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4 防人の秘密


 ガラッ! 勢いよく木戸を開けて入って来たのは、


「防人」

「防人くん?」

「防人!」


 五二型、長門、赤城、三人がいっせいに振り向く。

 浴場のまえに立っていたのは、


「えっ。ええええ!?」


 驚き、声を上げる防人だった。これから風呂へ入ろうとしていたので、むろん全裸。とうぜん全裸。

 男子ひとり、風呂に入るのにいちいちタオルで前など隠さない、正真正銘全裸だ。


「防人くん、なんでっ!」


 長門がとっさに、胸を隠す。

 五二型は泰然として、湯船から半ば顔を出した胸のふくらみもそのまま。

 ひとり、先に湯船から上がっていた赤城。片手でバストを覆いつつ、投げつける洗い桶をもうつかんでいる。

 いちばん表情はマジ、真剣だ。


「わぁあ! すいません、ごめんなさ……いやでも、風呂に入れって言われて、脱衣場に服もなかったし」

(紺色ののれんのほうだって、たしか言ってたよな、きさらぎさん)


 あやまりながらも、言わなければ、と防人。

 いまはなんとか、手にしたタオルを股間にあてるまでには気がついた。


「衣類なら、当番の二一型、にい子が全員分を持って行った。着替えをまた持って来ることになっている」


 その間だったので、脱衣籠に衣類も下着もなかったのだ。


「でも、のれんの色はたしかに」

「のれんの色、ですって?」


 じつはこれも二一型。


「あ、そうだ! 防人さんを呼ぶから、のれんをわかるように、向こうのお風呂に掛けておいてって、きさらぎさんが言ってたんだ。えっと、これ、だっけ。あれ? こっち……紺色って、これ、だよね、うん!」


 結果、白字に紺色で墨書された「湯」ののれんを掛けてしまった。いっぽう、五二型たちが入っている湯には、紺地に白抜きののれんが。

 かくして、紺ののれん、と聞かされた防人は五二型たちの風呂へ闖入することとなってしまう。

 すべての元凶、二一型はといえば、いまとなりの風呂で、Bf109FやFw190Aを震えあがらせて……もとい、戯れているのだ。


「い、いろいろ失礼しましたぁ! 詳しくはまたあとで!」


 くるっ、背中を向ける防人に、


「きゃあっ! お、お尻!」

「男の、お尻が」


 逆に色めき立つ、長門と赤城。しかしもう前は向けない。


「ほぁ!? とにかく、ごめん、さよなら!」


 出て行こうとし防人の背中に、


「待て、防人」

「えっ……あっ、うぅ」

「きゃああっ!」


 呼び止められて前を向き、となると股間を隠していなかったのに気づいて、悲鳴を浴び、けれどまた後ろを向くと尻が……の防人、


「な、なんですか」


 結果、横を向くことで、五二型に応える。


「ひとつ聞きたい。おまえの父、祖父、あるいはそれ以上の先祖に、中島知久平、はいるか」

「中島知久平……は、オレの曽祖父、ひい爺ちゃんの、そのまた父さんだよ。ひいひい爺さん、かな」


 その言葉に、


「なん、だと」

「そんなことが……まさか」

 五二型と長門の反応は、驚きを通り越して固まるに近い。

「だから、その中島知久平さんって、どういう方なんですかって」

 まだわかっていない赤城には、

「戦前の、飛行機乗りで設計家で、中島飛行機の社主、でいいんだよね。ぼくももちろん、知ってる。隼や疾風を作った。零戦もいっぱい生産した。高校は、だからコネもあったけど、もうウチの父親の代くらいじゃほとんど関係なくて。航空関係に強い工業高校ってことで」

「え、そうなの、じゃあ、さつきやにい子や、みんな、陸軍機のあの子たちなんかもっと近い」

「われわれの生みの親、とも言えるな。防人はその子孫だ」

「じゃあ、あの力は、そのための」


 ここに来て防人もようやく気付く。


「ぁ、待ってくれよ、じゃあ、オレのひいひい爺さんが中島知久平だから、オレにあんな能力が? そんなの、どう関係あるんだって、ってくらいなんだが」


 正直、曽祖父の父、つまり防人からは高祖父である中島知久平のことは、頭の隅にはあってもふだんは忘れがちで、こんな異世界へ来てからも、ついぞ今まで思い出すことはなかった。


(それで得をしたってのも、損したのも、ほとんどないから、関係ないし)


 しかし五二型の言うとおり、この世界での能力が、先祖の存在に依るものなら。いやそもそも、この世界に墜ちて来たことことから!


「いや、ない」


 防人はうなずく。いつのまにか、腕組みしていた。


「なにがだ」

「だって、ないよ。もし先祖がさつきさんやにい子や、隼たちの生みの親みたいな関わりがあったとしても、だったらオレはもっと、もっとすごい役割でこの世界にいるはずだ。そうだな、たとえば」

「たとえば」

「たとえば! みんなからすれば未来から来たオレは、ジェット戦闘機のF-35ライトニングⅡとか、B型なんかVTOLだぞ、垂直上昇なんだよ、すごくない!?」


 それっぽい機種が浮かんで盛り上がる防人だが、


「それは米軍の戦闘機のようだな」


 あっさり五二型に言われる。どころか、


「あ、あのぉ……タオル、が」

「垂直上昇を表してる、とか……やだ!」


 こんどこそ、振りかぶった赤城の手から手桶が放たれた、と思うと、すんでのところで防人の股間をかすめる。


「うふぉ! あ、危ない! 大事なものがなくなっちゃったらどうするんだ! ……失礼します!」


 こっちも、こんどこそ退散。

 ところが勢いあまって、


「うわ、っとと、脱衣場の外まで出て来ちゃったぞ。でももう、さつきさんたちの風呂へは戻れないし、じゃあ、このまま正解の風呂へ!」


 衣類はあとで、五二型たちが出たのを確かめて回収すればいい。このまま廊下に全裸でいるところをまた誰かに見られたら、


「まずい。それに、寒い!」


 ひとまず正しいほうの風呂、白地に紺で書かれたほうの「湯」ののれんの風呂へと飛び込む防人。

 脱衣場はとうぜん誰も、誰かが使った痕跡もない。

 これなら安心、とばかり勢いよく浴場のドアを開けた。そのまま飛び込む。が、


「ぇ、あっ」


 固まる防人。

 目の前には、ヒノキ風呂の中を泡だらけにしたふたりの少女、いや戦闘機が。からみ合うように、こっちを、防人を驚きの顔で見つめている。


「フー、ァ、ユー! なぜ入って来たネ!」

「防人です、ヘルミナ。あのマルチパーパスサプライユニットの」


 F4Fは冷静に言うが、顔を真っ赤にしたF6Fは収まらない。


「ノー、ノー! ミーが言ってるのは、なぜユー、防人がここにいるのかってこと! 乙女のバスルームに勝手に入るなんて、シット! アンフォーギブンね!」


 特定の指を突き立てて見せる。


 じつはこのふたり。

 初めて日本の風呂に入ったはいいが、入り方がわからず、


「こんなに広くて深いバスタブ、どうやって使うデスか。お湯いっぱい! バブルバスはどこネ!」

 湯舟の前で仁王立ち。F6Fのアメリカンでダイナマイツとしか言えないグラマラスな裸身がプルッ、揺れる。


「これはこのまま入るもの。ひとり分ずつお湯を換えたりしないで、何人もひとつのバスタブに入る」

「リアリー!? やっぱりジャップ! 野蛮人ネ! 同じ湯に何人も入るなんて、アンビリーバボー! 不潔デス!」

「でも、すごくいい匂いがする。木の匂い」


 F6Fに比べれば身長も含めかなり控えめなF4Fだが、どうしてバストは十分に実っている。少なくとも、零戦たちに比べればその差はあきらかだ。


「まあいいデス! とりあえず油でベトベトなマイバディーを洗い流したいネ! すぐ入るデスよ!」

「ぁ、待って!」


 F4Fが止める間もなく、ドボッ! 掛け湯もせずにそのまま湯舟に飛び込むF6F。ザァッ! と湯があふれる。


「オー! トゥーホット! 熱いネ! でも手足全部伸ばしても届かない、大きなバスタブ、気に入ったデス!」

「そう。よかった。わたしも入る」

「でもバブルバス、ないのちょっと寂しいネ。これでいいデス!」

「それ、シャンプー」

「かまわないネ! ほら、泡、出て来たデス! フォー! いい感じ、ネ!」


 かくして、ヒノキ風呂をシャンプーで泡だらけにしながら入るアメリカ海軍艦上戦闘機たちだった。

 ふたり、からみ合っていたように見えるのは、テンションが上がりすぎて湯の中でスウィングしだしたF6Fが、F4Fを巻き込んで踊りかけていたからだ。


「……なに、って、おまえらこそなにやってるんだ。ここ、赤城の艦内で、おまえたちは招待されてなかった、はず」


 ようやくわれに返った防人が返す。さっきからF6Fに機関銃のように言葉を浴びせられて、声が出なかったのだ。

 ちなみに、またも脱衣場に衣類がなかったのは、いちおうF4Fが二人分の衣類を隠しておいたため。

 慎重なF4Fらしい、まともな配慮だ。


「ハンッ! ミーたちはおまえたちジャップとクラウツがよくないことを企んでるにきまってるから、先制攻撃しに来ただけネ!」


 先制攻撃なのに、だけ、と言い切るF6Fのメンタル。

 さすがは米帝、と防人が思う間もなく、


「ちょうどいいネ! 防人、中島! ユーも連れて行くデス!」

「はぁ!? なんだ、それ!」

「ミーたちの捕虜ネ! アワ艦隊のダメコンにすれば、もっともっと艦隊、タフになりマス! ナイスアイデア! ワンボール、ツーバード、ネ!」

「一石二鳥」


 F4Fが「通訳」する。が、そもそも日本の四字熟語をなぜF6Fがわざわざ横文字で言うのだろうか。

 そんな防人の疑問も、深く考えている余裕などない。F6Fが湯船からザバッ! 立ちあがった。


「ダメ、見えちゃう」


 すかさずF4Fが、主要部分を手で覆い隠す。

 それでもかまわず仁王立ちのF6F。

 その裸身は、シャンプーの泡が残っているものの、輝くようなグラマラスなフォルムをこれでもかと見せつける。

 なんといっても離昇二千馬力を誇るプラット&ホイットニーR-2800エンジンの、どうどうたる性能を顕現したかのようなふたつのバスト。

 パンッ! と張り切って、いまにもはちきれそうなぶどう羊羹のようだ。

 手脚もムチムチと肉づきがよく、腰回りも豊か。

 何人でも子どもを産めそうだ、と思う。

 キュッと持ちあがったアメリカンなヒップとともに、米艦上戦闘機エースの座を誰にも渡さない! と誇っているかのようだ。


「ノー、プロブレム! ミーのアーティスティックなバディーは隠すなんてノー、ノー! そのほうがクライム、ネ!」


 自信過剰、というより、


「露出趣味なんじゃないのか、よ」


 と防人。

 こうあからさまに肌を見せつけられると、思うほどエッチではない。のはいいとして、見るこっちのほうが顔が赤面する。

 ちなみにF4Fのほうは、身長、凹凸、すべてにおいてF6Fに及ばない。

 心臓部のエンジン、プラット&ホイットニーR-1830ツインワスプは千二百馬力のつつましさだ。

 まるでF6Fをダウンスケールしたかのような姉のF4Fだが、性格がまるで違うのはなかなかに興味深いところ、とも言える。


「HAHAHA! 見るなら見ろ、ネ! トゥルーにビューリホーなものは隠す必要なんてノー、ノー! 貧しいおまえたちに、ミーから与える美の施し、サプライ、デス!」


 なおいっそう胸を張る、突き出すF6Fだが、


「けどよ。その腹、けっこうポヨついてんぞ。ハンバーガーやコーラの摂り過ぎなんじゃないのか」


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