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兵器擬人化異世界で補給車のオレがメカ美少女にMMD(モテてモテてどうしたらいい)!?  作者: すずきあきら
第一章 墜落したらそこは兵器擬人化異世界!
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4 オレが補給車?


「……補給、車? オレが」


 飛行場付きの建物の一室。

 屋根の上に管制塔と称する櫓を乗せたそこは、指令室、と呼ばれる。

 いまそこで、防人は五二型の説明を聞いている。傍らには、二一型や三二型、二二型らが並んでいた。


「そうだ。正確には補給駒、補給廠……補給工廠といったところか。遅れたが、中島防人、おまえを正式に、我が部隊の補給係として迎え入れる。よく来てくれた」


 どこまでも冷静な五二型。表情もほとんど変わらない。


「や! ちょっと、待ってくれよ! オレもその……兵器だっていうのか。補給係? これまた変な、てかしょぼい感じだな。どうせなら、ものすごい最新の戦闘機とか、でっかい戦艦! そんなもんになれないのかよ」


 防人の口から、戦艦、の言葉が出ると、場がどことなく微妙な空気を帯びる。

 しかし防人のほうも、とおりいっぺんの軽口を叩いてみせたが、内心はかなり焦っていた。


(じょうだんじゃないぞ、この異世界でオレも人間だか機械だかわからない兵器だってのかよ)


 いまのところ、身体に異常は感じない。

 乗っていた旅客機から落ちて、二一型に助けられたとき、隼にからまれ、抱きつかれたとき、金色の粒子が身体から漏れ出して、


(オレの手や脚も、メカみたいになって)


 背中から多数の作業アームが伸びて来た。

 けれど、そのときも気持ち的にはずっと防人のままで、急にメカと合体したとか、ロボット的な気分-どんな気分なのかはわからないが-になったわけでもない。

 あのしゅんかんを除けば。

 これまで感じたことのない高揚感、全身が震えるような……。


「どうした? なにか思い当ることでもあるのか」

「へ? ……ぁいやいやいや」

(あぶないあぶない。あんなのがよかった、とか、マジ盛り上がった、なんて言ったら、完全にこの世界の補給係決定だぜ)


 いいか悪いかは別として、それは防人がこの「異世界」の仕組みに組み入れらてしまうことを意味する。

 だが、もともとの世界とはどれほど異なるとしても、同じ世界にいて、二一型や五二型などの兵器少女たちと、防人とがまったく異なる存在、などということもまた、ありえるのだろうか。

 ようするに、


「この世界って、機械か人間かわからない、兵器の女のコ……女性しか存在しないってことだから」

「そうなるな」

「ん、待てよ。オレは、男だし」


 そこで振り出しに戻る。


「そうだ。この世界には、おまえの言うとおり、我々のような存在しかない。それが男と女でいうところの、女なのもわかっている。そしてもうひとつ、男、もいるということ。そしてそれが、おまえだというのも、な」

「それだよ、それ。なんで男がオレひとりだけなんだ」


 ここが核心だ。しかし、


「わからん」

「は」

「いつか、来る、現れると信じられていた。そしておまえが来た。そこになんの疑問もない。それ以上は考えても無駄だ」

「簡潔、だな」

「軍人は簡潔にして明瞭。無駄なことを考えていては判断に迷いが生ずる」

「なるほど、だ」


 軍人、その言葉どおり、人かどうかは別として。

 五二型の考え方が正しいかは置くとして、この世界にいる以上切り替えなくてはならないのは防人もわかる。


「よし、わかった。オレの役目は、というより、オレは補給係だな。で、なにをどう補給する?」


 ここのところは聞いておかなくてはならない。

 だがこの問いにもまた、


「わからん。……済まないが、それがほんとうのところでな。先ほども言ったが、男が現れたのも初めてなのでな。その仕事、能力の範囲はまだ未知数というしかない。だがさし当たって、燃料と弾薬の補給はたのめそうだと聞いている」

「燃料と弾薬。燃料ってガソリンだろ? やっぱり、にい子やあんた……五二型さんも、ガソリン飲んで、動くのかよ」


 そして弾薬。機関銃の弾丸を、これまた身体のどこかに……。


「違います!」


 声を上げたのはにい子だ。立ちあがっている。


「違うって」

「ガソリンなんて、飲みません! それに、もう防人さんは、わたしに補給をしてくださっていますよ。隼さんにも」

「じゃあ、あれが……」


 例の金色の粒子。そして見えた、メカアームなどが。


「そういうことのようだ。三二型、こっちへ。防人と手を握ってみろ」

「ふぇっ!? は、はい……」


 五二型に言われ、立ちあがった三二型は、おずおずと防人へ手を伸ばす。差し出された手を、


「いいんだな。ごめん」


 防人が握った。

 とたん、


「ひゃぅ!」


 三二型の顔色が変わる。

 声を上げ、身体を硬直させる。けれどすぐに、その表情は和らぎ、ポゥッと紅潮してくると同時に、


「……ぁ、あぁ」


 さっきとは違った声が、その唇から洩れ始める。

 見ていたにい子や、二二型も、


「こうやってみると、あの、なんだか」

「わりとエッチ、かも、ね」


 頬を染めるほどだ。


「もういい。離れろ」


 五二型が言うが、三二型は朦朧としたまま動かない。


「おい!」

「ほい、っと!」


 見かねた二二型が、三二型の肩をつかんで引きはがす。


「ぅおわ!」


 しゅんかん、防人も声を上げた。それまでの心地よい流れが急に絶たれたようなショックを感じたからだ。

 三二型のほうはといえば、


「大事無いか」

「は、はい、ぃ」


 五二型の問いに答えるものの、まだ顔が赤い。動悸も収まらないのか、胸を押さえている。


「どうだ」


 重ねて尋ねられて、ようやく、


「はい……ぁっ」


 とたん、目を輝かせて、ギュン! 機体を呼びだす。銀色の粒子も鮮やかに三二型の身体に飛行メカが現れると、


「燃料が、満タンです。それと弾丸も! オイルなんかも、なんとなくきれいになっているような……」


 報告する。


「なんだか機体も、ピカピカになってるみたい。すごいね!」


 二二型も驚きに目を見張る。


「そういうことだ」


 五二型に言われ、


「そういうことって……でも、オレも」


 防人にしても、なんだか気分はいい。高揚感はまえにも体験したとおり。頭も冴えて来る。

 三二型に「補給」した、と言っても、防人のほうでなにかを失った、減らした、わけでもない。


「わかっただろう。我々は燃料や弾薬など、基本的なものは本来、各自が直接補給する」

「でも、オレがいなかったこれまでは」

「回りから取り込むのよ。息をして酸素を吸い込むみたいにね。大気とか大地、つまりはこの空間から、ってことね」

「ただし、自然に取り込むだけでは、とっても遅いんです。なので基地には補給漕があって、一回の飛行ミッションのあとは、カプセルで一日補給、って感じだったんです。補給漕は、ケガをしたときの修理も兼ねているんですよっ」


 二二型、それに二一型が教えてくれる。


「け、けど、それより防人さんのほうが、だんぜん、早いし、すごいです。それに、気持ちい、ぃ……ぁっ」


 言ってしまってから、口を押さえて頬を染める三二型。

 防人は、


「空気を吸うみたいに、燃料や弾薬を……じゃあ、爆弾とかも、勝手にできちゃうってことか」

「いや、爆弾などの大型物資は、輸送機などが運んでくる」

「なんだそりゃ!」


 コケる防人だが、いちばん気になることが。

 それは、


(燃料なんかは、息を吸うみたに空間から取り込む。それって「気」みたいなもんか。それはいいけど……)


 ググゥ~。音が鳴った。

 防人の腹だ。思わず腹を押さえて、


「いやぁ、次々立て込んでたんで忘れてたけど、落ち付いてきたら急に腹が減って来た。ははっ、そういえば、昼の機内食からこっち、なにも食べてないし。ていっても、みんなはカスミを食うみたいに、空間から取り込んでるんだよな。てことは、腹が減るのはオレだけで」


 防人の「補給」はどうしたものか。

 最悪、


(飛行場に生えてる雑草とかを、煮たりして食うとか……うぅぅ)


 覚悟した。

 ところへ、


「そんなことないよ!」

「あらあら、お困りですかぁ~」


 とつぜん声が。

 指令室のドアを開けて入って来た少女。いや、これまでの零戦たちと異なって、少し大人、年上な感じのふたりだ。

 それに大柄で、にい子などより頭ひとつ背も高い。

 長い黒髪をひっ詰めて縛り、背中に垂らしたひとり、と、明るい栗色の髪をふんわりと広げたもうひとり。


「九九艦爆さん、九七艦攻さん!」


 にい子が声を上げる。


「よ! 男が来たんだって。見に来たよ! あんただね。ふぅーん、ちょっとたよりない感じだけど」

「あらぁ、いい感じだと思いますよぉ。うふふ、いっぱい補給してもらえそう。楽しみですねぇ」


 言うなり、防人の側へ。

 九九艦爆はさっそく防人の髪をさわったり匂いを嗅いだり、チェックに余念がない。九七艦攻のほうは、防人をじっと見つめて微笑んでいる。


「あ、ど、どうも」

(こんどは艦爆と艦攻? 戦闘機とは違うんだよな。なんだか雰囲気も、ちょっと、だいぶ違ってるぞ)


 タミヤのプラモでそれらが、爆弾や魚雷を装備して敵艦などを攻撃する機体だ、とわかっていても、女性として現れると、またそれは別だ。

 防人もふたりを見る。

 大人びた顔立ちもそうだが、零戦たちが基本スリム、スレンダーなサラブレッドといった細身なのに対し、身長もあり、なにより身体の、


「ぅん? なに見てんだ、こら!」

「ふふふっ、いいんですよ。見たいだけ、ゆっくりご覧になってください。なんなら、ふたりきりでゆーっくり、ね!」

「ぁ、いや」

(ボリュームが!)


 ふたりが近づく。九九艦爆は、椅子にかけた防人の側に立って見下ろしているし、九七艦攻などは屈みこんで後ろから、背もたれごしに防人に密着して来る。

 なんといってもはっきり目立つのは、制服の胸元をグッ、と押し上げている胸の大きさ。それに、ウエストのくびれはさておいても、腰回りのボリューム感だ。

 みずみずしい腿の太さなども、馬力、地力の大きさを感じさせる。


「まだ早いが、防人のこともある。夕飯の時間か」


 五二型が言う。


「夕飯? じゃあ、その「気」を取り込むだけじゃなく、ふつうにご飯も食べるのか」


 驚き、感心する防人。


「もちろんですよ、防人さん!」

「息をするだけじゃ、お腹は膨れないでしょ? つねに備えるためにも、三度の食事は欠かせないわよ」


 にい子、二二型も言う。


「なんだ、メシも出るのか。やった!」

(それじゃますます、人間と変わらない……でも、燃料や弾薬は、空中から取り込むとか???)


 ますます釈然としない防人ではあった。

 が、空腹はそれこそ、背に腹は代えられない。


「そのようすなら、食欲がない、なんてことはなさそうだな。すぐ用意するから、たんと食べなよ」」

「この基地の食事はおもに、わたしたちが担当して作っているんですよ。ふふ、今日は歓迎メニューです」


 と、九九艦爆と九七艦攻。


「マジすか、やった!」

「わぁい! 歓迎メニューですって! 九九艦爆さんと九七艦攻さんの作ってくださる食事は、いつもすごーくおいしいんですよ!」


 防人だけでなく、二一型も大喜びだ。


「じゃあ、さっそく用意するよ。あとで食堂に来な」

「お待ちくださいね」

「うむ、たのむ」


 五二型が軽くうなずく。

 ふたりは防人に、


「改めて、九九式艦上爆撃機だ。よろしくな」

「九七式艦上攻撃機です。よろしくお願いしますね」


 手を振り、ウインクすると、指令室を出て行った。

 その後ろ姿を、ドアが閉まるまで眺めながら、


「へぇー。ああいうタイプもいるんだな。戦闘機とはまた違うっていうか」

「はい。いまはいませんが、定期的にやって来る輸送機さんとか、偵察機さんなんかもいます。やっぱり違いますよ」

「そうそう。偵察機はけっこう脚が速いのよね。ときどき、追いつけないくらいよ」

「輸送機さんは、とってもあったかくて、やさしい、ですし」

「ならば、夕食まで解散、というところだな。防人、ところでおまえの部屋だが」

「待ってくれ。そこんとこだが、はっきりさせておきたい」


 五二型の言葉を防人が遮る。その口調に、二一型たちも聞き入った。


「なにか、聞きたいことがあるのか。あるいは、言っておきたいことが。どちらにしても、この機会に済ませておくといい」

「ああ。まず、にい子や五二型さんたち、この世界の住人、ていうか仕組みはなんとなくわかった。世界観設定は了解ってわけだ」

「うむ」

「そのうえで、オレが補給……ユニット的なのもわかった。兵器も人も補給は重要、てか、欠かせないわけだし、『大戦略』シリーズもプレイして、補給ユニットが大切なのもわかってる」

「大戦略?」

「PC発のウォーシミュレーションゲームのことだ。まぁ、そこは聞き流してくれ。つまりオレもまた、この世界の住人のひとり、世界観に組み込まれてるってことだ。けど、まだオレはこの基地にやっかいになるって、決めたわけじゃない。つまり五二型、あんたの部下とか、命令に従うとか、まだ決めてないってことだ」


 言いきった。

 防人としても、存外に思い切った発言だ。

 けれど、


(中途半端はダメだ。思ったことをしっかり伝えないと。この世界でオレが生きて行くって、どういうことなのかって)


 つまりはそれが、防人のこの世界での生き方、立ち位置となる。


「防人さん! わたしたちといっしょなの、イヤなんですか?」

「そうよ、ご飯だって食べてくんでしょう。もう、サクッ、と仲間になっちゃいなさいよ。ねえ」

「いっしょに、いてくれると、心強い、です……」


 二一型たちが言う中、五二型はじっと防人の目を見つめていた。

 やがて、口を開く。


「わかった」

「五二型姉さま!」

「最初に見つけたにい子の気持ちもわかる。が、防人の考えも理解できる。ここは彼のしたいように、まずはさせてやろうじゃないか」

「いい、のか」

「ああ。かといって、食事はなしだ、などとケチなことは言わん。イヤでなければ、この基地にいるといい。気の済むまでな」

「ほんとうですか! よかった、防人さん!」


 よろこぶにい子をしり目に、五二型が席を立つ。


「そのうえで、答えをだせ」

「ぁ、ちょっと! 待ってくれ」

「まだなにかあるのか」


 振り返る五二型に、


「呼び方を、考えたんだ。にい子はいいとして、五二型も二二型も三二型もみんな、零戦だろ」

「そうだが」

「さつきさん、てどうかな。ほら、五月は皐月、だろ? 五二型さん、じゃ長いし感じがいまいちだし、さ」


 防人の言葉に、


「さつき……か」

「さつき、ねぇ。へえー」

「いい、名前」


 と、各人。当の五二型は眉をひそめるかと思えば、少し考えたあと、


「いいだろう」

「え、いいのか、ほんとに」

「うむ。われわれの間ではいちいち名前を呼び合わなくとも、目や機体の機動で意思疎通をはかることができる。だがおまえとは違う。その場合、簡潔な名称ならば、よりわかりやすくてよい」

「お、ぉ。いろいろ理屈はあるけど、ようするにOKってことだな」


 防人が言うと、


「ああ。それに……いい名だ」


 五二型はかすかに微笑んだ。


「いいないいな! ね、わたしにも、つけてよ。ねぇ!」


 たちまち、二二型がテーブル越しに身を突き出して来る。


「わかったわかった。てか、もう考えてあるよ。二月は、えーっとたしか如月だ。だからきさらぎさん、だな」

「きさらぎ! うん、かっこいい!」

「じゃあ、わたし、は」

「三月は弥生で決まりだ。三二型は、やよい、だな」

「やよい……うれしい、です」


 次々と呼び名が決まる中、


「わたしは、なんですか? 防人さん!」

「にい子は、にい子だろ。もう決まってる」

「ええー!」


 ショックを隠せない二一型。


「そこをなんとか! かわいい名前、防人さんにつけてほしいです」

「いや、にい子でいいよ」

「イヤです! 防人さんがつけた名前がいいんですー!」

「でも二月の如月はもう、二二型のきさらぎさんになっちゃったし」

「ふふっ、いただき! ね!」

「ああーん、わたしも名前欲しいのにー。ずるい! みんなずるいです、防人さんに付けてもらって! うらやましいー!」


 なおもねばるにい子だったが、どうやら名前はそのまま、新しく付きそうにはない。


「……」


 まだ続く喧騒を背に、五二型は指令室を出る。部屋ではなおも、


「なにかありますよね! なにか、考えてくださいよー」

「しかたねえなあ。じゃあ、二一を逆にして、十二月で師走、しわす、はどうだ!」

「ええー、しわすなんてイヤですー、シワシワみたいでー」

「贅沢言うなー!」


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