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兵器擬人化異世界で補給車のオレがメカ美少女にMMD(モテてモテてどうしたらいい)!?  作者: すずきあきら
第一章 墜落したらそこは兵器擬人化異世界!
4/30

3 零戦姉妹


「……ここが、基地」


 二一型といっしょに歩いて約三十分。

 防人が到着したのは、一面の平地。ざっと言うと、


「高校のグラウンドのデカいやつ、って感じか」

「はい。飛行場です。向こうが指揮所や宿舎になっています」


 二一型に言われて目を向ける。平地の向こうに、これまた高校の校舎のような建物が見えた。

 校舎、といっても、現代風のものではとうぜんなくて、


(映画に出て来る、田舎の学校って感じだな)


 生徒が数クラスしかないような、古びた木造校舎、というふうだ。

 ここへ来るまでの道々も、二一型と話をした。

 それでわかったこと。

 この陸地はやはり島で、中つ島、と呼ばれている。広さはざっと、十平方キロメートル。


「えーと、それって東京ドーム何個分だ?」

「東京、ドームって、なんですか?」


 二一型にはとうぜん、答えられるはずがない。

 ちなみに、防人に代わって換算すると、ざっと二百個分くらいである。小さいながらも、小高い丘や森、川もある、れっきとした島なのだ。

 飛行場は海沿いに作られている。

 海岸は鋭い崖になっていて、断崖がそのまま海へと落ち込んでいるふうだ。

 つまり飛行場は崖に面して、海を見ながら、海からの風をつねに受ける、そんな位置にあった。


「見晴らしは最高、ってとこか。でも」

(この島には……)

「わたしたち、日本海軍の航空隊が常駐しているんですよ!」


 明るく零戦が言うから、


「航空隊。それでさっきの、隼も」

「あぁ、隼さんは、違います」

「え、だって、二一型……にい子、さんみたいな、ほら、飛行機が、女の子で」

(なんて言ったらいいんだよ。てかキミたち、ほんとに人間? それとも)


 いちばん聞きたいところを堪えて、防人が問うと、


「隼さんは、陸軍さんですから」

「陸軍」

「はい。わたしたちは海軍。隼さんたちは陸軍。基地も違います」


 ということで、隼のいる陸軍の基地は、この海軍の飛行場から丘ひとつ向こうにある。その間の距離は、わずかにたったの二キロほど。


「同じような飛行場なら、ひとつにすればいいんじゃないのかな」

「え、陸軍さんと同じ基地に、ですか? 無理無理無理! それは無理です」


 ほかのことはたいてい笑って答える二一型が、そればかりは、と真剣に否定する。首を振る。


「なんで? にい子さんだって」

「あ、にい子、でいいですよ。さん付け、なんて、恥ずかしくって」


 かすかに、頬を染める二一型。


「恥ずかしい、そういうもんか。とにかく、にい子も隼も、同じような飛行機、っていうか」

「それが、ダメなんです。……わたしは、いいと思うんですけどね。飛行場の整備だって大変だし、どうせちょっとしか離れてないのに、燃料や弾薬の補給だって別々で。いっしょだったら、いろいろ手間も省けて、休める時間も多くなるし、いいのにな、って」

「だったら」

「でもダメです。わたしたちといっしょなんて、隼さんが、ぜったい承知しません。それにこの基地でも、姉さまたちや、ほかのみんなが」

「許さない、ってわけか」

「はい。でも忙しいんですよ、滑走路の地ならしとか、すぐ雑草が生えちゃうから年中取ってないといけないし、ちょっとでも凸凹があると事故に繋がりますから、それはもう気を使うんです」

「へー、それは大変だな……あれ?」


 零戦の話を聞いていた防人だったが、さっきの隼の着陸や離陸を思い出す。防人を伴って、零戦が降りて来たときもそうだ。


「ほとんどそのまま、すたっ、て感じで降りた、よな。飛び上がるときだって、助走もなしで」

(垂直離着陸ってレベルじゃないぞ)


 防人の疑問が、表情に出ていたのだろう。

 二一型は、


「い、イヤですよぉ。滑走路は、気持ち! そう、気持ちですから!」


 笑って、防人の背中を叩く。


「げふ! いや、そういうことでいいのかよ……」


 釈然としない思いはありながらも、もっと大きな疑問が防人の頭を占める。その答えとして二一型が言ったのは、


「この島ですか? ここにいるのは、わたしたち、日本の軍だけです」

「あのさ、軍っていうと、こう、むさいおっさんがたとか、オレみたいなひょろくさい若造って感じで、つまりは全員男、男、男! って感じなんだけど、でも、にい子が言ってるのは、そうじゃないんだよな。つまりみんなにい子や隼みたいな」

「はいっ! みんな元気な、わたしみたいな女の子ですよ!」


 その言葉。

 文字どおり受け取れば、この島には女性、それもおそらくは若い女子しかいない。若い、とはどこまでを指すのか、は、ひとまず置くとして。

 加えて、軍隊しかいない、とのこと。

 となればそれは、零戦や隼のような、身体に飛行機メカを自在にまとわせることのできる少女たちに限られる。


「……こりゃあもう、あれ、しかないぞ」


 二一型との会話を心の中で反芻していた防人だったが、飛行場をながめながらつぶやいた。


「えっ、あれって、なんですか」


 無邪気に聞いて来る二一型。

 わずかにまだためらいがあった。けれど、


「異世界、さ」

(異世界、しかねえだろ。オレは間違いなく、修学旅行の飛行機から落ちて死にかけてた。それを助けてくれたのが、にい子、零式艦上戦闘機だ! 女の子で戦闘機で! それってもう!)


 二一型は、防人以外の人や物も、旅客機そのものもまったく見ていないという。

 やはり防人だけがこの「異世界」へと転移して来た、そう考えるほかない。


「異世界? ここが、ですか」

「ああそうだ。にい子にしてみればこっちの世界だから、異世界って言われるのは違うかもしれない。でもオレのいた世界とは違う。もうひとつの……ひとつかふたつか、異世界の数ってのはわからないが、とにかく別の世界ってことだ」

「別の世界、なんですね」


 反発、反論されるかと思っていたら、二一型は意外にも、ニコッと笑って、


「でも、よかったです。防人さんが、別の世界から来てくれて」

「よかった、のか。オレが」

「はい。だって、男の人って、初めて見ました! 初めて、さわっちゃったし、初めて……」


 そこまで言うと、急に頬を染めて目を逸らす。

 けれど、チラチラと防人に視線を走らせる。


「お、おい!? オレ、なにもしてないから。初めて、なことはなにも……あぁ、あの、金色の粉が出てきて、か」


 それならば、防人にとっても確かに初めて、だ。


「聞いてはいたんです。でもほんとうだったなんて。それも、わたしが出合えるなんて、すごくすごく、感激です!」

「ぁあ、そう、か」


 メカと合体? した少女しかいない世界で、しかし男の存在もまた、信じられていたのだろう。

 つまり防人は、


「伝説の勇者か! 救世主、ってところだな!」


 いずれにしろ、チートな能力を持っているに違いない。

 なにしろそれが、


(「異世界もの」のお約束だからな!)


 してみるとあの金色の光る粒子はそのへんりん。


「いずれ、光る矢を空中で作って飛ばすとか、この手からビームが迸るとか、あるぞ、これ、ぜったい!」


 敵を一撃でバタバタ倒し、二一型や隼にうっとり尊敬の目で見られる。そんな将来が、もうすぐそこだ。そう思った。


「そういえば、敵、って……」


 防人が言おうとしたときだ。

 飛行場の向こう、崖の際に沿ってもっと大きな建物があるのを見つけたのだ。

 こっちは飛行場の建物とは違い、石造りで、それこそ昔の銀行とか市庁舎などをほうふつとさせる。


「あっちは」

「あそこは……」


 二一型が説明しようとしたときだ。


「おかえり、にい子!」

「あの、おかえりなさい……」

「御苦労だったな」


 いっせいに声が降って来た。それはまたも、


「ぅお、空から!」


 三人の少女。もちろん、飛行機のメカを背負い、あるいは装着している。

 ひとりはすぐに着地し、もうひとりはいったん飛び過ぎて急上昇、そこから急降下、と転じて、


「きゃあっ!」


 鋭い着地を決める! つもりが、バランスを崩し、前へとのめる。結果、ダイブするように、


「うぁあ!?」


 防人に突っ込んだ。結果、防人が受け止めようとして受け止めきれず、ふたりそろって地面に倒れ込む。転がることに。


「ぁあ! 姉さま!」

「だ、だ、だいじょうぶ、でしょうか」

「なにをやっている、まったく、二二型は」


 二一型と、他のふたりにも言われて、


「ぁ、痛たたた……ぁはは、ちょっと失敗しちゃった」

「しちゃった、じゃないですよ、防人さんが!」


 あわてて駆け寄る二一型。それで気付いたのか、くだんの少女も、


「ぁ、ちょっと! だいじょうぶ? ごめん! しっかりして」


 身を起こす。が、防人といえば、すっかり彼女の下敷きに。


「う、ぐぐぐ」


 防人の顔に当たる大きなもの。

 なかなかのボリュームがありながら、柔らかい。顔を上げると、


「きゃあああっ!」


 悲鳴が。しかし、ぶつかってきた少女のではない。


「防人さん、なにやってるんですかぁ!」


 零戦だ。顔を赤くして、手で押さえている。


「なにって……」


 ようやく焦点の合った目で防人が見ると、まさに目と鼻の先、鼻先が触れるほどの近さに白いものが。

 ただ白いだけでなく、微妙な凹凸を浮き彫りにしながら、そのものが包み込んでいる部分に食い込んでいる布。

 ありていにいえば、


「パン、ツ? ……ぬぁあ!」


 驚き、顔を逸らす防人。だがそこにはうなりを上げて回転するプロペラが。


(うわ、やば!!)


 完全に、頭からいった。最悪、首が飛んだ、そう思ったしゅんかん、


「ぁはは! なんだ、元気ね! そういうの、わたしも嫌いじゃないわよ」


 たちまち、プロペラを含めた、飛行メカ部分が銀色の粒子になって雲散する。


「た、助かった、のか、って!」


 しかしメカ部分がなくなったらそれはそれで、地面に仰向けの防人と少女が、頭と脚を反対に、上下に折り重なって密着しているわけで。


「そろそろ降りたほうがいいだろう、二二型もな」

「はは! そう思うよね、わたしも」


 笑うと、少女はようやく立ち上がる。その横に、他のふたりの少女、それに二一型が並んだ。


「ふぅ……えっと、キミたちは」


 防人も砂埃を払って立つ。向かい合った。

 一見して、制服は二一型と同じ。もう全員、飛行メカは解除している。

 となると、


(二一型……にい子と同じ、女の子だけど飛行機、それも軍用機ってわけか)


 防人の視線の先、いちばん大人びた少女が口を開いた。


「失礼した。わたしは零式艦上戦闘機五二型。この基地の司令を勤めている」


 黒髪ストレートロング。

 無造作に分けた前髪の向こうから、切れ長の涼しい眼差しが覗く。どこか古風な印象もある顔立ちだ。

 制服の上に革のフライトジャケット。ひとりだけ、スカートではなく、ぴっちりとした白のスパッツで下半身を包んでいた。

 対して、


「あ、ぁ、あの、零式艦上戦闘機三二型、です。す、すいません、あんまり出来はよくないですが……が、がんばります!」


 最後は、ギュッ、と目をつむって頭を下げる。挨拶というより、なんだか、顔を見られたくない、というふうだ。

 そんな三二型は、前髪もそうだが、肩の上でパッツン、と切りそろえた髪型が目立つ。個性的ではあるが、似合ってないのでは? というか、失敗した髪型、というふうだ。

 三二型の性格も、そんなところが影響しているのかもしれない。

 そしてもうひとり、防人にぶつかってきた元気な少女。


「さっきはごめんね! 零式艦上戦闘機二二型よ。よろしくね!」


 笑う。クセなのか、グーッ、と伸びをした。バランスのいい、長い手脚が強調されるようだ。髪は茶髪のストレートロング。

 そして防人。


「中島防人、十七歳。って、え? 全員零戦? にい子だけじゃなく、全員?」

「そうだ。驚かせたかもしれないが、見た目は異なっている。見分けは容易であろう」


 五二型が言う。


「はい! みんなわたしの、お姉さまたちです!」

「ちょっと待て! 待てよ。オレだってちょっとくらい知ってるぞ。小学生のころよくタミヤのプラモデル作ったし。型番どおりなら、にい子がいちばん数字が少ないだろ? その順だと、にい子がお姉さんじゃないか。逆だろ、逆」


 防人の言いたいことはもっともだ。

 が、


「それは、そうなんですけどー」


 二一型の反応が鈍い。苦笑したまま、固まっている。


「おまえの言うことは理解できる。が、ここではこうなのだ。私、五二型がこの基地の司令で、いちばんの長姉ということになる」

「は、はぁ」


 確かに、大人びて落ち付いた五二型が姉にするならふさわしい。だが、


(それでいいのか!)


「まぁ、いいじゃない。楽しくやろうよ、ね! 防人!」


 と二二型。

 ぐっ、と身体を近づけると、零戦=にい子よりもひと回り豊かな胸がよくわかった。


「お、おお、うん」


 あいまいにうなずく防人。つい目が、胸に吸い寄せられる。

 それを見透かしたように、


「歓迎するわよ、なんたって、とうとう見つけた男子、だもの。にい子が見つけたんでしょ。よくやったわ!」

「ぁ、はい。あ、でも、二二型姉さま、ちょっとくっつき過ぎかなぁー、って、防人さんに」

「ぇえ? 別ににい子の専用ってわけじゃないのよね? 少しくらい分けてくれたっていいじゃない。減るもんじゃなし」

「それは、そうですけど」


 にい子も、姉には逆らないようで、それいいことに、二二型は、


「それに、わたしも感じたわよ。防人とさっきくっついたとき」


 激突したときのことを言っているらしい。


「ふわぁ、って、身体が軽くなって、ぶつかった痛みなんてぜんぜんないの。それどころか、地面に当たって破損したところまで、あっという間に」

「そこまでだ」


 二二型の話を、五二型が遮る。

 五二型は改めて防人を見ると、


「とにかく、吾らの基地へ同行願おう。詳しい話はそこで、だ」


 視線で、飛行場の建物を指していた。


「ああ。この異世界の世界観設定ってヤツをオレも詳しく聞きたいって思ってたところだし」

「異世界? 世界観設定? おもしろいことを言う。まぁいい、話はあとだ」



 そう言うと、五二型は防人に背中を向けて歩き出す。

 その後ろについて、歩き出す防人に、


「わたしの話じゃ、不足だっていうことですかぁ、ひどいです、防人さん」


 並びかけた二一型が。


「そういうわけじゃないけどな、こう、論理的に組み立てられた説明じゃないと、ちょっと」

「わたし、論理的です!」

「う、うん。そうなんだけど……あ、さっきのあれ、あそこ、なんなんだ」


 二一型との話を切り上げたかったわけではないが、防人は先ほどの、石造りの大きな建物のほうを指さした。


「あれは……宿舎とか、執務のための、建物です。軍艦の、みなさんの」


 にい子の口調はちょっと、おもたげだ。


「軍艦……船の、か」


 防人は言いながら、


(まさか、船も女の子……まさか、な)

 歩いていくと、その建物の向こう、崖の下に港が見えて来ていた。


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