銃を握りしめる。
その唇が、
「……やよい、いい、名前」
はにかむようにつぶやいた。
そのとき、
「ぇ?」
背後からエンジン音。そして、翼を広げ、低空からいっきに駆け上って行く影。そのプロペラの後流に髪を乱されながら、
「にい子……違う、誰?」
翼端灯の赤と緑を追いながら、三二型は夜空をあおいだ。
「そこ! 動かないでください、いま……きゃぁああ!」
「動かないバカなんていないって言うの! そっちがさっさと落ちなさいよ!」
空の戦いは、相変わらずお互いに決め手なく、ふらふら、ゆらゆらと飛びながら、ときおり機銃を打ち放つのみ。
とうぜん、当たらない。
なにしろ墜落しないよう飛ぶのでせいいっぱいなのだから、命中するわけがない。
そろそろ飛ぶための燃料も尽きかけ、機銃弾もとぼしくなって、
「ちっ! いったん、降りるしかないって言うの? ……でも、降りるの、怖い!」
気の強い隼でさえ、照明のない地表に着陸するのは、そうとうの困難と勇気をともなうようだ。
「こうなったら、飛行場まで飛んで、最悪胴体着陸……でもそのまえに、あのお気楽娘に一回くらいあたしの機銃を……」
ふたたび高度を取ろうとする隼の脇を、高速で駆け抜ける影があった。
驚きながらも、隼も影を注視する。動体視力の良さは、戦闘機ならではだ。
はっきり、目が合った。
「あれは……五二型!?」
急上昇していく。小柄で上昇性に優る隼さながらだ。なによりその機動には、確かな自信がうかがえる。
「どうしたのよ。夜空であんな高速で、それも、まっすぐ飛ぶだけじゃない、自在に機動するなんて」
疑問はすぐに確信に、そして恐怖に変わる。
上空でインメルマンターンを決め、機首を隼に向けた五二型が、まっすぐ向かって来たのだ。
「く、来る! どうしてそんな迷いもなく……ぶ、ぶつかっちゃう!」
撃たれるのよりも、空中衝突を恐れた。
その隼の顔の間近を、ガガガガガ! 7.92ミリ機銃弾が通り過ぎる。
その正確な射撃にも増して、機体をすんででひねり、鋭いロールで隼をかすめると、
「いいかげんに退け! もう戦車どもは退却しているぞ!」
言葉を浴びせ、降下していく。
あっという間に闇に溶け、見えなくなった。と思うと、次のしゅんかんには上空後方に占位されていた。
隼の背中に冷たいものが走る。
もう戦意はすっかり消し飛んでいた。
それでも、
「な、な、なによ! やれるもんならやってみなさ、ぃ……きゃあああっ!」
ドッ! 二十ミリ機関砲の一斉射が、こんどこそ隼をとらえる。翼の一部を貫き、破片が飛び散った。
「次は隼、おまえを直接狙う。どうする? 退くのか、それともここで落とされたいのか」
「うぅ、ぅ!」
「二十ミリはおまえの豆鉄砲とは違う。一発でも当たればバラバラに砕け散るぞ。それでもいいのか、と聞いている。そもそも我らは同じ日本の軍、戦ういわれなどはないはず」
たたみかける五二型。
武装の貧弱さは隼のもっとも気にするところだ。
その分、無類の軽量さから、上昇力なら誰にもひけはとらない。
しかしこんな夜空で、どっちが上か下かもおぼつかないのでは、自慢の上昇力もまったく封印されてしまう。
「……どうするの? ここで突っ張っても、もうあのバカ戦車どもは勝手に撤退しちゃってるし、ぁぁあ! んもぉ! わかったわよ! あたしの負け! 負けよ! 今日のところは退いたげる。でも……」
そこまで言って、くやしさがMAXにこみ上げたのだろう。
キッ! と振り向くと、
「お、お、おぼえてなさぃよぉお!」
まさに捨て台詞。
それだけ吐き出すと、隼は一散に逃走へ入った。
排気炎をきらめかせながら、夜空の向こうへと溶けていく。
「終わった、か」
「おかえり!」
「おかえりなさい、さつき!」
九九艦爆と九七艦攻が迎える。
「やっぱりさつきだったのね。なによ、どうしたっていうの!?」
「すごい、やっぱり、さつき姉さまは」
二二型、三二型も並んでいた。目を見張る。
その彼女たちの前、きわめて安全、確実に着陸を決めると、五二型はゆっくりと宿舎へと歩み寄る。
「さつき、さん。良かった、無事で……ぉ、お!」
同じく出迎えた防人の声が急に奇妙なうめきに変わったのは、歩み寄るなり五二型が抱きしめたからだ。
「礼を言う、防人」
「じゃ、じゃあ」
「うまくいったんだな! 改造は」
九九艦爆が防人の言を引き取った。五二型がうなずく。
「うむ。わたしの中で見事に機能している。これで夜間戦闘能力を身に付けた、と言っていいだろう」
中で、というとき、五二型の口調がかすかにはにかむような調子を帯びたのに、気付く者は幸いいなかったようだ。
というのは誰もが、
「すごい! やっぱりさっきの、さつきのフライトは」
「夜間戦闘能力の、たまもの、だったんです、ね」
二二型、三二型のように、機能への興味に集中してしまっていたからだ。
「でもレーダーのようなものは、なかったような……外から見た感じ、ですけれど」
九七艦攻の問いには、
「レーダーではない。そこまでの完全な夜間飛行、戦闘能力ではない。いずれ、そこのところも課題にはなってくるだろうが、な」
「だったら、どんな」
と防人。自分で五二型を「改造」したはずなのに、その中身についてはじつは、わかっていなかった。
「わたしの「改造」、それは計器飛行能力の大幅な向上、と言ったらいいだろう」
「計器飛行能力? それならわたしたちだって」
「大幅な向上……ぁ、そう、か」
計器飛行能力は、航空機なら誰でも持っている。
高度、速度、方位、飛行姿勢など、計器で表わされるそれらデータは、本来、通常の飛行の助けとなるもの。
とうぜん、彼女たち戦闘機、攻撃機なども、それらの「感覚」は持っている。
あえて視界を閉ざし、感覚だけで飛ぶのが彼女たちの「計器飛行」だが、今回、五二型はそれを極限まで研ぎ澄ませていた。
「じゃあ、計器飛行だけで、あんなに鋭く素早い機動を」
「本来なら、誰でも持っている能力だ。ことに、戦闘機ならばな」
五二型に言われて、
「うっ……そう、ね」
「は、ぃ」
落ち込む二二型、三二型。
「肩を落とすな。わたしもそうだったのだ。有視界飛行に頼りすぎて、計器飛行を磨くのをすっかり怠っていた」
「それであの飛行か。すごいな」
「でも、レーダーではない、ということなので、敵がはっきり見えたりしたわけではないのですよね?」
九七艦攻の問いはもっともだ。
研ぎ澄まされた計器飛行で自身の状態を正確に把握できても、暗闇に敵が見えるようにはならない。
「それは、にい子のお手柄だな」
「にい子の?」
防人までが言う。五二型が笑った。
「あいつが翼端灯を点けていたおかげで、隼もつけていた。衝突防止灯や航行灯までもだ」
「え、そうなのか」
「それじゃ満艦色ですね」
九九艦爆、それに九七艦攻が笑う。もう答えがわかったのだろう。
「どういうこと、なんだ?」
まだわからない防人に、
「あはは、つまりこうね。夜間戦闘したことないにい子が、翼端灯を点けて飛び立った。隼も応戦しようとして、つい翼端灯なんかを点けちゃった」
「にい子ちゃんに、つられた、んですね」
「どちらも夜間戦闘に不慣れで、最初は飛ぶつもりなどなかったから、点けたまま戦っていたのだろう」
「そっか、相手が見えきゃ、戦えないからな!」
「にい子ちゃんらしいですね。でも、隼ちゃんも付き合いがいいというか」
「敵はともかくさ、自分だけ消して、姿を隠そうって頭はなかったのかしら」
「それだけ、きっといっぱいいっぱい、だった」
最後に五二型が。
「わたしも合わせて、翼端灯を点けた。だからあいつも最後まで気がつかなかった、とも言える」
これでわかった。
夜間飛行では、翼端灯のほか、航行灯なども点ける。
翼端灯は右に緑、左に赤。航行灯は尾部に白の、それぞれ点灯。
衝突防止灯は機首に赤の点滅だ。
だがもちろん戦闘では消してしまう。相手に自分の位置が知れるからだ。
「なるほどな。たしかに、にい子らしいっていうか。あれ? そういえば、にい子は?」
わらいかけて、防人。
「そういえば、見えないわね」
「どこかに、着陸した、といいけど」
二二型、三二型も空を仰いで。しかし探しに行くでもなく、基本、深刻さはないようだ。
「でもさ、胸でなくても、よかったんじゃないか」
九九艦爆が言えば、
「そういえば、さっきの「改造」ですけれど」
九七艦攻も。九九艦爆と異なって、冷やかしのニュアンスはない。
「それ、なんだけど。さつきさんに言われて、胸にさわって……あ、手は動かしてないぞ! 揉んだりしてないからな!」
「誰もそんなこと聞いておらん……そうだな。直感のようなものがあった。防人なら、きっと補給以上のことができる。この状況で、わたしが望むものを、きっと与えてくれる、と」
「それで胸を出す?」
「胸は! すべての、基本であろう。もじどおり、われわれにとっても心臓部だからな」
五二型がちょっと鼻白む。
けれど防人。
「あ、あの! やっぱり手を握るのとは違うなって、それこそ、心臓に近いかもしれないけど、こう、ダイレクトに伝わって来るんだよ」
(さつきさんの、脈動、流れ、感じが……!)
そのとき、防人の作業アームが自動的に動き、五二型の身体に吸い込まれるように埋没していった。
思えば、あれが「改造」だったのだと思う。
五二型が望み、防人がそれを受け止めた上での、補給を超えた能力。
お互いが深くシンクロしていることで可能となった。
(あんなことが、オレにできるなんて)
まだ実感のない防人。
だが身体の中には、これまで以上の充実感がみなぎっている。
「あれが……オレの能力なら」
「そうそう。だったらさぁ、わたしにも! 分けてちょうだい! 夜間戦闘能力の改造、してよ、防人!」
とつじょ、グッ、と引き寄せられた。二二型に抱き寄せられる。というよりはがい締めに近かったが。
「あら、わたしにもお願いしますね、防人さん。もっとお互いに信頼が必要だ、ということでしたら、いっぱいお付き合いも、させていただきます」
九七艦攻も、身を擦り寄せて来る。
「おいおい、抜け駆けするなよ。防人、あたしも忘れちゃ困るんだからな」
「お願い、しま、す!」
九九艦爆、三二型までも。
「いや、あの! キミたち、おまえら! ちょっと、待て! オレはそんなんじゃ……おおおい、話を聞けってば!」
これはとつぜんのモテ期なのか。
いやしかし、
(相手はみんな戦闘機に爆撃機で……オレも補給車だった)
「さつき、さ……」
つい、助けを求めるように、探してしまう。五二型はといえば、そんな防人たちに背を向けて、宿舎へと歩き出していた。
そして、
「ふぁぁ……ここ、どこだろう。まだ飛行場まで遠いのかな」
こっちはかなり、忘れられ中の二一型。
暗闇の中をふらふら、おぼつかない足取りで進んでいた。
「うぅぅ、脚くじいちゃった。着陸で転がって、泥だらけ。みんな、どこぉ!? なんだか冷たくないですか。少しくらい探しに来てくれたって。……防人さぁーん!」
夜空にこだまする。
そんな二一型の声が聞こえたわけでもないだろう。
飛行場の向こう、崖の上に立つ海軍艦艇の庁舎。その重厚な建物の最上階の窓に人影がひとつ。
しばらく何かを見守るように佇んでいた。